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【small design】素材②

昨日のnoteで、素材についての私なりの考え方を書いた

素材には本来持っている特徴があり、それを真似ようとしても、人間の感覚を誤魔化すことはできない

という趣旨のものである
例えば木造の壁をモルタルで塗ってもコンクリートにはならないということである


しかし、この人間の視覚に関する本能を逆に利用するデザインがある

世界的建築家である妹島和世氏の設計による住宅『梅林の家』である

三面道路の敷地に建つ、一見普通のホワイトキューブの住宅である
しかし、この住宅は妹島和世氏の代表的な作品として有名である

この住宅は、鉄板構造という特殊な構造で出来ている

外壁部分の壁は断熱材を含めても厚さ40ミリ程度
室内を仕切る壁は厚さ16ミリの鉄板でできている

通常の木造の壁厚は約130ミリ程度であることを考えると極薄である

壁の薄さは、鉄板という硬い素材であるが、隣り合う部屋と部屋の距離感を不思議な感覚に惑わせてしまうようだ

しかも、その極薄の壁に色々な大きさの穴が空いているので、部屋の広さすらよく分からなくなるらしい

これは人間の視覚の本能的な感覚を逆手にとったデザインである

壁厚と鉄板という素材が持つ硬さや強さが、住宅における場所と場所の距離感を曖昧にしているのだろう

壁厚を小さく(=small)することで生まれる豊かさと言えるデザインだろう


新国立競技場の設計など飛ぶ鳥を落とす勢いで世界中で注目されている隈研吾氏も素材を武器にしている建築家である

栃木県那須町芦野にある『石の美術館』は2001年にオープンした私設美術館である

既存の石蔵を改修し、新たに芦野で採れる石を使った美術館をつくったのだ

本来石は積み重ねて擁壁やお城の基礎などに使われている印象である
産地にもよるが、サイズも硬さも異なる石を細工するのは難しい

しかし、隈研吾氏はこの芦野石をスライスして格子状に積み重ね、光を通す穴を開けたのだ
これには、非常に高い技術が求められる
だが、これにより、『光を通す石』という今までになかった建築素材を生み出したのである

隈研吾氏が今、世界中で人気を集めているのは、地域の資源を使って、そこに秘めたポテンシャルを引き出すことで新たなデザインを生み出すことに成功しているからと言えるだろう


素材についての私の考えをまとめてみた

素材には元来持っている特徴がある
それを生かす構造や仕上げをデザインすることが建築家に求められるスキルではないだろうか

闇雲に『◯◯っぽい』ものをつくろうとしても人間の目は誤魔化すことはできない

もっと素直に素材と向き合うことが大事なのかもしれない

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