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中小企業がサステナビリティ報告で追いつく方法 How smaller companies can catch up on sustainability reporting

※こちらは、GreenBiz ジェレミー・ハンソン氏トーマス・シンガー氏著記事の日本語訳です。ぜひ原文もご覧ください。

これまで長年にわたり、ESG(環境・社会・ガバナンス)課題への取組みに関する投資家やステークホルダーからのプレッシャーは大企業に集中していました。実際、全米産業審議会がESGAUGE社(※)およびハイドリック&ストラグルズ社と共同で行った最近の調査結果によると、ほとんどの中小規模の上場企業はサステナビリティ情報開示については静観していることが明らかになりました。しかし、米国証券取引委員会のESG開示規則が間もなく施行され、投資家たちがすでに中小企業にもESGの取組みを期待している現状考えると、もはやどんな規模の企業も静観するだけという立場はとれなくなるでしょう。

中小企業のCEO(責任者)は、サステナビリティ報告は大規模な多国籍企業の専売特許であると思いたいかもしれません。しかし昨年、売上高50億ドル未満のラッセル3000企業(米国のほぼすべての上場企業を含む)において、環境(E)および社会的テーマ(S)に関する15の決議案が株主によって投票され、そのうち6つが可決されたのは注視すべきだといえます。

分厚い100ページの電話帳スタイルのサステナビリティ報告書の時代は終わりました。それに代わる効果的な報告書は、企業が実質的に針を動かすことができる(変化を生み出すことのできる)一握りのESG課題に焦点を当てたものです。ステークホルダーが幅広い課題に関するデータを期待する中、一部のESG課題は、企業がその項目を重要視しているかどうかに関わらず最低限必要な項目となりつつあります。

サステナビリティ開示に慣れていない中小企業は、どのようにすればより広範な情報開示を求めるステークホルダーの要求を満たしながら、実際に針を動かすような細かな課題にも焦点を当てたサステナビリティ報告をすることができるのでしょう。

段階的なアプローチ

まず、サステナビリティの開示に段階的なステップを踏むしかないでしょう。サステナビリティに関する説明を、自社にとって優先度の高い数項目のESG課題に集中させ、自社にとっての重要度は高くないもののステークホルダーが重視している課題についてはデータを多用した補足的な報告とします。これらの補足は、データセットや検索可能なデータベースなど独立した文書とします。情報開示を段階的なステップを踏みながら行うことで、必要とされる様々なESG課題のデータを提供しながら自社にとって最も重要な課題に焦点を当てた説明をすることができます。

このアプローチは、特にESG情報開示の潮流に追いつかなければならない中小企業が採用すると良いでしょう。実際、全米産業審議会が米国の上場企業から報告されたESGデータを分析した結果、10種類の環境・社会指標(温室効果ガス排出量、水の消費量、経営における性別の多様性など)について情報開示内容を調べたところ、S&P 500の大企業はS&P中型株400企業よりも平均して60%高い開示率でした。特定の指標については、その差はもっと広がっています。

気候変動に関する情報開示に追いつく

例えば、気候に関するデータについてはS&P500企業の半数以上(54%)が年次報告書で気候関連リスクを開示し、71%が温室効果ガス排出量を報告しています。一方、S&P中型株400企業で気候関連リスクを開示しているのはわずか3分の1、排出量を報告しているのは28%のみです。S&P中型株400企業のうちスコープ3排出量を報告できている企業は13%だけですが、S&P500企業は43%が報告できており、その差はさらに広がっています。特に中小企業は、気候変動に関する情報開示を強化すべきでしょう。その際、自社が気候に与える影響と、気候が自社に与える影響の両方を報告することが重要です。

「企業が取水している水の平均16%は水不足地帯からである」

企業のCEO(責任者)は自社事業だけでなく、バリューチェーン全体を通じて気候に与える可能性のある影響を理解する必要があります。また同様に、気候変動がコスト、収益、上流サプライヤー、ビジネスパートナー、下流顧客、自社の従業員やコミュニティ、自社の法律や規制などに与える影響など、自社事業に与えうるあらゆる影響を検討しておくことも重要です。

水は重要なESG開示事項になる

投資家たちは水に関する企業のリスク、特に水不足地帯から企業が取水する水の量を理解することにますます関心を寄せています。それは決して軽微な量ではありません。該当情報を報告している米国企業93社によると、企業が取水する水の平均16%は水不足地帯から取水されていました。

気候に関するデータと同様に、大企業ほどこのような詳細を開示する傾向があります。実際、S&P 500企業の12%がこの情報(水不足地帯から取水する水の量)を報告しており、S&P中型株400企業が6%であるためその2倍の開示率となっています。大企業も中小企業も、水リスクにどれだけ晒されているかを評価する必要があります。水の持続可能性に関する方針と実践について、企業の発展、実践、情報開示を支援する官民イニシアチブであるCEO WATER MANDATEは、物理的リスク、規制リスク、風評リスクなど、水に関連するあらゆるビジネスリスクを特定するための有用な入門書を提供しています。

第三者検証への対応

ESGデータの第三者検証などの外部保証も中小企業にとって追いつかなければならない重要な課題です。ESGデータの外部保証は、S&P中型株400企業でできているのは6%であるのに対し、S&P500企業dえは3分の1以上(36%) が保証できています。今後、サステナビリティに関する開示された情報を外部保証することへの期待(場合によっては、要求)が高まることが予想されますので、企業はそれに備えておく必要があるでしょう。

外部保証を実施するには多くのリソースを必要としますが、きちんと準備と優先順位付けを行うことで対応しやすくなるでしょう。例えば、外部保証の取得に取組む前に、データを準備するためのデータベースシステムの構築を検討し、公開前に加圧試験に協力できるパートナーを探しましょう。企業にとって最大のリスク(気候変動関連データ)を保証の優先事項とすることで、データを管理しやすくなります。

中小企業がこれを実装するためには、特にガバナンス(G)に力を入れる必要があります。自社にとって重要な課題を選択し、適切な目標を設定し、効果的なコミュニケーション(報告)を提供するための明確な基準とプロセスを確保すると取締役会で保証することです。多数の報告フレームワークを採用し格付け機関を満足させるだけのリソースは中小企業にはありません。

開示への段階的アプローチの組み合わせとリソースを集中させるための高度に統制された手段は、ESG開示をこれまで静観していた中小企業にとって有益な方法です。この段階的なステップを踏むことで、企業は自社のサステナビリティを説明する際に、実質的な変化をもたらすことのできる一握りの課題に集中させることができ、同時に、いずれ要求される大量の検証済みデータ開示への対応にも備えることができるでしょう。

※ESGAUGE社は、米国の上場企業に関してカスタマイズされた情報を求める企業の実務担当者や専門サービス会社向けにデータマイニングと分析を独自に設計している会社。役員報酬、取締役会業務、CEO等のプロフィール、委任状投票および株主活動、CSR/持続可能性の開示など、環境・社会・ガバナンス(ESG)の実践に関する開示に重点を置いており、顧客は資産運用会社、コンサルタント、法律事務所、会計事務所、監査法人、投資会社など。

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