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<5月と空>そんなときは土手に行ってみたら

朝から降り出した雨はほどなく止んだけど、雨のあとの冴えない空模様を、家の窓ごしにずっと眺めていた。今日も、特にすることがない。

どんよりとした味気ない空なんてあんまり好きでない。なのにそんな空を見ているとまるで自分の姿を見ているみたいで、ため息しかでない。

そうしていたら今日もいつのまにか終わってしまいそうで、ふとした焦燥感にかられた私は、空を見ることを言い訳にして、外に出ることにした。

目的地なんて、ない。何も考えずにぶらぶらしているうちに、川の土手に自然と足が向かう。土手になんて何もない。でもそこは、何も用事がない人間が、ただただ、そこに意味もなく滞在することを許してくれる。

目的もなく、何も用もないままにしかたなく土手にしゃがんだ私の目の前には、でも、確かな春が広がっていた。名前もしらない野草、昔遊んだ記憶のあるレンゲやカラスノエンドウ。昔はよく、必死になって四つ葉のクローバーを探していた気もする。

その場所は、静かで、押しつけがましくなくて、かわいらしくて、明るくて、とても心地のよい場所だった。私は、ただ、ただ、そこにしゃがんでいた。

ふと、目のまわりの景色が一段明るくなった気がして、見上げると、真っ青な空が分厚い雲のカーテンを押しのけて近づいてきていた。

人生は空模様。まさにそうなのかもしれない。

その青色に押しのけられて去っていく雲たちは、さっきまでのどんよりとした雲とはまるで違って、なんだか戦に向かう武士たちのような、りりしい表情の雲のように見えた。

視線をまた地面に戻して、野草を眺めた。さっきの自分とはちょっと違う自分がそこにいる気がした。

今日は、四つ葉のクローバーは、探さないことにした。


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