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私の好きなマープルの話(続アガサ・クリスティ)

Miss Jane Marple


 ミス・マープルは、ポアロに次ぐクリスティ作品の代表的な主人公(名探偵)として、12冊の長編に登場します。

1.「牧師館の殺人」(1930)
2.「書斎の死体」(1942)
3.「動く指」(1943)
4.「予告殺人」(1950)
5.「魔術の殺人」(1952)
6.「ポケットにライ麦を」(1953)
7.「パディントン発4時50分」(1957)
8.「鏡は横にひび割れて」(1962)
9.「カリブ海の秘密」(1964)
10.「バートラム・ホテルにて」(1965)
11.「復讐の女神」(1971)
12.「スリーピング・マーダー」(1976)


 12冊といっても、30冊以上あるポアロシリーズに比べると少なく感じるかもしれません。また、ポアロの「オリエント急行殺人事件」や「アクロイド殺し」、「ナイルに死す」のようなビッグ・タイトルはありませんが、その分、どの作品も粒のそろった面白さを持ったシリーズだと思います。

 今回はそのシリーズの私的ランキングを書いていこうと思います。

 

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第1位は
「ポケットにライ麦を」

投資信託会社社長の毒殺事件を皮切りにフォテスキュー家で起こった三つの殺人事件。その中に、ミス・マープルが仕込んだ若いメイドが、洗濯バサミで鼻を挟まれた絞殺死体で発見された事件があった。義憤に駆られたマープルが、犯人に鉄槌を下す! マザー・グースに材を取った中期の傑作。

 個人的に1番好きな作品です。
 引用に『義憤に駆られたマープルが、犯人に鉄槌を下す!』とありますが、マープルが登場するのは中盤なんですよね。前半モヤモヤさせられるのですが、マープルが登場してからは、いろんな謎が解明されていって....みたいな感じなのです。

 最後の手紙のシーンも印象的で、マープルの人情に心動かされ、忘れられない作品なのです。

 

第2位は
「復讐の女神」

マープルは、かつてともに事件を解決した富豪の死を知る。その一週間後、「ある犯罪調査をしてほしい」と富豪が記した手紙が届く。だが、具体的な犯罪の内容については何も書かれていなかった。マープルは手紙の指示通り旅に出るが、そこには様々な思惑をもつ人々が待ちかまえていた。『カリブ海の秘密』の続篇。

 いや~、この作品は、ある意味すごい作品です。
 まず物語の大半が「探偵が解くべき謎がない」という謎を解くことだったりするのですが、普通、そんな話思いつかないですよね。
 だけど、調査を進めていくと......みたいな感じで面白いのです。

 本書は、実質、最後に書かれたシリーズ作品で、『カリブ海の秘密』の続篇にあたります。ですが、実はもう1作続きがあって三部作となる構想だったとか...... 本書のラストで意外なものを手にするマープルのその後が謎として残ってしまったのはとても残念なのです。


第3位は
「鏡は横にひび割れて」

穏やかなセント・メアリ・ミードの村にも、都会化の波が押し寄せてきた。新興住宅が作られ、新しい住人がやってくる。まもなくアメリカの女優がいわくつきの家に引っ越してきた。彼女の家で盛大なパーティが開かれるが、その最中、招待客が変死を遂げた。呪われた事件に永遠不滅の老婦人探偵ミス・マープルが挑む。

 すごく悩んだのですが、第3位は、1980年の映画『クリスタル殺人事件』の原作ともなった本書を選びました。
 この作品は、フーダニットとしてよりもホワイダニットの名作だと思うんですよね。

  「鏡は横にひび割れて」というタイトルも素晴らしい。

 なぜ、凍り付いた表情だったのか.....タイトルに始まり、タイトルに終わるこの物語は悲劇ですが、読み終えるとタイトルはこれしかない!って気持ちにさせてくれます。

 ちなみにタイトル画像は『クリスタル殺人事件』でのエリザベス・テイラーの一場面です。


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 第3位とするのに悩んだ他の作品は「予告殺人」と「パディントン発4時50分」ですが、どちらも序盤で引き込まれる作品なんですよね~。

 「予告殺人」では、新聞の広告欄に「殺人お知らせ申しあげます。12月29日金曜日、午後6時30分より…」という予告文らしきものが掲載されることから始まっていくんですが、それが.....みたいな感じでグイっと引き込まれますよね。

 「パディントン発4時50分」では、並走する別の列車の中で起きた殺人の光景を見た夫人の話から始まります。死体はなく警察も相手にしなかったのに、ミス・マープルだけが興味を持って...という序盤。

 どちらも、エンタメ度が高くて一気に読んじゃうんですが、一歩、何かが足りなかったということで、第4位・5位としたいと思います。


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 実は、学生の頃、ポアロは読んでいたんですが、マープルものは読んだことがなくて、けっこういい年齢になってから読み始めたんですよね。
 なにかの本で、老嬢ミス・マープルは『安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)』の代表みたいに紹介されていたのですが、読み始めてみると、普通に調査して回るんですよね。場合によっては他人のコテージに忍び込んだり、犯人に狙われたりと、なかなかの冒険者で、けっこうイメージが変わった分、楽しく読めたような気がしています。

 その冒険心が後年の作品になるほど強く感じられるのは、ミス・マープルに作者のクリスティの年齢が近づいていったことと無関係ではないと思うんですよね。
 そう思うと、クリスティの姿をだぶらせながら読むのが正しい読み方かもしれませんね。


(過去日記)
 「アガサ・クリスティとエラリー・クイーンの話」