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蜘蛛

蜘蛛

 

 真夜中、巨大な蜘蛛を見た。

 それは掌を広げたのと同じくらいの大きさで、ベッドの真横にあるテーブルの隅にぴたりと静止していた。自分でもその気配に気づいて目を覚ましたのか、もしくは蜘蛛の夢を見たから起きたのか、よくは覚えていない。けれど、その後、テーブルから床にかけてゆっくりと下りる様子を、はっきりと視線の先に捉えていたから、私はそれから探すのも怖くて眠れなくなってしまった。
 二週間

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恋愛小説

恋愛小説

 パソコンのデータを整理していたら、中学生のときにこっそり書いた恋愛小説が出てきた。冒頭の数文字を読んだだけで、大長編の物語が当時の思い出したくない記憶と共に急速に蘇ってくる。それをゴミ箱にドラッグするかほんの少し躊躇ったところを、隣でテレビを見ていた建一はすかさず気づいた。

「これ、ミズキが書いたの?」

 建一は興味津々で、私の太腿に乗せたノートパソコンに顔を近づける。私は全力で彼の体を押し

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窓の庭

窓の庭

 アパートの窓から見える向かいの二階建ての一軒家は、来月に取り壊されることが決まった。会社から帰って何気なくポストを覗いたとき、工事のお知らせと、再来年完成する五階建てのマンションの見取り図が届いていた。
 部屋の内覧に訪れたとき、最初に惹かれたのがこの窓の景色だった。
 庭には一番大きなソメイヨシノをはじめ、立派な木々が伸びていて、玄関前も濃淡の異なる緑色と、薄紫色の花によってバランス良く包まれ

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