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Designship 2021 デザイナー5名で一般参加レポート

スマートキャンプデザインブログです。
2021.10.23-10.24に開催された『Designship 2021』にデザイナー6名で参加しました。いくつかのセッション内容をピックアップし、デザイナーごとに感想や考察をさせていただきました。

(※本記事では、Designship 2021で放送された一部内容をレポートするため、スクリーンキャプチャさせていただいております。ご登壇者のみなさまの中で、変更や削除等をご希望の方がおられましたらスマートキャンプまでご連絡ください。)

『急拡大する組織の中でサービスを作り続ける』

登壇者:LegalForce 鈴木 智絵 さん
このパートの著者:モリシゲ(スマートキャンプ創業期デザイナー)

BtoB領域のスタートアップであるLegalForceに、1人目のデザイナーとして入社された鈴木さん。

ご入社された当初は、第1デザイナーとして全社ブランドなどを作っていけると思っておられたとのことですが、ものすごいスピードでデザイン・開発していく必要があるので、情報共有を正しく行わないとチームが崩壊してしまうことを懸念しました。

私も同じくBtoBスタートアップに1人目のデザイナーとして入社しましたが、未経験だったのでブランドのことは1ミリも考えていませんでした。ですが、スタートアップだからこそ、情報共有については非常に重要だと思った感じた瞬間は何度もありました。

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鈴木さんはBtoBスタートアップにおける情報共有の難しさについても2点まとめられていました。

1つはBtoBツールには「法務知識(業務知識)が必要」だということです。

BtoBツール運営が大変な点として、法務・労務・情シス・経理・財務…といった特定の業務を効率化していくに当たって、まずはその領域の専門知識を知っておかないと、どう効率化していいかわからない点です。

2つ目はスタートアップならではの流動性や、開発スピードが優先されることです。

本来であれば中長期的なブランド戦略を考え、デザイン的な設計をしっかり行った上で、サービスを作っていくのが理想的ですが、デザイン的な投資や多くの時間が必要です。そうしている間に会社がつぶれてしまうリスクもあるので、どうしてもスピードが優先されることになります。

そういった中で、鈴木さんが行った情報共有のアプローチとして以下の3つの取り組みを行っているとご紹介がありました。

1. 開発仕様書のテンプレート作成

これは共感しました。スタートアップでなくても必要だと思います。
仕様書だけでなく、開発要望やバグ修正依頼などもテンプレート化していったほうがいいと思います。

チャットで気軽に仕様や要望をガンガン伝えていく方法もありますが、ログが流れたり、他に伝えるべき情報が欠けたり、混乱を招いて情報共有が上手くいかない例を、私も見てきました。
早めに開発まわりの情報伝達の仕組みを整えることと、運用ルールを徹底することは大事だと思います。

2. UI制作に他職種を巻き込む

これもスマートキャンプでは行っていて、実際にビジネス職やエンジニア職の方が簡易的なデザインをFigmaで行っています。
これができるようになると開発スピードもアップしますし、デザイナーが1から作らなくても非デザイナーをフォローする形になるので、デザイン工数も減ります。

職種の垣根を越えるにはかなりハードルがあるので、早いうちからデザインツールの社内啓蒙や、苦手意識を取り払う雰囲気作りをしていくのが大事だと思います。

3. チーム間の情報共有の場を作る

開発チーム、デザインチーム、営業チーム…とチームが結成されていきますが、そのままだとそれぞれのチーム内で情報が閉じてしまいます。

例えば営業チームの中で話がどんどん進んでいって、気づいたときには開発やデザインのチームが「えっ!それは無茶な要望だ!」となることもあります。

またどういった文脈で意思決定が行われたのかもわからないので、納得感も得られなくなり、組織全体の一体感も築きにくくなってしまいます。

まとめ

スタートアップだからこそ開発スピードと組織の両方を保つために、情報共有の仕組みを作ることが大事というお話で、強く共感できる部分が多いセッションでした。そして、その情報共有の場をつくる役割としてデザイナーだからこそできることは多いと思いました。

『デザインが日本を変える』

登壇者:マツダ株式会社 デザイン・ブランドスタイル担当  前田 育男 さん
このパートの著者:はなおか(コミュニケーションデザイン、イベントデザイン)

マツダブランド確立とデザイン哲学「魂動」をデザインに落とし込むまでの10年のリアルを前田さんにお話しいただきました。

マツダ独自のデザイン哲学「魂動」とは

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前田さんがブランディングをするために注力したこと
1.「個性を研くこと」:ひと目でマツダとわかること 
2.「様式につなぐこと」:全領域を同じ思想で統一すること

この2つが持続可能となり初めてブランドとして機能する。そのためには、企業として思想ビジョンが必要である。個性を生み出すには、関わる人に響く指標である哲学(ビジョン)を持つことの重要さを語ります。

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ブランドとして独自性があるゆえの社内理解の難しさ
Web業界で働いていると、効率化を常に考えて業務を行っています。スマートキャンプのミッションとしも掲げていることです。前田さんは、独自性を出すために 逆を攻めることを目指しました。
その中で前田さんが、最も苦労されたのが、独自性をボードメンバーへ理解してもらうことだったようです。私も、デザイナーとして提案することは多いのですが、経営方針とシンクロさせながら提案する難しさを感じます。前田さんであっても何度も経営会議で提案を重ねたことは、デザイナーも信念をもちブレない軸の強くもつ必要性を感じさせられました。

ブランディングの加速、表現の難易度を上げる挑戦へ
「アート」という目標を掲げ、車のデザインをアートレベルまで持ち上げることで、マツダデザインは加速します。商業デザインでは中々難しいテーマではありますが、登壇中のマツダPVを見て、「これはデザインではないな、日本の職人さんだ...」という感覚に陥るほど美しかったです。

目標達成の鍵は、「ビジョン浸透による技術の最大化」
アートを量産するフェーズに立ったとき、デザイン価値を理解し、エンジニアなどにもアーティストとなるための意識改革を行ったようです。
当たり前ですが、組織が大きくなると、業務は細分化され、背景を理解しきれないことが多いです。どんな仕事であっても、背景を理解すること、そしてプロジェクトを共感し遂行することが、技術の最大化をさせると思いました。

全領域を同じ思想で統一すること
前田さんがブランディングをするために注力した1つ「様式をつなぐ」。「店舗設計」「CM」「カタログ」「webサイト」などを手掛ける中で、マツダ独自のフォント「MazdaType」の開発ストーリーをお話しいただきました。フォントも車と同じように「プロポーション」「フォルム」「エレメント」の領域におけるマツダらしさを当てはめ、フォントデザイナーと開発を進めたようです。この開発でも、すべて簡単にはできないこと自体が「様式をつなぐ」スタイルで、時間をかけ作られたようです。

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まとめ
自動車に詳しくない私でも、カーデザインに見惚れてしまいました。マツダブランドの世界的地位は、前田さんのブレないコンセプトがあったからだと感じました。また、車を通じ、日本の伝統的な美的価値観が世界へ発信していることは誇らしく思いました。

今回の前田さんの講演で特に心に残ったのが、

「変化が目まぐるしい現代で、デザイン定義が曖昧になる中でも
変わらないことは、デザイナーは心を動かす役割であること」

という言葉でした。デザイナーの領域が広がる中で、どんなポジションであろうと、心を動かすためにデザイナーからは何が提案できるかを模索し続けなければいけないと感じさせられました。


『Notionにおけるプロダクトデザイン』

登壇者:@NotionHQ Lu Ryo さん
このパートの著者:柿澤(BOXIL SaaSのプロダクトデザイン担当)

先日、日本語にも対応しより便利になったNotion。
デザインを担当しているLuさんからNotionにおけるプロダクト開発の「何を行うか」「どう行うか」についてお話がありました。

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何を行うか(What to do?)

Feedback ・・・ セールスやカスタマーサクセス、TwitterなどNotionにはさまざまなチャネルを経由してユーザーからのフィードバックが届く仕組みがあり、それをNotionの全員と共有しています。

Data ・・・ 進捗状況の指標を測定し、分析を行うことで製品の意思決定を行います。

Intuition ・・・ 良いアイデアの多くは、遊んだり探索したりすることから生まれます。また、そこからどのような問題を解決しようとしているかを学ぶことが出来ます。

Strategy ・・・ チームや製品のビジョンに至るまで、すべてを結びつける優れた戦略により、お互いの仕事が強化されます。

どう行うか(How to do it?)

Play & explorations ・・・ 何かを構築することを決定したら、すべてのソリューションの可能性を試します。
Notion全体を改善しながらユーザーの問題を排除できないか、ブレインストーミングしたり同僚とチャットしたりします。
問題の全体像を把握できるようにあらゆる人の意見や視点を取り入れます。

Feedback, Iterations ・・・ 設計がより具体的になるにつれてRFCと呼ばれるドキュメントを作成します。機能が解決したいすべての問題、その解決方法、設計と実装に関するすべてを概説し、Notionの全員に共有されるため誰でもフィードバックを提供しソリューションを改善することができます。

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また、部分的に完了した機能をNotionの従業員や一部のユーザーに限定してリリースすることがよくあります。そこから直接的なフィードバックを受け取りさらなる改善を繰り返します。

まとめ

優れたプロダクトをつくるために、さまざまな視点からのフィードバックを受け取り、多くのイテレーションを行っていることが印象的でした。
常に「ユーザーの利益になるかどうか」を重視し、それを支える仕組みやビジョンがあることも素晴らしいと思いました。

『クラフトマンシップの逆流』

登壇者:CEKAI 代表  井口皓太 さん
このパートの著者dream(BOXIL プロダクトデザイナー)

クリエイターの根源的な思い『いいものを、つくる』を可能にするにはどうしたらいいのか。クラフトマンシップがどのように社会に広がっていくべきかが語られたセッションでした。


どれだけものづくりの純度を保てるか?

井口さんが代表をされているクリエイター集団「CEKAI」は、秀でた能力を持ったクリエイターの集合体と表現されています。

「いいものを、つくる。」ために不要な枠組みを取り払い、才能ひとつひとつを「個」と捉え、クライアントワークごとに有機的に繋がり、組み上がっていく。そんなクリエイティブのエコシステムを実現しています。

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CEKAIのエコシステムを水槽に例えた図
「どうやったら水槽の魚たちは居心地よくいられるか?」


オリンピック開会式のピクトグラム制作の裏側

オリンピックの開会式で話題になったピクトグラムの演出に、モーションデザインやディレクションに携わられた井口さんの作業プロセスが紹介されました。

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2次元的なピクトグラムを3D的に起こして、動きの研究を行う

73競技の静止したピクトグラムに、動きの始点と消失点を与える作業は「デジタルを使いながらも職人的な作業だった」といいます。
前後の動作をリアルに捉えるため、手元の3Dモデルを粘土をこねるようにして重力や動きを研究し、競技のスペシャリストからのダメ出しをいくつも受けたそうです。

痛烈なダメ出しをくらいながらも「競技を簡単に見せてはいけない」「アスリート達が追求した動きを容易にデフォルメさせられない」という思いが湧いてきたそうです。

「極限まで追求された身体の動きは、クリエイティブの美学と大いに通ずるところがあり、不思議にもアスリート達の美学を再現していくとモーションもよくなっていった」というお話は印象的でした。

話を聞くほど、ピクトグラムにモーションをつける過程は本当に大変だったことが伝わってきましたが、アスリートや井口さんの熱い思いを宿す純粋な作業が行われていたことがわかりました。


クリエイター達は「なんのためにそれを夢見たのか」

オリンピックのピクトグラム制作の裏側は、競技ひとつひとつに向き合った熱量の高い現場だったことが、セッションを通して伝わってきました。一方、オリンピック開会式のクリエイションに対してはさまざまな意見が飛び交いました。

「ものづくりは純粋な行為である一方、金銭的事情や政治的事情に巻き込まれやすい一面がある」と井口さんは仰っています。

いつしか社会とクリエイティブの連動は当たり前になり、デザイナーは社会に貢献してなんぼという風潮が生まれつつあります。ただいいものを作りたかった根源的なものづくりの心は、社会の複雑なプロセスのどこに宿せばいいのでしょうか。

「ひとつの価値観にクリエイターが巻き込まれるのではなく、それぞれの価値観を実現していく流れが起きて欲しい」という井口さんの言葉には、デザイナーの誰しもが思い当たる節があるのではないかと思います。

初めて自分のデザインを褒めたくなったとき、「いいものを作れたんじゃないだろうか」「自分には気に入った!」という純粋なワクワクした気持ちで満たされていたことを、私自身も思い出しました。
この気持ちがクリエイティブを取り巻く環境とトレードオフにならないための在り方を、今一度考えるきっかけとなりました。

『今デザインにできること』

登壇者:NAOTO FUKASAWA DESIGN 代表 深澤 直人さん
このパートの著者:大瀧(イベントデザイン)

私は深澤 直人氏の『今デザインにできること』についてレポートを行いました。自分の担当領域がオンライン展示会と割と新しい分野であるため、そんな新しい分野を作るチームの中で自分がリードデザイナーとして何ができるか、デザイン組織としてないができるかを考えていこうと思いました。

1. デザインは問題解決のためのものではない

デザイン≠問題解決ではなく、デザインは問題(Issue)を定義して解決すること。
問題提議自体が間違っていることもあるので、その上流部分からアプローチしていくべき。

1-1. 創造力について

創造力を高めるためのノウハウはないので気づける人にならないといけない。そのためにすると良いことは以下2つで、

「気付ける環境や状況に身を置くこと」

「その場の状況に左右されず気づけるようにすること」

自分の気づき、感じたことを他の人に共感してもらうことが重要だということ。それによってみんなの創造が合わさり、意図していないものが生まれます。創造とは、「共感を得ることを生み出す」ことだというお話でした。

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1-2. デザインの本質について

誰もが「きっとそう感じるだろう」と思うものを見つけることが、共感を見つけてあげること、というお話でした。

誰もが思いつかなかったものを生み出すのではなく、「みんながいいと考えていて、自分もいいと考えていた」と思うことを伝える手段がデザイン。
共通観念をデザインに起こすのであって、全く新しいものをつくることではないというのは目からウロコでした。

人間とモノとの関係性を理解して正しい関係性を作っていき、デザインは未来は明るいものだということを伝える、という部分に強く共感しました。


1-3. クリエイションについて

入力 → 気付き → 発酵 → 定着 → 具体の流れの中にクリエイションがあるというお話でした。

Design Thinkingとは
・考えることではなく感じたことを自覚できる力。
・考えていなかったことを提示するのではなく、感じていたことをカタチにする。

他者に対して共感を与えるのがデザインの力とまとめられていました。


アートディレクションの部分をやっているとそのプロジェクトの発足理由などの部分の重要さに気づくことが多々あったのでとても共感できた。最終的にユーザーの目に触れるもの部分を作るデザイナーとして問題定義するフェーズから参加する価値はあると感じました。

2. 美しい考え方「デザインは問題解決のためのものではない」
選択の岐路に立ったら、美しい考えの方を選べば、自ずと正しい答えが見つかるとお話されていました。
「行為」とは「選択」していること、人間の無意識の「行為」は「生きることを選んで」しまう。その選択はつまり美しい考え、という解説でした。

確かに「意識とか直感で顕在化するよな」と思って聞いていました。人が無意識に選択できるようなユーザー体験を目指していきたいと思いました。

セッション全体を通しての感想

自分が今やっている業務に活かせそうな部分が多々あり有意義なプログラムでした。それと同時に「1年前にこれ聞いても全然理解できなかっただろうなー」とか考えて、少しデザインやチームで働くことに対しての解像度が上がっている気がして嬉しかったです。


以上、スマートキャンプデザインブログによるDesignship 2021のレポートでした!運営のみなさま、登壇者のみなさま、ありがとうございました!
来年はリアルの場で参加できることを楽しみにしております!

あなたのサポートがデザインブログ更新の意欲になります!いただけたらブログの中で恩返しできればと思います!