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SDGsの科学的裏付け#2 対話する科学 SBT(科学に基づく目標)

 科学者「対話」と「協働」の道を模索しつつあります。もともとアカデミックの世界はその中ではオープンな世界です。ただ、外から見ると閉鎖的かもしれません。科学者の相互理解への努力の一端を伝えたいです。

1.プラネットバウンダリーをめぐる科学的な対話

  プラネットバウンダリー・地球の境界線指標をめぐり、科学者たちは、科学者間のみならず、政策担当者、ジャーナリスト、市民、企業等々と、繰り返し繰り返し、反証と議論を積み重ねてきました。もともと違う「言語」をもつ人たちが理解を深めるのは、大変な作業だったと思います。
 それでも、その科学的な対話の結論が収斂されていき、それを国連が受け止め、SDGsの根拠の一つにしたわけで、その意義は大きいと思います。

 その背景には、1960年代から、地球の診断を試みる研究は続いていましたが、2000年代に入るとその知見はが十分に蓄積されつつありました。その折、ストックホルム・レジリエンス・センターヨハン・ロックストローム所長とそのグループが、2009年9月に『Nature(ネイチャー)』に、 「A safe operating space for humanity、人類が安全に活動できる領域」という論文を発表しました。
 これは、地球の状態を総合的、包括的に指標化、数値化するという壮大な知的な挑戦したものでプラネットバウンダリー・地球の境界線の考え方の基盤となりました。その後、精力的に研究成果を発信し、学術界では引用数=9704(goole scholar, 2021/1/25時点)とかなりハイ・インパクトな論文となりました。中には批判的なものも当然あり、喧々諤々と紙上や学会等で議論してきた。

 そして、プラネットバウンダリー・地球の境界線の考え方は、科学界のみならず、各国の関係者の関心を集めていきました。ヨハン・ロックストローム氏らは、政策担当者、市民、NPOからの様々な批判に丁寧にこたえ、対話をし、その考え方を固めてきました。その科学的な対話が、プラネットバウンダリー・地球の境界線の妥当性を担保し、SDGSを支える科学的な根拠へと深化していったわけです。

 そして、こうした地道な努力のおかげもあって、SBT(Science Based Target)、科学の基づく目標が必要との共通認識がもたらされました。
 SDGsの根本には、こんな事情があったわけです。

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ヨハン・ロックストローム氏の「対話」の様子
Centre science director Carl Folke and centre director Johan Rockström presenting at the Soneva dialogue.
Photo: J-B. Baptiste/Stockholm Resilience Centre

2.専門的な知見と集団の知恵

 「科学的」というと教科書に出てくる”絶対的に正しいもの”と、感じる人もいるかもしれないね。一方、自分が受け入れられない「科学的」結果を「エセ科学」としてはねつける時もきっとあると思います。
 でも、科学は、ある前提条件や対象に限定したときのみ、正しいものです。だから、その前提条件と対象が異なれば、おのずと結果が変わってくる。また、結果の解釈も人により異なります。
 そんな事情もあり、「科学的」なものは、専門家と素人のコミュニケーション・ギャップが問題になることが多いのが実情ですそして、科学者の人も、自分の分野は専門家。でも、少し離れると素人。
 一方、素人と思っている人も、身近のことの専門家であることもあります。「集団の知恵」という「科学的」にも劣らないものもあります。そんな入り組んだ状況にあるので、人は、「科学的」であることを時に信じ込み、時に不審に感じる、わけです。
 そして、そんなギャップを埋め合わせ、前向きな結論を得るには、「対話」と「協働」の積み重ねが欠かさないという認識が、ここ最近の潮流として定着しつつあります。あまりに複雑なことは、一人の知見と経験、一つの論文、一つの原理原則、一つのモデル群では、説明できないので、補い合おうという自然な流れです。
 これは、余談ですが、寺山修司が「書を捨てよ、町へ出よう」を出版したのが1969年のこと。大学にこもった学生を町に引っ張り出し、実際の地域とそこに住む人に注目するようになりました。そこから半世紀がたち、その流れは、これまで研究室や自然の中で思索にふけっていた科学者も「対話」と「協働」を町で進め、相互理解を進める時代になってきたわけです。

 ただ、科学的な「対話」と「協働」が必ずしも人の腑に落ちるとは限りません。次回は、ヨハン・ロックストローム氏は、そんな課題にどのように立ち向かったのか、を記事にします。
 より直感的な理解を促すものは、芸術のパワーかもしれなません。

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 これまでの文章は、『サステイナビリティ私観』をご覧ください。
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サステイナビリティ私観 (5)


「世界を変えるお金の使い方(Think the Earth Project編)」に基づいて100円単位~数万円単位でできること、50項目を実行し、その報告を記事にします。 「毎日使う100円玉にも世界を変える底力があります(P11)」 応援、ありがとうございます!!!!