見出し画像

とあるソーシャルアパートの住民のなんでもない朝

「…ピピピピッ」
アラームの音がする。
まぶたが重い。もう朝なのか。

寒いと余計に起きるのが億劫だ。でも今日は出社だからと、布団の誘惑を断ち切るように勢いよく上半身だけ起こしてみる。

実家だったら毎朝当たり前にキッチンから漂ってくる食パンの匂いもしないし、トーストが焼けた軽快な音も、誰かが階段を忙しなく上り下りする音も、愛犬が吠える声も聞こえてこない。
アラームを止めようとスマホを手に取る。7:31。アラームの鳴り止んだ静かな部屋で、今日も1日が始まる。

のそのそとベッドを降り、わずかな朝日を取り込もうと水色のカーテンを開けた。朝日が差し込まない部屋なので、冬は冷えるんだよなあ。テレビ代わりにPCを立ち上げて昨日の夜見ていたYouTubeの続きを流すと、途端に自分以外の人の声で部屋が満ちる。一人暮らしを始める前はテレビを置こうか迷ったが、意外となくても生活に困らないものらしい。

洗面台の電気をつけ、寝起きの自分とご対面。髪が肩あたりで今日も元気にはねている。冷水に凍えながらさっさと洗顔を済ませ、たまにYouTubeで流れてくる曲を口ずさみながら朝の準備を進めていく。

肌の保湿を終わらせ、歯ブラシを咥えた。
今日は何を着ようか。ぼーっと歯を磨きながら、クローゼットの前で服を眺めてみる。
とりあえず寒くなってきたし、出社の日にスカートは避けたい。手前に並ぶ服をかき分け、奥にかかっている服を覗いた。手に取った服を一旦着てみるも、鏡に映る自分は微妙な顔をしている。最近黒ばっかり着てるし、今日は違う色にしようかな。
…なんて悩むこと早10分弱。ようやく服が決まった。レンジで少し温まった、いつもと同じ味のパンをもぐもぐ頬張りながら着替える。

あとはメイクをすれば装備完了。時刻は8:25。
おかしいな、そんなに時間を使っている感覚はないのだけれどいつも準備に時間がかかりすぎる。10分弱でメイクは済ませ、巷でブルベ冬に合うと話題の赤のリップを仕上げに塗る。

髪をブラシでといていると、洗面台の下に眠っていたコテの存在がふと頭をよぎった。髪を巻いてみたくて去年買ってはみたものの、動画を見ながら練習しても美容院で教えてもらっても一向にコツを掴めないので、1ヶ月に一回使うか使わないかだ。(しかも使っても失敗するので意味ない)
今日は時間がないのでコテを使っている暇はない。求む、教えてくれる人。

最後にヘアオイルでかろうじて髪の広がりを抑える。よし、準備はできた。
やる気のエンジンだけはまだかかりきってないけど…行くか〜〜。

PCの画面を閉じリュックに突っ込み、静かになった部屋を後にした。
何とか今日も、未だ慣れない社会人を演っていく。

なんて、何の変哲もない日の朝の切り取り。


この記事が参加している募集

朝のルーティーン

サポートしていただけるなんて飛んで喜びます。ありがとうございます。