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正念場を突破するデザインとブランドを。SmartHRアートディレクターの視点

「すべてのタッチポイントにデザインを」という言葉を掲げ、ブランドづくりからデザインシステム、あらゆるアイテムのすみずみに至るまで、SmartHRのデザインを担当しているコミュニケーションデザイングループ(以下コムデ)。コムデは今、より広い視点をもったアートディレクターを求めています。今回は、2023年9月にブランドデザインユニットに入社した名和大気さんから見たSmartHRの現在地、そしてアートディレクターとしてSmartHRでやっていきたいこと、持っていたい視点について話を聞きました。聞き手は、コミュニケーションデザインOpsの関口裕さんです。


デザイナーとしてのキャリアで見出した「深度」の大切さ

関口:名和さんって何月入社でしたっけ。

名和:2023年9月です。9、10、11…3か月くらい経って、ようやく試用期間が終わったところです。

関口:僕が入社したとき言われたんですよね。「この会社では入社3か月でもう古参です」って。どういうこと?嘘だろ?と思ってたんですけど、実際3か月経ってみたら、会社がどんどん変化していくので、自分が古株になるというよりは、環境が変わるからそうなるんだということを実感しました。どうですか、名和さんは。

名和大気さんが関口さんに向かって話している。会議室の椅子に座り、背後には晴れた六本木の風景。

名和:なるほど。自分もなんとなく慣れてきて、ここで自分ができることはあるな、という確信めいたものが生まれ始めたところですね。

関口:それは素敵!今はどんなことをやり始めているんですか?

名和:今はとあるウェブサイトのリニューアル案件と、SmartHR人事労務研究所が運営している「人事労務マイスター検定」の業務にアートディレクター(以下AD)として入っています。今後はさらに大規模なサイトのリニューアルをする議論も出ていて、まだ具体的には決まっていませんがどう進めていくかという話を始めていますね。あとはちょっとずつマネジメントに取り組み始めています。

関口:入社3か月の人とは思えない(笑)。

名和:試用期間だったんですけどね(笑)。ウェブ系が自分の強みでもあるので、今は強みを発揮できそうなところにアサインしてもらっているところです。

関口:名和さんの強み、という言葉が出たところで、これまで名和さんがどんなことをしてきたのかを聞かせてもらえますか?

名和:最初に入ったのは広告制作会社でした。99%が大手広告代理店からの仕事、みたいなところです。わりと大きなクライアントの仕事をやらせてもらって、広告、飲料系のパッケージ、カタログに学校案内、ポスター……

関口:思いつくものすべて、ですね。

にこやかに笑う名和さん。横から六本木のビル群を背景に。Gジャンと黒いキャップ。かるく襟に手をかけて少し照れくさそう。

名和:そうですね。そういうグラフィック系でキャリアスタートしました。そこで3~4年働いて、そのあとが……やべ、どういう経歴だっけな。

関口:(笑)。

名和:僕、転職回数がめっちゃ多くて。SmartHRが7社目か8社目なんですよね。ええと……そうだ、もう一社グラフィック系の制作会社に勤めて、その後、上海に行きました。

関口:上海???現地採用ですか?

名和:日系のデザイン事務所に応募したんですけど、まあ僕が若かったんで「上海行ける?」って。「1週間で決めて」と言われて、翌日に「行きます」って返事して。ビザの関係とかいろいろあったので、3か月後くらいに向こうに行きました。
行った先に日本人いっぱいいるかなと思ったんですけど、まあゼロではないんですがわりと少なくて。中国語が全然わからない中でやってました。中国に進出している日本企業の広告が中心だったんですけどね。それで数か月で20キロくらい痩せたんですよね。

関口:中国で痩せちゃったんだ。

名和:水も油も合わなくて。収入も厳しかったんで、お金もないから安いメシばっかり食べて、基本毎日お腹くだしてるみたいな日々でした。それで体がダメになって、辞めて日本に帰ることにしたんです。
で、その次に入った制作会社は5年くらい。僕が入ったときはメンバーが8人くらいだったのが、辞めるときには90人くらいになっていました。立ち上げメンバーの一人だったので、そこではもう、死ぬほど働きました。

関口:時代ですね…。

名和:そこですごくいいADに出会ったんです。その人の仕事を見て、俺は全然できてないんだってことを痛感してから、その人にベタ付きで仕事を学びました。1年間で3年分くらい働いて、それを何年か継続して、今まで自分に足りていなかったものを全部取り戻す感じでした。

名和さんの話を聞く関口さん。黒いシャツ、メガネ、イヤーカフ。興味深げに頷く。

関口:自分の中で「足りてない」という感覚があったんですか。

名和:ありましたね。その人を見て「ADってすげえな!!」って。思考の行き届き感というのでしょうか、表層的ではなく、ちゃんと裏にコンセプチュアルなものがあって、それを表層に表していく行為がADの役割なんだということを実感しました。
思考に深度をもたせて考え抜かないと、本当の意味で表層をつくっていくことはできないんだという発想になったのは、その人に出会えたからこそですね。

関口:水面下にあるようなものを表層化するみたいな。それまでもがむしゃらにデザインに向き合ってきたと思うんですけど、先輩と出会うことで深い部分に気づけたんですね。

名和:そうです。それまでの自分はもう、上っ面なめてただけだったなと。デザイン、シェイプ、見栄えなど、表現の表に出てるものだけを見ていた。その先輩ADと仕事することで、裏にどういうコンセプトがあるのか、デザインに言葉として乗っているコピーだけじゃないところで、どういうことを伝えたいんだろうか、そういうことをしっかり考えるし、ものを見るときもしっかりそこを読み解くようになりました。

関口:いい経験だ。

名和:その人に出会ったことは、自分の形成期の中でマジででかい出来事です。その人が自分の師匠だと思ってます。
で、もともとその会社は紙の広告中心だったんですけど、途中でデジタル部署ができたんです。当時デジタル部署に行きたがる人は一人もいなくて。

関口:わかる。その頃はそういう感じだった!

名和:でも僕としては、これは逆にチャンスだと思ったんです。誰も行かないなら俺が行こう、と、デジタルの領域に飛び込むことにしました。
最初はマジで、作りかたも全然わからないんで、先に入っていたデジタルができる人に教えてもらいながら、いちからやっていきました。この先の時代、デジタルに移行していくのは明白だと考えていたので。いったん紙系の仕事は一切やりません、と断ち切って、デジタルのほうにどっぷり浸かることにしました。中途半端はよくないし、先に立ってデジタルをやっている人たちに失礼かなと思ったんで。
あとは自分では学習能力が高いほうじゃないと自覚していて、浸かっている時間を長くしないと体に染みこまない、体に染みこませないとデザインできないという感覚もありました。スポーツと一緒ですね。

関口:「浸かる」っていうのはどういうことなんですか? 集中するということなのか、逃げ場をなくすということなのか。

名和:逃げ場をなくすってことですね。新しいことをやるというのは、僕にとってはそれまでの自分のスキルを否定するわけではなくて、新しいベースの上に今までのスキルをアドオンすることで進化していく感覚なんですね。でもベースがなかったら乗っけられないから、そのベースを下からがっちり作っていくというのが、「逃げ場をなくす」という意味合いです。そうしたほうが早いんですよ。

関口:名和さんの言葉の選びかたを聞いていると、名和さんにとって能力、スキルを身につけるというのはすごく身体的な感覚を伴ってるんですね。

名和:そうですね。そうやって浸かって染みこませていった仕事しか、自分にはできないなと思ってて。ある意味、不器用なところがあるというか(笑)。
まあ、今はだいぶ柔らかくなりましたけど……(周りの反応を見て)あ、柔らかいかどうかわかんないですけど(笑)、けっこうずっと「めちゃめちゃ怖い」って周りには言われてきたんで。

関口:怖いというのは……?

名和:「全発言が、厳しい」って言われてました。

豪快に大笑いする名和さん。手前に関口さんの背中も見える。ふたりとも爆笑。

関口:ははは!

名和:自分のスタンスを、「お前も一緒だろう」と強要してたというか。「こうあるべき」という感じでした。

関口:いや、わかりますよ。社会的にはそれはあんまり望ましくないんですけど。僕は共感はします。なんでそうなっちゃうんですかね。今の名和さんは、すごく柔和な感じ。

名和:うーん。なんか焦るんでしょうね。自分でゼロから確立したいという思いがあって、それぐらいの強度でやらないといいものなんか作れねえよ!と思ってた。ある意味自分の作品だという感覚もあって、人と協業して作るというよりは、自分の手垢がいっぱいついた自分のものにしたいという欲求があったんでしょうね。

関口:デザイナーは、時間も力も込めまくって精度を上げていくというやりかたをしがちではありますからね。それも自然なことかもしれない。

ものごとの中心に「ブランディング」を置く

関口:話は戻って、名和さん自身がデジタル領域で力をつけていって、その次はどういう展開になるんですか。

名和:後輩を育てる、教える、というと偉そうなんですけど、自分の頭の中を貸すことで後輩のデザインがよくなるということに喜びをおぼえるようになりました。それでプレイヤーも、育成やマネジメントも両方できるポジションを用意してくれた会社に移りました。
さらに、仕事の内容としても、それまでは比較的規模の小さいウェブ系の仕事をしていたところを、より大きな規模のプロジェクトに携わるようになりました。味わったことのない大変さもあるだろうなとは思いつつ、とことんやらないと納得いかないので。

そしてそのあたりから、UI、UXに対する考え方も変わってきました。その頃流行っていたような、3Dでぐりんぐりん動くかっこいいのが最高!というマインドから、見た目の派手なものが作りたいんじゃなくて、ちゃんと機能するか、ユーザーにとって使いやすいか、そこから的確に情報がとれるか、といった根本的な機能を考えて作ることの重要性を強く意識するようになりました。そうじゃないと、自分が作ったものがどんどん使い捨てられていく危機感を抱いたんですよね。

そうすると、クライアントと話すことも変わるし、考えなきゃいけないことも変わる。さっきも言いましたが、やっぱりここでももっと深いところまで見て、その上で幅を出したいと考えるようになりました。
その後は、デザイン&デジタルテックの会社に移って、深度を深めながらデザインを提案していく、ブランディングに近い領域に取り組むようになりました。

窓ガラス越しに見た六本木の高層ビル。ガラスに映り込んだ鏡像。抽象的な風景写真。

名和:ブランディングの面白さは、僕にとっては、手法にも考え方にも「正解」がないところなんですよね。企業のブランドを作っていくお手伝いをすると、過去自分が携わったこの企業のこの部分をトレースしたらうまくいく、なんてことはあり得ないじゃないですか。ゼロから考えなきゃだめ。それがすごく楽しかったんです。
たとえば会社の中で定められたアイデンティティがあったとします。カラー、トーンはこんな感じと決められてますけど、本当にそれは正しいのか?と一回は疑ってかかって考え直さないと、自分が作ったものについて、なぜそうなるのかという話にまったく説得力がない状態になっちゃうんですよね。すでにあるものを素直に受け入れる部分と、疑う目を両方持ってないとだめなんです。

関口:それまでやっていたデザインというのは、手法、手段ですよね。ところがもうちょっと、営み自体を見直さないとブランディングはできないという。

名和:そうそう。どれだけ大きな渦を作りだす側になれるか。その渦の作りかたはそれぞれでいいと思うんですが、僕はやっぱり、ブランドを育てていくことにものすごい興味と、同時に難しさを感じているんです。この領域で自分はまだまだなんで、もうちょっと確信めいたものを掴みたい、という欲求が出てくる。

関口:受託業務の範囲だと、与件、要件がある意味壁になりますよね。例え話でいうなら、家を作りましょう、塀を作ってくださいと言われたときに、これまではかっこいい塀を作るぞ、というのを目指していたのが、そもそもこの塀、要るんでしたっけ?という話をしたくなってくる。その話ができるフィールドというのが、名和さんにとってブランディングという領域だったという。

すこし引いた視点から、二人が話しているところ。何かをイメージしたジェスチャーをする名和さん、聞き入る関口さん。会議テーブルの上にはラップトップとSmartHRカラーのペットボトル。

名和:そういうことですね。企業活動の場合は、ブランディングに紐づけるといろんなことができるんですよ。コーポレートサイトを作ってくださいという依頼があったときに、思考の中心点をどこに置くかが大切で。「コーポレートサイトを作る」じゃなくて「この会社のブランドを作るうえでコーポレートサイトを作る」を中心に置かないと最適解が出ないんじゃないかと思うんです。ウェブにしろツールを一つ作るにしろ、そこを間違うと全部こっちに返ってきちゃうんですよ。
ブランドと経営が近いところにある必要があると思っているのもそういう考えに基づいてます。ADとして、デザイナーとしてアウトプットを考えるときにはブランドという中心点があるというか、見えているのに、そこに飛び込まない理由はないですよね。

関口:すごく共感する。何かを作るというのは、ポジティブな意味で手段なんですよね。それをちゃんと手段化させるには軸が必要。どうしたいか、どうありたいかを軸にしたうえで、じゃあどんなサイト、キャンペーン、ポスターを作るのかという話を往復していれば、名和さんが抱いている課題感に迫っていける。

名和:蜘蛛の巣を張っていく感じですね。ブランドを作るうえではいろんなアウトプットがあるけど、それが全部ちゃんと繋がっていて、その企業のネットワークのようなものを作っていくのがブランディングだと思っています。

関口:さきほど名和さんがさりげなく「最適」と口にしてましたけど、最適品質ということばが僕、好きなんですよ。最高をめざすと何かを間違う気がしていて。大事なのは「より良く」だと思っていて。

名和:そうそうそうそう。すげえわかる。

関口:よかったー(笑)。

SmartHRに入る前、入ってから

関口:名和さんの中で、深度を深める大切さを知り、自分を鍛え、ブランディングと呼ばれる領域に入っていったところで、次のステップなんですが。ここまではずっと受託制作の会社にいたところを、次は事業会社へとシフトしていったんですよね。

名和:そうです。2020年までいた会社は、ウェブ業界では一定の良いポジションを築いていて、大規模で、根本から考えさせてもらえる仕事もいっぱいやったんですけど。それでもやっぱり、自分自身の中ではまだ足りない、芯食ってないな、という思いがあって。残された方法は「企業側に入る」しかなかったんですよね。

関口:名和さん、ほしがりさんなんですね。

名和:究極の飽き性なんですよ(笑)。我慢ができない。

関口:(笑)。その我慢ができないって、すごいポジティブだと思うんですよ。先を考えているっていうことだと思うんで。それで事業会社に行くことにしたんですね。それがSmartHRに入る一歩手前のところ。

名和:そうです。何万人も社員がいる大企業で。新規事業の立ち上げ部隊でブランディングをやるという役割で入社はしたんですが、蓋を開けてみたらそうではなくて。実質的にはUIデザインの業務で、今、自分が積みたいキャリアではないなと。そこで改めて自分の意思が確認できて、やっぱり自分はブランドというものにずっと触れていたい、それができる環境以外にはもう行かない、と決めました。それで今、SmartHRにいます。

名和さんのアップ。ひげを少し触りながら話し込む。

名和:SmartHRも、もともとスカウトをかけてくれたのは今所属しているブランドデザインユニットではなくて。サービスコミュニケーション側の、ウェブ周りのアートディレクターを募集していたんですよね。でも僕自身はそこに軸足置くよりは、同じコミュニケーションデザインの範囲でブランドに関わるにしても、より近いところで携われたほうが、今まで自分が得てきたものをちゃんと還元できるし、自分の広い意味での能力を伸ばせるなと思いました。それでカジュアル面談のときに、なんとかお願いできませんか、と相談しました。そして今の上長にあたるマネージャーのbebeさんに会わせてもらって……という経緯です。

関口: どうでした?bebeさんに会って。

名和:もともと関口さんとbebeさんの対談記事を読んでたんですよ。それはSmartHRに入るかどうかを考える前の段階で、「結果が良くなるかどうかが重要」というのがすごくいい考え方だなあと思ってて。SmartHRが作っているもの自体も前々からウォッチしてて、品質も高いし、ブランドを考えてやってるなあ、と。その時その時でできることを、すごくうまいカタチでやっているのが見えていて、いい感じだなと思ってました。

関口:名和さんが事業会社で自分のスキルの幅を広げたいと考えていたときにいいご縁があったんですね。
で、ですよ。
そんな名和さん、入社されて、どうですか?ぶっちゃけ。

名和:入社する前は、もっと完成されている会社なんだろうなと思ってたんですよ。完成されている会社であり、ブランドなんだと思ってたんですけど。整理されてるというか。

関口:くくく(笑)。

名和:よく整理されたブランドを継続して育てていくことに携わるのも、学びたいことの一つで。立ち上げるよりも継続していくことのほうが難しいし、それこそ中にいないとできないことなので、それもいいなと思って入ったんですけど。入ってみたら……
……すげえアクティブじゃん、て思って。

関口:(爆笑)。アクティブ、とは。整ってなかった、と。普段から、整ってないと発信してるつもりなんですけどね。なかなか伝わらないんだよなあ。

名和:入ってからのギャップ、すごかったですね。こんなにもみんな、手探りでやってるんだーって。

関口:事業会社の実情を見てしまったと。

名和:そう、で、それが面白いなと思ったんですよね。そこで、SmartHRの前にいた事業会社がフィットしなかった理由はなんとなくわかったんです。僕、完成されたところでは物足りなくなっちゃうんですよ。

関口:贅沢だなあ〜(笑)。

名和さんの足元のアップ。VANSのスニーカーにカラフルなボーダーの白ソックス。

名和:会社としてはまだまだできあがってなくて、みんなでなんとかしていこうよっていう感じでなんとかしてるんですけど、こっちのほうが楽しいです。
自分がいる業界でよく言われる「制作会社と事業会社の違い」というのがあって。制作会社で得られるのはドキドキ感で、事業会社は愛だ、というんです。事業会社は、自社の事業をどっぷり愛せるかどうかで、逆にいうとドキドキ、ハラハラ感はないよと言われる。でもSmartHRには両方あるな、と僕は思っていて。

関口:確かにハラハラ感、あります。
コムデのメンバーはもちろん、社員は今1,000人近いですが、当社のメンバーはほぼ全員、うちの事業はいい、と思ってるんですよ。それぞれに専門性が違うから、関わりかたや表現する言葉は違うけど、うちの事業は社会にとっていいものだと思っている人が集まっている。その前提があったうえで、もっとやれることがある、というのはやりがいかもしれないですね。

名和:ビジョンもいいし、バリューもすごくいいし、プロダクトも超最高だと思ってるんですけど、やっぱりまだちゃんと伝えきれてないよね、と思うことが、入社3か月目にして、すでに多々あります。
関口さんが言うとおり、この事業で社会が良くなるという確信はあって、そこに疑いはないので、そのうえで全然できあがっていないものをどうしていこうかというフェーズにはハラハラ、ドキドキ、ウキウキする感じがあって、愛とドキドキ、両得だなあと思ってます。

関口:「うちのやってることいいじゃん、でも自分たちの領域でもっとできることあるのに、できてねえ!!!まだまだ!!!」という忸怩たる思いがあるんですよ。

名和:そうそう。圧倒的リソース不足。今はみんなが考えていることを全部やると、多分「すげえいい感じ」になるのはぼんやりと見えてるじゃないですか。そこに対して適切に割けないのが課題ですね。

関口:当社はSaaSのデザイン組織としてはリソースを割いているほうではあるんですけどね。事業の成長も急速で社員も増えている中、加速度的、爆発的に社内の施策数も増えているので、全部はとてもできない。じゃあどうする、というところが工夫のしどころなんですけど。そう話しているうちに状況も変わるし人も増えるんで、常にハラハラしてます。

関口さんのアップを後ろから。くせ毛。

名和:今のSmartHRにはブランディングをぐいぐい推進していく人がいないんですよね。経営の近くに、広義のデザインを理解して、経営のことも理解している人が存在しないとなかなか速度を上げていけないんで。そこは組織としては大きな課題の一つだと思ってます。
もう一つ課題としては、SmartHRは事業会社の中でもコミュニケーションデザイン部署を立ち上げるのがめちゃくちゃ早くて、ある意味先行者利益を持っていられたと思うんです。でも今は、ほかの会社でもコミュニケーションデザイン部署を立ち上げるところが増えてきて。今や、後追い感が半端ないです。うちは先行者利益に甘んじている状態とも言えるので、もう一回突き離しにいかないとダメだなぁと思ってるんですよね。まだ突き離せると思うので、なるべく早いタイミングで突き離しにかかりたい、他を圧倒したいと考えています。

関口:よく筋トレでたとえますけど、筋力の発達って踊り場がある階段状なんですよね。当社のなかでもスイッチバックするタイミングに向けて内圧は高まっていると感じています。もちろんその必要性も感じている人はいて、議論も取り組みもしていますが、現状は我々の本分である、アウトカムを見据えてアウトプットを出すというところがうまく接続しきれていない歯がゆさがありますね。
そんな中で名和さんが入ってきてくださったことは大戦力になってるし、名和さんのように深くて幅のある視野をもった人にもっと来てもらいたいという思いがあるんです。

名和:デザインを「する」ではなく、デザインを「使う」ことができる人、そういう考えかたをできる人、また実際にやったことはなくてもトライしてみたい人には、マジでSmartHRに来てほしいです。
ここでいうデザインを「する」というのは、どちらかというとアウトプットに向かう行為。デザインを「使う」は、どちらかというとアウトカムに向かう行為だと僕は考えています。
デザイン「する」ことも本当はとっても大事です。「する」も「使う」も両方できるように、僕自身もなりたいと思っています。

関口さんの手元のアップ。指を組んて肘を椅子にかけている。リラックスした様子。

関口:アウトプットする行為は、結果に対してリニアに、直線的に向かう視点になる。アウトカムを狙うとしたら、見るべきものは結果のさらにその先にあるものなので、結果に向かう直線のさらに横に回り込んで、角度をつけて見る視座が必要なんですよね。そういう俯瞰も必要だし、一方で俯瞰するだけで直接ディレクションができないと品質向上ができないので、両方の視点が必要と。

名和:立体的に攻める感じですね。

関口:そういうことですね。ときにはデザインの細部について「ここは譲れない」というディレクションをすることもあるかもしれないし、場合によっては最適品質のために「いや、これはこれぐらいでいいんだよ」というコントロールもしていく。

名和:そうそう。品質を諦めるわけじゃなくて、何が最適かを考える。

関口:当社では何も規定されてないので、大変な部分はあるけれども、逆に言うとどう振る舞っても「それは違うじゃないか」と否定されることはないと思います。コムデなんだからそんなことやってたらダメだろうと縛るものはない。

名和:強烈に誰かを意識して働かなきゃダメみたいなのはないですよね。

関口:そうですね。それがうちの強みでもあり、弱みでもある。

結局アウトプットが超大事、ここは譲れない

関口:ここまで名和さんに、SmartHRの現状について聞いてきましたが、翻って名和さん自身が個人的に大事にしていることってどんなことなんですか。

名和:いろいろ言いましたが、アウトプットはすげえ大事だと思ってます。
世の中に対して、見られているのは結局その部分なので。ビジネス的なことを大事にしましょう、チームで作っていくことを大事にしましょうという話ももちろんあるんですけど、いや、でもやっぱりアウトプット、超大事でしょう、と思ってます。
それはさっきも話しましたが、常に最高でないといけないということではなく、最適であるべきだと思っていて。その最適の中でどれだけ品質を上げられるか、刺さるものを作れるか、伝えたいことが伝わるように作れるか。そこは譲れないし、譲るつもりもないですね。それはずっと変わらないと思います。
その視点でいうと、我々コムデがアウトプットするものは、まだまだですね。

関口:尖りがない。

名和:ないっすね。

関口:まだいける、と。ビジネス上の話としてはアウトカムが大事とは言うけれども、アウトカムだけでは存在し得なくて。アウトプットがあって、その結果としてアウトカムがあるわけだから、我々としては明確なアウトプットがあることは大事。

名和さんが熱心に話している横顔を離れたところから。左手前には大きく壁が映り込んでいる。

名和:そうそう。ADなんで、そこに責任持たないとって思うし、そこを突破できる力を持ってないと、やっぱり活躍のフィールドは広がらないですよね。
デザイン的なアウトプットもそうだし、ほかの、たとえば会社の公的な発信も、すべてのアウトプットが大事だと思ってます。
僕はやっぱりデザイナーなんで、そもそもはものを作ることで何か世の中を変えたり、世の中に提言できるんじゃないかって思って、そこを信じてやってきてるので。やっぱりそこは最後のアウトプットにこだわらなくなったらつまらないと思ってます。

関口:うん。僕らはこだわりたい。

名和:別角度で気になっているのは、「SmartHRの色」を気にしすぎている感じがします。これまで、めちゃくちゃいろんな方向に振りまくった結果としてそこに到達しているならいいけれども、はじめから同じところを狙ってものを作りにいくスタンスは、今この会社のフェーズを考えると違うアプローチがあると思ってます。

関口:事業や組織のパーソナリティは完成するようなものではなく継続して育てていくものなのに、我々自身が、ないものをあるかのように振る舞ってしまって、存在しない着地点に落とそうとしてしまうのは避けたいですよね。

名和:そういうものが積み重なると、それがアイデンティティになっていくでしょうね。でもそれって意図してないんですよ。自分たち自身で外堀を埋めて身動き取れなくなっちゃう。
今後の会社の成長を考えたときに、今規定しているアイデンティティは本当に今のままでいいのか、チューニングすべきか、そういう判断も今はできていない状況です。意図しない外堀は壊していくように、今はわざとずらしたものを作ったり、振り幅を広げているところです。

メンバーを見ていると本当に優秀な人が多いんです。まとめるのがうまい。だからこそ、確度が高そうなことにまとまってしまうのではなくて、僕としてはもうどんどん、前に出て試してみてほしい。五分五分か、もしかしたらちょっと外れるかもね、みたいなアイデアも、やってみないとわからないじゃないですか。それで会社のイメージがガラッと変わるかもしれないし、本当の会社の姿が伝わるかもしれない。

関口:スタートアップは初手の段階では同質性で突破するのがよいとも言われますが、当社はもうその規模じゃないですからね。多様性が必要。ひとつの柱を積み上げて支えるんじゃなくて、ガンガンいろんな柱を立てていかないと。

名和:異質なもの同士のコラボレーションをもっと出していきたいですね。SmartHRは決まりごとはない、とされていますが、どうしても同質のカラーに染まっていっている部分はあると思うし、その同質性の中で異質性を出していくのは怖いことでもあるんですが。いろんな意味で、もっと試してみよう、やってみようっていうチャレンジを増やしていきたいです。

SmartHRのブランド、今こそが再構築のチャンス

関口:今後はどんな人と一緒に仕事をしていきたいですか?

名和:まず、「体験」を考えられる人ですね。ブランドの体験や会社としての体験。プロダクトを使うユーザーという意味だけでなく、当社に応募してくれる人、投資家なども含めて関係者の体験設計をできる人。自分が足りていない部分だから、それが強い人と一緒にやりたいですね。
あとはチーフデザインオフィサー、チーフブランドオフィサーなど、経営側の視点を持って事業に携わった経験のある人。それに現場でゴリゴリぶん回してる人もほしいですね。

ふたりが話している様子を遠くから。ガラスに映り込む名和さん。ジェスチャーで手を広げる関口さん。

関口:全部じゃん(笑)。

名和:そう、全部ほしい(笑)。
もっというと、コムデはデジタル領域に比較的弱いので、オンスクリーン領域に強い人がほしいですね。でもただデジタルできます、っていう人はあまり求めてないかも。あらゆる媒体を俯瞰して、アートディレクション、クリエイティブディレクションができる人を求めている。マジで来てほしい!!

関口:一緒にやりたい人についての熱いオファーがあったあとで、最後に名和さん自身が今後やっていきたいことも聞かせてください。

名和:短期ではなく中長期的に見て、アイデンティティの再定義をやってみたいですね。ただそれで決め込むのではなくて、今後も会社も成長していくし流れもありますから、変わっていく状況に応じて適応していくことも必要だと思っています。
いつの間にかできあがったイメージではなくて、一度内側からちゃんと確信をもってアイデンティティを作ってみたいです。この規模感でそれに携われる機会はめったにないだろうし、しんどいだろうけど、めっちゃ楽しいだろうなと。

関口:当社もずっと成長しながらなんで、くっきりとした道筋はそんなにないんですよね。それを、一旦これでいってみないかと。

名和:今まで作ってきたものを否定するわけではないです。でもフェーズとしては今が格好のチャンスだと思っていて。今から考え始めて、しかるべき時に仕掛けられる状態になっていくことが、今のSmartHRにはすごく大事。時間がかかる行為なので、そろそろ取りかかり始めないと間に合わないんじゃないかなとも思っています。完全に肌感ですけどね。

正直なところ、コムデの中の危機意識はもっとあってもいいと思っています。さきほど話に出た先行者利益の話で、まだ猶予はあるかもしれないし、実際まだ追いつかれてはいないかもしれないけど、周囲の勢いからすれば、このままでは追い越されることは見えています。
せっかく事業会社のコミュニケーションデザイン領域で強みを出せているんだから、意識を変えていくことで視野が広がって、ちょっとずつ変わっていけると思います。
コムデの中のことだけでなく、SmartHRの事業そのものが今、次のフェーズに向けていろんな意味で正念場を迎えていますよね。そこに関しては、会社のメンバーはみんな同じベクトルで視点をもっている感覚はありますね。ここを突破するのを、デザインやブランド側から支援していきたいですね。

名和さん、関口さんの立ち姿のツーショット。膝上から映っている。名和さんは手前で手を組み、関口さんは後ろに手を組んでいる。ふたりとも大きな笑顔。

おわりに

2024年よりコミュニケーションデザイン組織はマーケティング組織とより密に連携していくために、新しい組織編成になります。新しい組織の狙いと全体像について書かれた記事をご紹介します。

メンバーが仕事事例や組織について書いた記事もぜひご覧ください。


文:伊藤宏子
撮影:猪飼ひより(amana)