動く「絵画」たちの魅力(ロトスコープの向こう側に)
living painting
以前、”note” したこともある、SONYのCMは精密に鉛筆デッサンされた北川景子さんが動き出すというものでしたが、これは「ロトスコープ」と呼ばれるアニメーションの手法を応用したものです。
「ロトスコープ」について
そもそも「ロトスコープ」は、モデル等を使った実写映像をトレースすることを生かしてアニメーション映像を作り上げる手法です。
アニメーション史の初期から見られる手法ではありますが、実写をわざわざ撮るのであれば、アニメにする必要ないのでは?といった批判のある手法でもあります。
まあ、アニメ特有のディフォルメされた動きや、創造的な動きが生み出されるわけではないですから、進歩的に捉えられなかったのかもしれません。
実は、ディズニー映画でも使われているんですが、限定的に人の動作の部分に使われているようですね。キャラクターたちのディフォルメされた動きに対して、人物の動きにはリアリティが付加されている感じなので、「ロトスコープ」をうまく融合させた例だと思います。
その後、「ロトスコープ」が主流になることはありませんでしたが、デジタル技術の進化とともに、演者の動きをトレースする「モーションキャプチャー」を生かしてCGキャラクターを動かす技術や、デジタル版「ロトスコープ」の技術が生み出されました。
リチャード・リンクレイター監督は、このデジタル版「ロトスコープ」を使って『スキャナー・ダークリー』(2006)などを製作しています。
自分の場合、『スキャナー・ダークリー』は絵的には面白く感じるものの、なんか落ち着かなくて、少し気持ち悪く感じてしまいました。(それが狙いなのかもしれませんが!).......『アバター』みたいに、もう少しCG寄りだと平気なんですが、体質的に合わなかったみたいです。
「ロトスコープ」の向こう側へ
アニメーションの主流にはなりませんでしたが、美術的な面からのアプローチでは、「ロトスコープ」を生かした映像を見ることができます。
「Lucy in the Sky with Diamonds」by The Beatles
ビートルズ初のアニメ映画『イエロー・サブマリン』(1968)は、ポップ・アートを取り入れた芸術性の高い作品だと思うのですが、中でも『ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ』では、「ロトスコープ」の技術を生かした新たな表現を観ることができます。
多分、観たのは高校生(リアルタイムではない)だったと思うのですが、途中、サイケな色彩でペイントされた女性たちが踊る場面には、すごく驚きました。彩色はペインティング調なのに、動きだけがリアルな感じで、とてもきれいなんですよね。
『Take on Me』by a-ha
このPV、ムチャクチャ流行ったんです。
コミックを読んでた女の子が、コミックの世界に入っていく物語調なんですが、すごく良くできていて、思わず "a-ha" にもはまっちゃいました。
「ロトスコープ」の技術が使われていますが、絵のタッチが鉛筆スケッチ風なのがいいんですよね。
冒頭、紹介した北川景子さんのCMなんかは、まさに、このPVからの系譜だと思います。
『Take on Me』のPVでは、コミックの男性が、現実世界の人間となって終わるのですが、あまりにも反響が大きいPVだったので、結末編がちょっぴりだけ、次のシングルのPVに挿入されているので、本当の結末を知りたい方のために紹介しておきます。
カロリーメイトCM 『見せてやれ、底力。』編
2015年に、このCMが放送された時は、本当に感動しました。
いったいどれだけの時間と手間をかけたのか......作品の出来栄えはもちろんですが、総勢34名の美大生たちが、のべ2,623 時間以上もの時間をかけて描いた6,328枚もの黒板アートによる素敵な作品でした。
『ゴッホ 最期の手紙』 監督:ドロタ・コビエラ(2017)
2017年に公開されたこの作品は、「ロトスコープ」の手法を用いながら、ゴッホの描画タッチの油絵で再現したという、驚きの作品でした。
125人の画家で構成されたチームで、制作期間に4年を費やしたというのですから、本当に圧巻です。
『音楽』監督:岩井澤健治(2020)
最後に紹介するのは、作画枚数は実に40,000枚超という作業を、岩井澤健治監督が、ほぼ一人で手書きしたという製作期間7年超の大作。
「ロトスコープ」の手法を用いて作画されていて、マンガっぽいタッチながら、最後のライブシーンなんかは、ホント躍動感にあふれていて、新たな表現を感じさせるのです。
特に、線画が中心だった日本には「ロトスコープ」の土壌があるようにも思えるんですよね。
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「ロトスコープ」という賛否があり、アニメーションの主流とはいえない手法ですが、リアリズムではなく、スケッチや絵画を動かすことによって、新たな表現を生み出していったと思うと、なんか不思議な気持ちになります。
技術は新たな創意を生むものなのでしょう。___
*「ロトスコープ」ではないんですが..
最後に、実物のトレースではなく、創作された登場人物を、スケッチや絵画的な手法でアニメーションした作品も紹介しておきます。
『かぐや姫の物語』監督:高畑勲(2013)
故・高畑監督の遺作となった作品ですが、手書き風のタッチで構成されていて、観ていると水彩画が動いているような作品でした。
資生堂AlephのCM
漫画のラフスケッチの線を残したままの状態で描かれたような画面ですが、「スラムダンク」ファンを熱くする出来栄えでした。
井上雄彦先生の描く線は、ほんとうに躍動感があります。
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