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幻想ショートショート ふたりの神様

まるで同じ気温でも、少し湿った空気の中にいると暖かく感じられます。

あなたに会えなくなってから、どれほど経ったでしょうか。1年、100年、10000年。

一億年前のわたしは、珊瑚礁から天体をつくって、まだ色の付いていない空の、決まった場所に並べていました。

それから幾ばくか経って、彼が現れました。まるでずっとそこに居たかのような顔をしていました。せり出した丘の上に立ったまま、安らかとも、疲れているともとれない、不思議な表情をしていました。

何百年か、彼の横顔を眺めていました。ある時、それまでずっと立ち尽くして空を見上げていた彼が、おもむろに動き出しました。

彼は、わたしが蒔いた珊瑚の隙間を指でなぞって、空に色をつけていきました。そうして、昼と夜ができました。あの、白い指先。

本当はずっと、空について考えていたかったのです。でも、夜に藍色をつけた彼を見て、とうてい敵わないと思ってしまいました。

彼の平然とした雰囲気に惹かれては、どこか憎らしい気持ちになります。

1人になりたい。わたしは逃げました。

でも、どこに行ったって、彼がつくった夜が付いて来ます。

走ったり、立ち止まったりしながら、海に着きました。誰かが途中で投げ出した、不完全な海です。

波の音だけが響きます。夢のようです。これではいけないのです。わたしは、彼からもらった憎らしい気持ちを潮の匂いに変えて、浜辺に撒きました。夢と現実を分けるために。

疲れました。わたしは、わたしがつくった海の底でしばらく休むことにしました。

その間、彼はどこかで、たくさんつくっていたようでした。夢と現のあわいで、その音が聞こえました。

彼は、あの表情とは裏腹に、焦っているようでした。不思議です。休めばいいのに。終わりなんて来ないのだから。

それから、どれほど経ったのでしょう。目が醒めると、また、夜でした。しかし、藍色の空に、それまで見たことのない大きな天体が浮かんでいました。わたしを白く照らす光。

その光を見ていると、なんとなく、彼はもうどこにもいないのだろうとわかりました。

終わりの来ないわたしは、彼に追いつくことができません。彼の居た丘へは戻りませんでした。


あの夜から一億年。いつもの夜。深夜2時。セブンイレブン。わたしはレジを叩きながら、なんとなく思い出しています。窓を眺めても、月よりも強烈な蛍光灯のせいで、わたしの顔ばかり映ります。

外は2月なのに、湿った風が吹いているようです。

いったい誰の仕業でしょうか。


「スキ」を押して頂いた方は僕が考えた適当おみくじを引けます。凶はでません。