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SDGs史#13 『成長の限界』とテック企業が宇宙を目指すわけ 2/3

 前回の記事の続編です。『成長の限界』テック企業が宇宙を目指すわけ、を説明していきます。
 ここでいう『成長』とは、幾何級数的な成長のことを指します。書籍では、人口、食糧生産、工業化、汚染、再生不可能な資源利用のことを論じています。これらが相互に関係しあっているところをシミュレーションしたところがポイントでした。
  言葉だけ見ると、経済だとGDPの成長をイメージするかもしれません。人の成長だと、幾何級数的な成長=あるとき急激に伸びる時ってありますよね。これって、すごくよいことです。今も昔も、幾何級数的な成長善とする社会だと思います。

 ちなみに幾何級数的な成長ってのは、最初はそうでもないけど、時間がたつと急に増加するときに用います。ゼロ金利で貯金するより、6%の成長を期待して株式投資したほうがよい、ってのはこの論理なんです。例え数%であっても、年率で成長すると数年後、大きな伸びが期待できるんです。例えば、100万円を6%の実質金利で10年投資に回すと、196万円になります。

1,2,3,4,5,・・、10、・・は線形的な成長。
1,2,4,8,16,・・、512、・・が幾何級数的な成長。

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Photo by Tech Daily on Unsplash

 そんな中、『成長の限界』は幾何級数的な成長を続けるのは「限界」があるよ、という警告なので、「じゃぁ、ど・す・れ・ば・よいの?」となったわけです。今でも「成長」は善です。

 幾何級数的な成長ってすごく魅力的なんです。個人でもそうです。自己啓発し、爆発的に成長したいんです。社会もそれを望みます。今日よりよい姿を想像し、実現するのがやっぱり嬉しいですよね。誰も否定できない感覚です。

 そして、幾何級数的な成長を促す仕組みとして、金利と投資に基づく資本主義の発展があったわけです。資本主義の大まかな発展の解説は、会計の世界史が読みやすくてお薦めです。成長への期待が投資を呼び、社会が発展していったという基本的な流れです。

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Photo by NASA on Unsplash

 ただ、成長という善を資本主義で加速させた結果多くの課題をうみ出したのも事実です。それが、『成長の限界』の警告でした。
 環境問題もそうですし、貧富の格差社会の不安定さ疫病の蔓延も幾何学的な成長によって、助長されてきたと考える論調も多いです。
 例えば、ピュリッター賞作家のジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊』で、環境制約文明社会を崩壊させることを論じました。

 もちろん、FACT FULLNESSが示す通り、幾何級数的な成長とともに、多くの課題が克服されています。確かに、世の中、良くなっている部分が多いんです。悲観することはないとの意見も一理あります。

 悲観論と楽観論のどちらの立場にせよ、幾何学的な成長に伴う社会的な課題に対して、二つのアプローチがあるように思います。

 一つは『成長』ではなく『成熟』をもって難題を咀嚼する、もう一つは更なる『成長』で難題を乗りこえるという考え方です。

 『成長の限界』のグループは、前者を推奨しました。SDGsは、プラネットバウンダリー・地球の境界線の範囲内で、将来の世代も含めて全員を満足させるという意味で、『成長の限界』の流れをくみ『成熟』を志向していると思います。

 もちろん、SDGsは、イノベーションを重視しているので、更なる『成長』を目指しているといえます。でも、脱炭素とか、誰一人取り残さない、などは、今使われている意味でのイノベーションではおそらく突破できない壁だと思います。なので、パラダイムシフト(価値観の劇的な変化)社会変革(トランスフォーメーション)を必要だと思います。

 そんなことを実現しそうな代表格の二人の宇宙への考え方を紹介します。

 一人目は、イーロン・マスクさん。「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」が人類の進歩に貢献するとし、重要な企業を創設していきます。テスラソーラーシティは、EV・電気自動車再生可能エネルギーを普及させ、インターネットで結ぶことで、地球を持続可能にする(サステイナブル=SDGsのSの英語)という未来像を体現しつつあります。何せ、電気は、電子信号として情報化しやすいですから、太陽からのエネルギーをもって、地球に住む人の移動と暮らしを支えることが原理的にも経済的にも可能なはずです。それだけでも、地球を救うヒーローになれたはずです。

 では、なぜスペースXが必要だったのか?2013年のTEDのインタビューでその意図が語られています。まずは、テスラとソーラーシティで地球を持続可能にする(サステイナブル=SDGsのSの英語)という未来像を説明した後に、次の回答をしています。

「(前略)ロケットづくりは)むしろ 未来をワクワクする 刺激的なものにするために何が起きる必要があるか、という視点から来たものです。
(中略)
 宇宙に進出する文明を持ち 星々を探検し 複数の惑星に広がるすごくエキサイティングな人類の未来
 永遠に地球に閉じ込められたまま 絶滅をもたらす事態が— 起こるのを待つ という違いです。」
(Translated by Yasushi Aoki、Reviewed by Tadashi Koyama。一部改行。)

 おそらく、地球を持続可能(サステイナブル)にすることを真剣に考えたうえで、それでも宇宙を目指すことにワクワクしたのだと思います。その視点に立つと地球はそのままだと絶滅に向かう閉じ込められた窮屈な世界に見えるのでしょう。

 そして、もう一人、ジェフ・ベゾスさん。彼も本気で、火星への移住を考えています。そして、その理由として「わたしたちは、地球を救うために宇宙に行かなければいけません」と断言しています。今のまま地球を再生可能に(サステイナブル)にするなら、宇宙に活路を見出さなければいけない、と彼の知性が導いているんです。

「地球を出て太陽エネルギーを活用し、宇宙で1兆人が暮らすようになれば、数千人のアインシュタインが生まれ、数千人のモーツァルトが生まれるでしょう。素晴らしい文明になるはずです。停滞と分配をとるか、ダイナミズムと成長を選ぶのか。答えは簡単です」
『ジェフ・ベゾスは、 地球を救うために宇宙を目指す』よりWIRED 2020.2.2.

 1兆人ってことは、幾何級数的な成長をいきつくとこまで進めることを意味します。二人ともすごい壮大な発想です。日本のIT長者が賛同するのもうなずけます。投資家も、研究者も、エンジニアも引き付けるでしょう。『宇宙兄弟』が好きな私もワクワクします。

 ただし、二人のロジックで注意すべき点があります。彼らには、地球で幾何級数的な成長を続けるのは限界なのはすでに自明であり、だからこそ宇宙に進出する必要がある、って考えていることです。これって少し、複雑な思いになります。今ある地球で何とかしようぜ、と気持ちがあります。

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Photo by Marek Piwnicki on Unsplash

 でも、そんなことはお構いなしに成長は続くでしょう。この原動力って何だろう?とふと考えます。すると、人類の基本的な行動原理にたどり着きます。今いるところでは飽き足らず、未開の地を開発する。そうフロンティア精神といわれるものです。これは、ものすごい力を持っていて、数々の突破口を見出してきたので、頼りにするのはよくわかります。

 一方で、フロンティアをあてにせずに暮らしてきた島国の精神をもった私は、少し違ったニュアンスをもっています。停滞と分配をそんなネガティブに捉えることには違和感があり、成熟と共存の道を探りたいとも考えます。そして、ダイナミズム成長を選ぶかは人それぞれ、その時々で、それを強要されるプレッシャーの強い社会は生きづらそうな気もします。

 宇宙開発の是非を書きたいわけではないです、念のため。やっぱり、人類は、成長が根源的欲求としてあるんだな、という考察です。

 そんなわけで、長々と書きましたが、テック企業はダイナミズム成長を迷わず選ぶ人たちの集団なので、当然のように宇宙を目指します、という記事でした。
  その集団が力を持った時に、ひらりとかわせるしなやかな文化を一方でもちあわせておきたいな、と思います。SDGsは、そんな力を醸成することに役立つのではないかぁ、と記事を書きました。

 3700字にわたる長文をお読みくださり、ありがとうございます!!!!

 次回は、もう少しダイナミズム成長を迷わず選ぶ人たちの集団の話を深掘りします。
  なかなかSDGsに行かないじゃないか、って方に次回の話題「真打登場・持続可能な開発(Sustainable Development)ってなんじゃい!?」を書きはじめていることをお伝えします。

 日々の暮らしの記事も書いていきますので、お付き合いくださると嬉しいです。


「世界を変えるお金の使い方(Think the Earth Project編)」に基づいて100円単位~数万円単位でできること、50項目を実行し、その報告を記事にします。 「毎日使う100円玉にも世界を変える底力があります(P11)」 応援、ありがとうございます!!!!