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「未来の肉をめぐる風景」は変わるのか

国連の気候変動対策の会議「COP26」(イギリスで開催)が12日に最終日を迎えましたが、途上国への資金支援などについて意見が分かれて交渉は難航、会期が延長されました。現地時間の13日のうちの合意を目指して交渉が続けられるそうです。

COP26で改めてSDGs(持続可能な開発目標)に脚光があたったためか、ここのところ「地球に優しくあるためには」という記事を多く読みました。中でもびっくりしたのは今月7日付の朝日新聞GLOBEに出ていた「Vegan」に関する特集でした。ビーガンとは「動物性食品を一切取らない」完全菜食主義者のことです。肉・魚だけでなく卵・乳製品といった食材を摂取しないという徹底ぶりです。

びっくりしたのはアスリートでも「ビーガン」の人がいることです。いまフィギュアスケートのNHK杯でアイスダンスに出場している小松原美里選手もビーガンとのこと。菜食でアスリートの体を作ることができるのですね。小松原選手は健康上の理由からビーガンを選んだそうですが、「地球環境のため」といった理由で選ぶ人もいるそうです。

『ひと目でわかる 地球環境の仕組みとはたらき図鑑』(トニー・ジュニパー著、千葉喜久枝訳、創元社)によると次のようなデータがあります。
食料を生産している世界の土地のうちおよそ3分の1は肉類と乳製品を供給する家畜を飼育するために利用されている。主な新興経済国で食事の嗜好が変化すると共に、この傾向は続いていく、と。

家畜は土地、水や飼料といった資源が大量に必要となります。これが全世界的に広がれば温室効果ガスの排出も拡大していくでしょう。肉は「環境への負荷が高い食べ物」としてやがて敬遠されていくのでしょうか。実際、「大豆ミートのハンバーガー」なども出てきていますし、未来の「肉をめぐる風景」は大きく変わっているような気がします。

安い肉を手軽に食べるときの高揚感は捨てがたいのですが・・・。そんなことを考えていたら、ルー・ドナルドソン(as)の作品を聴きたくなりました。「グレイヴィー・トレイン」です。

なぜこのアルバムかと言うと、ジャケットの写真が「ジャンク」な感じだからです。コカ・コーラの看板があるスタンド(?)の近くでおそらくはホット・ドッグにかぶりついているドナルドソンの様子からは、ファストフードのありがたさが伝わってきます。安い肉を使った食べ物を街中で簡単に手に入れ、お腹を満たせるうれしさ。身体にはあまり良くないかもしれないけど、テンションが上がるという感覚は古くなっていくのでしょうか。

ルー・ドナルドソンは1926年生まれ。いま95歳(!)。1950年代に活躍したジャズ・ミュージシャンの中で存命している貴重な存在です。チャーリー・パーカー(as)の影響を大きく受けていますが、ソウルやブルースに軸を置いた演奏が印象的です。「グレイヴィー・トレイン」ではドナルドソンのバンドで多用された「コンガ入り、ワンホーン」という編成で楽しい演奏を聴かせてくれます。

1961年4月27日、ニュージャージーのルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音。

Lou Donaldson(as) Herman Foster(p) Ben Tucker(b) Dave Bailey(ds)
Alec Dorsey(congas)

①Gravy Train
ドナルドソンのオリジナル。まさに「ジャンキーなハンバーガーを食べているような香りがする」曲です。ベース、ドラムとコンガでブルージーなイントロがつけられ、これまたブルース臭たっぷりのドナルドソンのアルトでメロディが提示されます。そのままアルトのソロへ。これが何とも「悪い」味わいと言いますか、音を震わせるような演出を取り入れつつ、泥臭い演奏が続きます。安っぽいプレイに陥りかねないギリギリのところでこらえているのはアルトゆえにベタつき感が薄く、ドナルドソンの音がビバップ直系ではっきりと「鳴っている」からでしょう。続くハーマン・フォスターのピアノソロもゴスペルを弾いているが如しの力強くブルージーなソロ。これは曲の雰囲気に浸りきるしかない演奏です。

②South Of The Border
フランク・シナトラも歌ったマイケル・カーの作曲。こちらは思いきり軽快で、楽しい演奏。冒頭、ピアノで提示される「チャッ・チャッ」というコード・アレンジが後々まで生きてくるのが心地よい。明るいメロディがドナルドソンによって示されてからアルト・ソロへ。ここではパーカーの影響も感じさせる音の連なりと共に、リラックスした朗らかな音色が印象的。そうそう、ジャズって楽しいんだよな・・・ということを改めて教えてくれるプレイです。ハーマン・フォスターも黒っぽさを抑えた演奏で好調なソロを取ります。そして、演奏全体を祝祭的なムードにしているのにコンガのリズムが大きく貢献しているのも忘れてはいけないでしょう。

この他、ちょっと歌謡曲的にドナルドソンが朗々と演奏する
③Polka Dots and Moonbeams 、⑥Candy も良いです。

いつか「マックの食べ過ぎで太っちゃったよ・・・・」などという会話が成立しなくなる時代になるのでしょうか。それとも、肉食への人間の欲望は止められないのでしょうか。

自分も含め、「一度覚えた贅沢」を捨てられるのかというのは途方もない課題だと思います。「地球の未来を想像し、行動する」って難しいですね。こんなことを書いたらグレタ・トゥーンベリさんに「だから大人はダメなんだ!」と怒られるかな・・・。

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