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我が町のSF小説(間宮改衣の「ここはすべての夜明けまえ」に寄せて)


 ちょっと変わった読み味の本に出会いました。

 それが、今作でデビューとなる間宮改衣かいさんの「ここはすべての夜明けまえ」という本で、第11 回ハヤカワSFコンテストの特別賞を受賞した作品です。

 2123年10月1日、九州の山奥の小さな家に1人住む、おしゃべりが大好きな「わたし」は、これまでの人生と家族について振り返るため、自己流で家族史を書き始める。
 それは約100年前、身体が永遠に老化しなくなる手術を受けるときに父親から提案されたことだった。

出版社の内容紹介より



 二一二三年十月一日ここは九州地方の山おくもうだれもいない場所、いまからわたしがはなすのは、わたしのかぞくの話です。

 身体が老化しなくなる手術を受けた「わたし」が、今から100年ほど経った世界で、いなくなった家族について手記(家族史)を書き始めることからこの本は始まります。

 「わたし」が書く文章は ”ひらがな” が多め(画数の多い漢字は面倒くさい設定)なんで、ついつい「アルジャーノンに花束を」を思い出しちゃったりするんですが、読み味は異なります。
 ロボットというわけではないけれど、”普通の人間” ではなくなってしまった「わたし」が、この100年間に起きたことを綴っていくのですが、そこには、今、私たちの社会が抱える歪さを内包しつつ、また、現代と地続きなんだけど、ちょっと歪んだ未来社会の様子も描かれていて面白いのです。

 何かドラマチックな展開があるわけではなく、エピソードが淡々と語られている孤独で静謐な物語なんですが、読み終えると、この本で描かれた「愛」のカタチが愛おしくてたまらなくなるんです。


 単行本で120ページ程度の中編なんで、すぐに読めてしまいますし、SFコンテストに応募された作品とはいえ、それほどSF成分が高いわけではないので、普段、SFを読まない人でも手に取りやすい本だと思います。

 先日、単行本が発売されたばっかりなんですが、昨年末のSFマガジン2月号に全文掲載されてたこともあって、けっこう注目されてるみたいなんで、ちょっとした読書にはピッタリなんじゃないかと思います。


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 今回の記事タイトルに ”我が町” と付いていますが、実は、間宮改衣かいさんは、自分の住んでる町出身の作家さんなんです。
 同郷の小説家がいなくて、寂しく思ってたところに、しかも、SF小説家さんが出てきたなんて、私としては嬉しくてしょうがないんですよね。

 次にどんな物語を読ませてくれるのか、これから、ほんと楽しみにしているのです。




 作品中、主人公の「わたし」がよく聴いたボーカロイド曲として、Orangestar作の「アスノヨゾラ哨戒班」と「DAYBREAK FRONTLINE」が出てくるので紹介しておきます。
 本と併せてお楽しみください!


「アスノヨゾラ哨戒班」


「DAYBREAK FRONTLINE」


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