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【推し活】君からかけてもらったおまじない

なるべく外には出たくなかったけど、天気がよかったこともあって外に出た。行き先は山の上の練習場。12時から公開で練習試合をするらしい。

予定より少し早く練習場に着く。そして、グラウンドの外周の、見学スペースで見ていた。昨日の試合に出た選手たちと、これから練習試合に出る選手たちで分かれていた。前者はリカバリーで、後者はウォーミングアップ。どんな形になるのかワクワクしていた。
出入り口が封鎖されていて、しばらくしたら解除となった。見学スペースにいた人たちが一斉に動き出す。その波にのまれないように、階段を登った。

少したって、リカバリーを終えた選手たちがクラブハウスに戻ろうとしていた。この日は暑かったのか、カメラアプリがうまく機能しない。結局、「お疲れ様です」というだけしか出来なかった。
人が多く並んでいて、その中に推しが歩いてくるのが視界に飛び込んだ。

推しがファンサービスをし、まもなく私のところにやってきた。
「お疲れ様です。もう怪我は大丈夫なんですか?」
「ああ」
「……サインお願いします」
そういうと、1枚の写真を差し出してサインしてもらった。
「ありがとうございます」
そういって、一呼吸おく。
「明日、検査なんですよ。何かおまじないかけてもらえませんか?」
そういうと、いつものようにニコニコしながら「大丈夫」といった。
「でも、検査って何の?」
「内科的なものです。明日、病院に行きたくないから、おまじないかけてくれたら多分大丈夫だと思うんで…」
そういうともう一度「大丈夫だから」といってくれた。
「ありがとうございます。嬉しいです」
そういうと、推しは隣の人の前へと移っていった。

私はここ2年ほど血圧が下がらない日が続いていた。去年、会社の人間ドックにもひっかかり、血液検査の末にホルモンのトラブルによるものと指摘され、内分泌系科の医者に紹介状を出されたほどだった。
明日、その病気に向けた検査が行われ、半日ほどかかるといわれた。これからのことを考えるとものすごく不安で、たまらないほどだった。
別に入院することなく、日帰りですむ検査だけど、もし数値で判断されたらどうなるのだろう?仕事は行けても、推しに会えるのだろうか。試合も行きたいし、練習見学もしたいのに。

そういえば30代の半ばになった頃、甲状腺がんだと指摘され手術をした。あの頃は、漠然としていたことに対して認識を変えた頃だった。しかし、今回はそれ以上に認識を変えてしまった。今は大好きな推しがいて、やりたいこともたくさん出てきた。それだけ叶えたいことがたくさんあるということだった。
――まだ死にたくない。
そんなことだけ強く思ってる。120歳まで生きたいと思ってるから、まだまだだけど。

ファンサービスを終えて、推しがクラブハウスに戻ろうとしたところ、思わず手を振ってしまった。
(…ありがとう、またね)
反射的なのか、推しも手を振り返してくれた。そして、階段を登ってクラブハウスの出入り口へ向かってしまった。

推しにかけてもらったおまじないは、明日の検査までキープできるだろう。何事もなく、検査が終えられますように。
――そう思いながら、明日の準備をしていた。

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