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「過去最多」が止まらない

今週は「過去最多」という言葉をニュースで何度も聞くことになりました。

言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染が一気に拡大しているからです。東京都では29日(木)に新たな感染者数が3865人と過去最多に。全国で見ると、同じ29日に1万699人の感染が発表され、1日の発表としては初めて1万人を超えました。

政府は緊急事態宣言の対象地域に埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県を追加することにしましたが、この効果は・・・どうなのでしょうか?東京では今月12日から緊急事態宣言が出ましたが、その後も新規感染者は増え続けています。

それはそうですよね。
「緊急事態」が4度目となり、並行してオリンピックという大規模イベントが開催となりました。マスクをしていない選手たちが世界最高レベルの競技を繰り広げる一方で、自分が感染に気を遣うというのは不思議な夢を見ているような気分になります。

国民は「この日常、何かおかしい」という感覚を持ってしまい、「出かけるぐらいはいいか」というモードに入っています。ここで警鐘を鳴らすのは政治の役割のはずですが、昨夜の菅首相の会見では特に目新しい対策やメッセージがなく、「不要不急の外出はやめて、オリンピックはテレビで」と言っていました。国民としては「以前と何も変わらないんだな」という受け止めが大勢でしょう。

「誰もこの流れを止められない」・・・この状況からある曲を思い出しました。ホレス・シルヴァー(p)のアルバム「In Pursuit Of The 27th Man」に収録されている「Nothin' Can Stop Me Now」です。

ホレス・シルヴァー(1928-2014)はファンキー・ジャズの代名詞のような存在ですが、ゴスペル、アフリカ、ブラジルといった音楽にも興味を示してきました。1972年に制作されたこのアルバムでは彼としては珍しくビブラフォンを入れて、ブラジルのミュージシャンの作品を取り上げるなど、後のフュージョンにも通じるポップさが特徴となっています。

参加メンバーではランディとマイケルのブレッカー兄弟が当時はまだ無名に近かったにもかかわらず起用されています。彼らの新しい響きがあるトランペットとテナーがシルヴァーの音楽を瑞々しいものにしました。

1972年10月6日と11月10日、ニュージャージーのルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音。

Randy Brecker(tp,fluegelhorn)  Michael Brecker(ts)  David Friedman(vib)
Horace Silver(p)  Bob Cranshaw(eb)  Mickey Roker(ds)

②Kathy
ブラジルのミュージシャン、モアシル・サントスの曲。この曲での編成はピアノトリオ+ビブラフォンです。ビブラフォンのおかげでクールな印象がありつつ、シルヴァーらしい躍動感が織り交ぜられています。モアシルの原曲を踏まえてなのかは分かりませんが、独特のリズム・パターンがピアノトリオによって繰り出される中、静的なデビッド・フリードマンのビブラフォンがメロディを奏でます。そのままのフリードマンのソロへ。彼らしい硬質な音で、変則リズムに乗りながら空間をうまく生かしてスイング感のあるソロを取っています。粘着質のない響きが新しく、フュージョンにつながる70年代サウンドという感じがします。続くシルヴァーのピアノは左手でリズム・パターンを刻みながら右手は最小限に、短くまとまっています。シルヴァーのブラジルへの傾倒を示す佳作といった感じでしょうか。

③Gregory Is Here
シルヴァーのオリジナル。メロディーはラテン・フレーバーがありながら現代的な響きで、こちらも「フュージョン前夜」という感じがします。聴きものは先頭で入るマイケル・ブレッカー(ts)のソロ。後の演奏と比べると相当荒削りですが、20代前半ですから当然です。とにかく圧倒的なテクニックがあり、冒頭から突っ走っています。べたつかない音色でうねるようなフレーズを重ねるスタイルが見事にできあがっており、ラテン・リズムを生かしながら全体のソロを構成するところもなかなかです。続くソロはランディ・ブレッカー。こちらはフリューゲルホーンを使用しているようで、柔らかい音ながら演奏は立派に攻撃的です。従来のハードバッパーとは異なる鋭いスピード感が彼の個性で、特に後半のハイ・トーンはフリューゲルホーンでここまでできる人はなかなかいないと思います。最後のソロはシルヴァー。ピアノトリオになると急に「ブルーノートの音」になるのが面白いところです。ここは彼が得意とするラテンリズムにファンキーなソロが乗るパターン。明るい名人芸を堪能できます。

⑤Nothin' Can Stop Me Now
こちらもシルヴァーのオリジナル。ちょっと「投げやり感」のあるユーモラスなブルースで、「誰が何と言おうと、俺は好きにするさ」とでも言っているかのようです。2ホーンのユニゾンでメロディが提示された後、シルヴァーのソロに入るのですが、2管によるバッキングが続きます。「コール・アンド・レスポンス」的なアレンジで、これを受けてゴスペル調のピアノが力を増していくのがいい感じです。だんだん打ち付けていくようなタッチになり、ノリが止まらなくなるというか・・・。途中でインターバル的に2ホーンが入りますが、この後もホーンをバックにシルヴァーのソロが続きます。これだけの舞台を用意されるとシルヴァーは燃えざるを得ないというか、フェードアウトまで熱演を続けています。

この他、④Summer In Central Park はタイトルの通り、夏のNY・セントラルパークでの気晴らしからインスパイアされた曲とのこと。いまの時期にぴったりです。

それにしても、「だれにも止められない」まま感染はどこまで拡大するのでしょうか。結局、かつての大阪のように医療がギリギリのところまで行って本当に恐怖感が芽生えない限り何も変わらないとすると、悲しいことです。

今回の五輪に意味があるとすれば、「パンデミックの中でのビッグイベントは禁物」という教訓を残してくれたことでしょうか。

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