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人生を繰り返すことに幸せはあるのか(クレア・ノースの「ハリー・オーガスト、15回目の人生」)

 The First Fifteen Lives Of Harry August


 50年以上も生きていると人生の岐路はいくつかあって、あの時、こうしてたら、自分の人生はどうなっていたのか、こっちの方向に進んでいたら違っていたのだろうか、などと考えてしまうことがあります。

 場合によっては、人生をやり直すとするならば.... みたいなことも


 そんな時に魅力的に映るタイトルが、クレア・ノースの傑作長編「ハリー・オーガスト、15回目の人生」なのです。


(あらすじ)
 1919年に生まれたハリー・オーガストは、死んでも誕生時と同じ状況で、記憶を残したまま生まれ変わる体質を持っていた。
 彼は3回目の人生でその体質を受け入れ、11回目の人生で自分が世界の終わりをとめなければいけないことを知る。
 終焉の原因は、同じ体質を持つ科学者ヴィンセント・ランキス。彼はある野望を持って、記憶の蓄積を利用し、科学技術の進化を加速させていた。
 激動の20世紀、時を超えた対決の行方は?


 この物語は、記憶を残したまま生まれ変わることのできる”カーラチャクラ”と呼ばれる人々を描いた作品です。
 いわゆるループものSFの一種と言えるのですが、他の作品ならば、いろんな制約があって、結局は同じ人生になってしまったりするものなのですが、この作品では、ほんとに人生がやり直せるのです。

 .... なかなか興味深い設定だとは思いませんか?

 もちろん、どんな人生を送っても、大きな歴史が変わることはありません。でも、自殺して人生を短くすることもできれば、長生きする人生を選択することもできるのです。
 選べないのは、”生まれ変わる”ってことだけなのです。

 世界には、同じような体質の者もいて、独自のネットワークを築いている設定です。相互支援も行えるような仕組みもあったりして、なかなか凝った世界観になっているのです。

 世界観に慣れるまでは、ちょっと難解に感じるかもしれませんが、この作品世界を理解してくると、とても面白くなっていくのです。
 最終的に、主人公のハリー・オーガストの15回目の人生が描かれることになるわけですが、どのような人生になるのかは、ぜひ、読んでみてほしいと思います。


 自分が読んでみた時、感じたのは

 「人生を繰り返しても、それほど幸せじゃない。」

 ということですね。
 ありきたりな結論で申し訳ないのですが、そう思えるのは、今の自分が、それほど不幸じゃないからだと思うので、そのことに感謝しなければと思うんですよね。

 「ハリー・オーガスト、15回目の人生」は、そんな当たり前のことを考えさせてくれる作品なのです。



■作者:クレア・ノースについて

 「クレア・ノース」は、高校生作家としてのキャリアを持つ作家:キャサリン・ウェブが、大人向けのファンタジー小説を書く時の「ケイト・グリフィン」に続いて、大人向けSF小説を書く時の使う別名義です。
 いわば、キャサリン・ウェブの三番目の作家人格が、この「クレア・ノース」に当たります。

 そして「ハリー・オーガスト、15回目の人生」は、このクレア・ノース名義での最初の作品であり、意欲作でもあります。
 本作は、高評価で迎えられ、「ジョン・W・キャンベル記念賞」というSF作品賞を受賞してたりします。


 これまで、クレア・ノース名義では7冊の著作が発表されていて、そのうち、SF色の強い2作が翻訳されています。


「接触」

 私はケプラーと呼ばれる “ゴースト” 。
 他人に触れると、その身体に乗り移ることができる。
 ある時、身体を借りていた女性が、地下鉄の人混みで狙撃された。私はとっさに近くの人へ飛び移り、やがて狙撃犯の身体を乗っ取った。この男は何者で、なぜ私を狙うのか? 答えの鍵は、かつての宿主達にあるらしく、私は、長い長い人生を思い返しながら手がかりを辿ってゆく。


「ホープは突然現れる」

 私の名前はホープ・アーデン。人は私を記憶することができない。
 特性を生かし泥棒を生業とする私は、或るダイヤモンドを盗んだがために、完璧な人生の提供を謳うアプリ「パーフェクション」の開発元プロメテウス社に追われることに。
 逃走劇の最中、「記憶される人間」に戻る可能性を見出す私だが、すでに恐るべき計画の一部となっていることに気づく―。


 どちらも、「ハリー・オーガスト、15回目の人生」と同様に、特殊な体質に生まれた人物が主人公となっていて、その能力に関わる謎とともに物語が展開するサスペンスになっています。

 あらすじを読んだだけでも、なかなか面白そうだと思いませんか?

 どちらの作品も、「ハリー・オーガスト~」と同じように、世界観に入ってしまえば、次が気になって、ページをめくる手が止まらない作品です。

 そして、どちらの作品にも共通するのは、主人公の孤独さなのです。
 その強烈な孤独感は、時に、読む側の心も苦しくさせることもあって、それがクレア・ノースの魅力でもあるのです。

 近年は、このタイプの小説を発表していないのか翻訳が止まってる状態なのですが、早くあらたな物語を見せてほしい作家さんの一人なのです。