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有栖川有栖のロジカルゲーム【作家アリス編】

 Alice-gawa Alice


 大好きなミステリー小説について
 以前の記事で、現代の新しい日本の三大探偵を考えてみたのですが、その時の一人である「火村英生」をシリーズ探偵として、多くの作品を発表している有栖川有栖先生について"note"していこうと思います。


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 有栖川有栖先生の作品には、有栖川有栖(通称アリス)という登場人物のいるシリーズが2つあって、1つは大学生の有栖川有栖が出てくる<学生アリスシリーズ>、そして、もう1つがプロ作家の有栖川有栖が出てくる<作家アリスシリーズ>です。

 その<作家アリスシリーズ>の探偵役を務めるのが「火村英生」なので、このシリーズは<火村英生シリーズ>とも呼ばれています。

◎作品リスト

1.46番目の密室(1992年:講談社)
2.ダリの繭(1993年:角川)
3.ロシア紅茶の謎(1994年:講談社)*
4.海のある奈良に死す(1995年:双葉社)
5.スウェーデン館の謎(1995年:講談社)
6.ブラジル蝶の謎(1996年:講談社)*
7.英国庭園の謎(1997年:講談社)*
8.朱色の研究(1997年:角川)
9.ペルシャ猫の謎(1999年:講談社)*
10.暗い宿(2001年:角川)*
11.絶叫城殺人事件(2001年:新潮社)*
12.マレー鉄道の謎(2002年:講談社)
13.スイス時計の謎(2003年:講談社)*
14.白い兎が逃げる(2003年:光文社)*
15.モロッコ水晶の謎(2005年:講談社)*
16.乱鴉の島(2006年:新潮社 )
17.妃は船を沈める(2008年:光文社)*
18.火村英生に捧げる犯罪(2008年:文藝春秋)*
19.長い廊下がある家(2010年:光文社)*
20.高原のフーダニット(2012年:徳間書店)*
21.菩提樹荘の殺人(2013年:文藝春秋 )*
22.怪しい店(2014年:角川)*
23.鍵の掛かった男(2015年:幻冬舎)
24.狩人の悪夢(2017年:角川)
25.インド倶楽部の謎(2018年:講談社)
26.カナダ金貨の謎(2019年:講談社)*

 有栖川先生のキャリア初期からコンスタントに発表されているシリーズですが、うち16作が中短編集(*)です。
 中短編の多いシリーズといえますが、数えてみると収録作品は89編ありました。

 なので、今のところ、このシリーズには10の長編と89の中短編があることになります。

 また、出版社が講談社、角川書店、光文社、文藝春秋など複数にまたがっているので、シリーズを完読していくのには、読み残しがないように注意が必要となります。


◎シリーズの特徴

 関西圏を舞台としたシリーズで、探偵役の火村英生は、大学の若き准教授という設定です。
 専攻は「犯罪社会学」で、殺人事件が起きると”フィールドワーク”と称して現場に赴き、必要に応じて警察に協力しているという設定です。

 このシリーズは、”トリック”よりも”ロジック”を楽しむシリーズです。
 大がかりなトリックが出てくることは少ないです。
 その代わり、探偵が論理的に物事を整理して、わずかな手がかりから鮮やかに真相を推理する。そんなロジックの部分が魅力なのです。(逆に比較的大がかりなトリックが出てくる作品は.... だったりします。)

 そんな純粋なロジックが楽しめる短編が『スイス時計の謎』と『ロジカル・デスゲーム』です。

『スイス時計の謎』
 コンサルタント会社を経営していた男が、事務所で何者かに殴り殺される事件が起きるのですが、何故か、現金やクレジットカードには手をつけず、「腕時計」だけが持ち去られていたことから、探偵:火村英生が鮮やかに事件を解決します。
 短編集の表題作なのですが、短編なのに長編並みのカタルシスが味わえます。読んでる側も混乱するほど切れ味が鋭い傑作なのです。


『ロジカル・デスゲーム』
 短編集「長い廊下がある家」の一篇ですが、犯人が用意したジュースの入った3つのグラスのうち、1つだけに致死量の毒が入れられていて、それを選ばせるゲームを仕掛けられる展開の話です。
 状況に現実味は乏しいですが、ピンチを切り抜ける火村のロジックは鮮やかです。
 ちなみに、表題作をはじめ、他の3篇も面白いです。


 ロジックを楽しむ短編なら、講談社から出ている「国名」を冠した短編集がお薦めなのですが、7冊もあるので大変!という方は、傑作集もありますので、そちらをお薦めします。
 『赤い稲妻』、『ブラジル蝶の謎』、『ジャバウォッキー』、『猫と雨と助教授と』、『スイス時計の謎』、『助教授の身代金』の6篇が収録されています。


◎探偵の魅力

 よく通るバリトンで端正な顔立ちをしている探偵:火村英生と、語り役の作家:有栖川有栖の関西弁によるやり取りが楽しいのが、このシリーズが人気である要因の一つです。
 アリスからはいつも”変人”と言われる火村ですが、心は許してるようで、的外れな推理をするアリスを馬鹿にするものの、二人の間に流れる親しい雰囲気が良いのです。

 そんな二人の関係を楽しむなら、やはり長編で、二人の最初の事件だった「46番目の密室」と、国名を冠した長編「マレー鉄道の謎」辺りがお薦めです。

 日本のディクスン・カーと称され、45に及ぶ密室トリックを発表してきた推理小説の大家、真壁聖一。クリスマス、北軽井沢にある彼の別荘に招待された客たちは、作家の無残な姿を目の当たりにする。彼は自らの46番目のトリックで殺されたのか――。
 マレーの楽園、キャメロン・ハイランドを訪れた火村と有栖川。二人を迎えたのは、舞い飛ぶ蝶ならぬ「殺人の連鎖」だった。ドアや窓に内側から目張りをされた密室での犯行の嫌疑が二人の友人にかけられる。帰国までの数日で、火村は友人を救えるのか。

 国名が冠された作品は、その国で事件が起きるわけではないのですが、この本はマレーが舞台となっている珍しいパターンです。
 異国情緒も味わいながら二人の旅が楽しめるのです。


※探偵:火村英生の過去

 シリーズの中では、時々、火村の過去のことについて暗示されることがあります。と、いっても、詳しく何があったのかは語られないままなので、シリーズ全体の謎として存在しています。
 犯罪学を研究している理由を「人を殺したいと思ったことがあるから」と説明したり、人を殺す悪夢にうなされたり、犯人と同調するような発言があったりと、何か、過去にあったことはうかがえるのですが、親友のアリスにもそのことは話されないままなのです。
 いつか、火村の過去が主題になる作品が読めるのかもしれませんね。


◎TVドラマ

 2016年には、斎藤工さん(火村英生役)と、窪田正孝さん(作家アリス役)でドラマ化されていました。

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 ドラマを観ていた方は、結末を知ってる話に出会うかもしれませんので、紹介をしておきます。
 短編が原作の場合は収録されているタイトルを併記しています。

※『』ドラマ原作()収録されている作品

第1話『絶叫城殺人事件』(「絶叫城殺人事件」収録)
第2話『異形の客』(「暗い宿」収録)
第3話『准教授の身代金』(「モロッコ水晶の謎」収録)
第4話『ダリの繭』
第5話『ショーウィンドウを砕く』(「怪しい店」収録)
第6・7話『朱色の研究』
第8話『アポロンのナイフ』(「菩提樹荘の殺人」収録)
第9話『地下室の処刑』(「白い兎が逃げる」収録)
最終話『ロジカル・デスゲーム』(「長い廊下がある家」収録)

スペシャルドラマ『ABCキラー』(「モロッコ水晶の謎」収録)
Hulu配信①『探偵、青の時代』(「菩提樹荘の殺人」収録)
Hulu配信②『切り裂きジャックを待ちながら』(「ペルシャ猫の謎」収録)
Hulu配信③『狩人の悪夢』


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 今回は、「作家アリス」シリーズの紹介でしたが、次回は「学生アリス」シリーズについて”note”します。