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本の紹介『ウィメン・ウォリアーズ はじめて読む女戦記』

『ウィメン・ウォリアーズ はじめて読む女戦記』
パメラ・トーラー著 西川知佐 訳
花束書房 2022年 2500円+税

 戦争に女が登場することは、男中心社会では都合が悪かった。だから、戦争の歴史から女は消されてきた。この本は、古今東西の女戦士をたくさん紹介する。
 著者は女性フェミニスト歴史家だ。古代から現代までの正統派の歴史を鋭く批判し、自由奔放に語る。

 国民的英雄になれば、街の通りの名前になる。彫像や切手にもなる。学校の教科書になり子どもに教えられる。ゲームに登場することもある。
 次の世代に引き継がれて、憧れを生み、お手本となって心を突き動かして、次の英雄を誕生させる。
 だが、女戦士の場合は、国民の英雄になるのは極めて例外的である。自由を求めて祖国のために戦った英雄的な女戦士でさえ、忘れ去られることが多い。

 著者は残された記録を頼りに、英雄も悪党も含め、いろいろな女戦士を紹介する。
 権力欲の固まりで政敵や家族まで殺害する恐ろしい女も登場する。女は生存欲求が強いから、女が政治を取り仕切れば戦争は起こらない、というのはどうやらウソのようだ。
 戦士が男に限られた時代にあっても、勇ましい女は男装して戦士になる。ばれないように努力するが、発覚してしまう女もいる。涙ぐましい努力で上官を口説いて兵士を続ける女もいる。
 退役後、自分の物語を公表し人気者になった女戦士もいるし、生涯黙っている女戦士もいる。
 それぞれが人間ドラマであり、「男だから・・・」「女だから・・・」などという言葉はどうでもよくなる。

 フェミニズム活動家やジェンダー論を主張する人たちにとっては必読の書であろう。読めばさらに深く考えるきっかけとなり、考えが深まっていく。
 例えばジェンダー論からは、女には女だからこその戦い方があったという話もある。
 古代ギリシャのスパルタとアルゴスの戦いで、アルゴス軍は敗走し森に逃げたのだが、火攻めによって軍が全滅した。
 詩人テレシラは、アルゴスの街を守るために女性たちを率いて決死の防衛戦を展開した。女性たちは、調理用の包丁やフライパン、儀式用の刀などで武装し、城門を破って突入してくるスパルタ兵と戦った。
 スパルタ軍は思った。女どもと戦って勝利したとしても、後ろ指を刺される。もし負けたら二重の不名誉となる。そして戦うことを止め撤退を決めた。
 その後、スパルタはアルゴスを攻撃することはなかった。

 目立つ戦士や、注目され喜ばれそうな話が中心となるが、それは、記録に残っている資料が限られているのだからやむをえない。
 欲を言えば、忘れ去られる女戦士や、決して目立つことのない女スパイなども積極的にとりあげ、その人生を紹介して欲しかった。エンタメ系の勢いが強くなり、男スパイだって、そのかっこよさばかりが強調されてきた。たまに登場する女スパイは、男スパイの女版でしかない。
 目立たない女が歴史を変えたとなれば、目立つことばかりを目指して行動する若者たちに、考えるきっかけを与えるだろう。

 女戦士の話となれば、アレクシェービッチの『戦争は女の顔をしていない』を忘れてはならない。世界的ベストセラーであり、ノーベル賞を受賞した。日本でマンガ化もされ、若者たちも読むようになった。
 第2次大戦中、ソ連はナチスドイツと、国家の存亡をかけて戦った。大祖国解放戦争だ。そのときのソ連の女性軍属は数百万人と言われる。戦後になって、その中の500人以上をインタビューし、あふれ出る言葉を記録したのがアレクシェービッチである。
 戦争の悲惨さ、残酷さ、その体験の精神に刻んだ傷は戦後になっても癒えることはない。精神的に破綻する女性も多い。男なら英雄となって称えられるが、女戦士の功績は隠される。 
 彼女は大祖国解放戦争を舞台に、そこへ参加した女戦士の視点から戦争をとらえた。
 それに比べ、ここで紹介する『ウィメン・ウォリアーズ』には、それほどの熱さはない。極めて冷静だ。
 だが、注目すべきは、視点を最大限に広げた点だ。古今東西、古代から現代まで、西欧に限らず、アジア、アフリカ、中南米も含め、境界をとりはらった。だから広い視点で戦争というものを考えさせる。

 読んでいるうちにふと考えた。
 人類はなぜ戦争という過ちをくり返すのか? そんなことはない。同じ過ちをくり返さないように、短期に勝利するために周到に準備してから始めるようになった。
 何故戦争を一旦始めると、途中で止められないのか? そんなことはない。戦争は止められる。止められるから、人類が地球上に生存しているのである。
 何故戦争を起こすのか?
 ついこのように考えてしまうのは、戦争が起こるのは仕方がないと決め付けているからであろう。戦争のない国や時代もあった。
 時の支配者が欲望に駆られて始める戦争もあったし、侵略者から国を守るための戦争もあった。女が戦争を防ぐこともあったし、女が戦争を起こすこともあった。戦争というものを一律にとらえるのではなく、それぞれの戦争を個別にとらえ考えるべきだろう。
 この本を読む際は、女の戦いの歴史として見るのではなく、もっと広い視点に立ち、戦いの歴史をさまざまな角度から見るという中の一つとして読めば、わかってくることがたくさんある。そのように読むのがよさそうだ。

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