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特殊設定ミステリーのホープたち

 Special settings


 読書を続けていると、趣向に偏りが出てしまうのは仕方ないことで、自分の場合、村上春樹さんや島田荘司さん、宮部みゆきさん、京極夏彦さん、恩田陸さん、綾辻行人さん等々、自分より年上の作家さんが好みの中心なんですなんよね。
 同世代ならば、伊坂幸太郎さんや近藤史恵さん。
 ちょい下の世代でも、米澤穂信さんや辻村深月さんぐらいまでかな....

 好きな作家さんて、つきあいが長くなることも多くて、一緒に歳を取っていく感じなんですよね。

 多分、経る年月の中で、本に対する感性も変わってきてるのかもしれません。安定した読書を求めるというか、わざわざ新しい作家さんを読まなくても読みたい本はいっぱいあるし....って感じなのです。

 自分がアラフィフとかになると、なんか20代や、30代半ばぐらいまでの若手作家さんは、読まなくなっちゃってたんですよね。
 

 今ひとつ若い作家さんの感性についていけなくなったというか、会話表現とかが軽く感じてしまったり、舞台設定に無理があると、素直に楽しめなくなってるような気がします。

 

 ただ、考えてみれば、好きな作家さんたちが若手の頃の作品なんかは、今でも好きなわけで

 綾辻行人さんの『十角館の殺人』
 伊坂幸太郎さんの『オーデュポンの祈り』
 辻村深月さんの『冷たい校舎の時は止まる』などなど

 デビュー作では凝りすぎるぐらい舞台設定に凝っていて、けっこう人工的な世界だったりするんですよね。

 そう思うと、単に、読まないことについて、言い訳してるだけのような気もして、近年では努めて読むようにしています。

 まあ、各種ランキングの上位の若手作家さんの本を読んでるだけなのですが、読んでみると、「あ~、こういうの好きだったな~」とか「きっと〇〇さんの作品を読んで育った世代なのかな~」とか、けっこう楽しく読めたりしています。

 前置きが長くなりましたが、今回は、自分が楽しみにしてる若手のミステリー作家さんたちについて”note”します。


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まず一人目は

阿津川辰海さん

 ”あつかわたつみ"さんと読むのですが、1994年生まれの2017年デビュー組です。
『紅蓮館の殺人』が”このミス2020の第6位”、『透明人間は密室に潜む』は”このミス2021の第2位”となった作家さんです。


山中に隠棲した文豪に会うため、高校の合宿を抜け出した僕と友人の葛城は、落雷による山火事に遭遇。救助を待つうち、館に住むつばさと仲良くなる。だが翌朝、吊り天井で圧死した彼女が発見された。
これは事故か、殺人か。
葛城は真相を推理しようとするが、脱出までのタイムリミットは35時間。
生存と真実、選ぶべきはどっちだ。

 『紅蓮館の殺人』は、クローズドミステリーの一種なのですが、最初の殺人発生が、絡繰りのある館の吊り天井で圧死。

 もう一度言います、吊り天井で圧死!。

 ちょっと前の自分なら読まなかったかもですが、こういう外連味のある設定は、綾辻行人さんの初期作品を読んでた頃の自分は大好きだったんですよね。なんか、その頃の読書を思い出しながら読了でした。

 登場人物には、高校生探偵と、探偵になりたかった高校生、そして探偵をやめた探偵が登場するのですが、それぞれの思いが絡まって、なかなか面白かったのです。


透明人間による不可能犯罪計画。裁判員裁判×アイドルオタクの法廷ミステリ。録音された犯行現場の謎。クルーズ船内、イベントが進行する中での拉致監禁──。

 この本は、今年の各種ランキングで上位に推されている作品なのですが、4つの中編を収録した中編集です。

 表題作がなかなかの舞台設定で、透明になってしまう奇病が蔓延した世界が舞台で、透明人間たちには一定の制約が課せられた世界だったりするのです。そんな世界で密室殺人が成立するのか?って話なんですが、結末は”おおっ”そうなのかって唸らされる作品でした。

 昔々、山口雅也さんの著書に『生ける屍の死』という、死者が甦ってくる世界での殺人をテーマにした傑作ミステリーがあったのですが、それを思い出させてくれる作品でしたね。
 ランキング上位も納得で、早くも次回作が楽しみになった作家さんだったりします。


二人目は

今村昌弘さん

 1985年生まれの2017年デビュー組です。
 デビュー作の『屍人荘の殺人』が”このミス2018の第1位”の他、各種ランキングの1位を総なめにするなど、インパクトが大きすぎました。
 続くシリーズ2作目の『魔眼の匣の殺人』も”このミス2020の第3位”となった作家さんです。

合宿一日目の夜、映研のメンバーたちは肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。
緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!!

 ミステリーの中には、”クローズド・サークル”という、閉ざされた環境の中で起きる事件を描いた作品がたくさんあります。
 限定された状況での事件の方が、”この中に犯人がいる!”みたいに人物が限定さやすいので、犯人当ての趣向が強まるんですよね。
 なので「吹雪の山荘」や「海の孤島」、「災害による途絶」など、作家さんは”クローズド”される状況にいろんな工夫を施すわけなのです。

 そんな中、『屍人荘の殺人』では、その”クローズド”のさせ方が破天荒で、最初はついていけないと思いながらも、最後まで読むとかなり楽しかったんですよね。

 こういう新しいアイディアに触れると、ほんと、昔の自分の読書を思い出してしまうのです。


三人目は

白井智之さん

 1990年生まれの2014年デビュー組です。
 『おやすみ人面瘡』が”このミス2017の第8位”の他、『名探偵のはらわた』は”このミス2021の第8位”となった作家さんです。

 タイトルからして、ちょっとグログロな感じがして、敬遠してたのですが、『名探偵のはらわた』を読んでみたら、けっこう面白くて、ちょっと追いかけてみようかなと思ってる作家さんです。

稀代の毒殺魔も、三十人殺しも。名探偵vs.歴史的殺人犯の宴、開幕。推理の果ては、生か死か――。

 ある事情があって、現代に甦った過去の殺人鬼たちと名探偵の対決!って感じの話なんですが、世界観についていけなくとも、推理には本格の香りが漂ってたりしていて面白いんですよね。
 カバー画はなんとも言えませんが、けっしてグロではなかった作品でした。


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 先日、購入した『このミス2021』で、大森望さんが書いていた記事に”特殊設定ミステリー”って言葉があったのですが、今回紹介した本も、普通の世界ではない、SFやオカルトと融合した世界観の作品で、ほぼ、そのカテゴリーに当てはまるのかなと思います。

 なんか、こういう特殊設定って、若手だからこそ、振り切って描ける面があるんじゃないかと思うんですよね。
 そこに熟練の作家さんにはない魅力があるような気がします。

 まあ、そういう特殊設定ミステリーは好き嫌いが分かれると思うのですが、島田荘司さんをはじめ、綾辻行人さん世代の新本格ブームを経験した人なら、あの頃のワクワク感を思い出すように、若手作家さんの本を読むのもいい感じなのです。




※ ただ、『名探偵のはらわた』みたいな装幀だと、ちょっとカウンターに持っていくのに抵抗感はあるんですけどね.....



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