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セールス・プレイブックでB2Bエンタープライズ営業力を最大化

「マーケティング」という単語や役割が持つ意味は、会社によって異なるということを昔の記事で書きました。マーケティング部門は自らの仕事の成果を、営業チームと密に連携して営業と地続きのKPIを常に共有しつつ、営業チームにもデータドリブンマーケティングに沿った動き方をしてもらうように働きかける弛まぬ努力が必要であり、また、それ以外のマーケティング施策での期待値設定についても続きの記事で書きました。

ただしこの仕組みを回そうとしたときに、理論的には「言うが易し」で実際には営業との連携がうまくいかずになかなかうまく回らないことも多くあります。今回の記事では、この「営業との連携」をより上手に行うために使えるツールを紹介します。


よく発生する課題

営業とマーケティングとの間の摩擦

私もいくつかの会社を見てきて感じるのは、営業とマーケティング組織はなかなか分かり合えないのが現実だということです。特に会社組織が100人以上になってくると、それぞれのメンバーが直接話すことも少なくなりコミュニケーションギャップが生まれます。以下のようなことは、営業チームがマーケティングに対して良く抱いている内容です。

「マーケティングは自分達のKPIを満たすために施策をやっている」
「マーケティングは質の高いリードを持ってこない」
「マーケティングリードは商談ステージが進まない」
「マーケティングで生成したリードは商談をどう進めるのかわからない」

複数のプロダクトを持っている組織では

「色々なチームからいろいろな施策をお願いされるのでまとめてほしい」

みたいなことも言われたりします。

これらは、マーケティング施策をマーケティング組織内だけで実施している、製品を持っている事業部とだけ一緒にやっている、一部の営業にしか伝えていない、等、いずれにしても組織全体で連携してい動けていないために、組織だって動くことで本来発揮できる営業力を十分に発揮できていない状態になってしまっています。

大きな組織になるほど、役割も細分化され、関わる人も多くなってくるため、組織的な営業力を獲得するには手間と労力、時間が掛かってきます。

属人化して可視化されないノウハウ

また、マーケティングチームと営業チームとの連携は、しばしば特定の人対人で行われることがあります。たまたまマーケティングと営業のAさんとBさんの仲が良かった、営業リーダーのCさんが施策をリードしてくれた、というケースです。

ただし、限られた人の間での合意で進められドキュメントや情報として他の人が見られない状態になっていて他の人から見たときに何をどうやっているのかよく分からなかったり、他の施策で同じようにやろうとしたり担当者が変わってしまった場合に再現性がなくやり直しになってしまう、ということが良くあります。

リードを効率よく商談に変換したりステージアップする、もしくは適切に提案していく手法も、営業個人のスキルに依存してしまって営業チーム全体で見たときにパフォーマンスが上がらない、ということも良く聞きます。

特に大企業向けのソリューション提案型の商品は、比較的長い商談プロセスの中で、誰にどのように持って行きどのような提案をすれば良いかについて、一定のノウハウが存在します。ただし、これは営業チーム内でもよく共有されておらず、新任の営業メンバーが苦労することが良くあります。

プレイブックでカバーすべき内容

以上見てきたような、マーケティングと営業の組織で良く発生する課題を解決、または軽減するひとつの方法として有効なのが「セールス・プレイブック」を作成することです。

セールス・プレイブックは、営業の売上アップ、利益率向上、解約率改善といったKPIを組織全体で底上げする為の均質なオペレーションを実施するために作成されます。特に大企業向けのエンタープライズ営業でパフォーマンスを最大化する際に必要になってくるツールです。セールス・プレイブックは単純なオペレーションを記載したマニュアルではなく、成果を上げるためのベストプラクティスやノウハウが含まれています。

そして同時に一部の人にしか共有されていなかった情報の可視化、明文化による同一情報の拡散、標準化やより多くの人によるチェックによる品質の向上施策間の矛盾の確認と解消などの効果も見込めます。マーケティングと営業が共同でセールス・プレイブックを作成することで、マーケティング側の情報共有やコンセプトの伝達も行うことができます。

それでは、セールス・プレイブックでカバーすべき内容について考えていきましょう。

まずは書式についてです。プレイブックのマスターファイルは、PowerPoint形式ではなく、Word等の文書形式で作成することを強くお勧めします。概要版としてPowerPoint形式のものを作成するのはありですが、PowerPointだと細かい行間が抜け落ちたり全体として論理的整合性があわないまま、なんとなく資料だけ完成させることが可能であるためです。推敲が進んできて内容がこなれてきた際には、動画形式での内容解説、ウェブ版アンケート形式によるインストラクション、チャットボットによるQ&A形式での実装も考えてもいいかもしれません。

マスターファイルとしてカバーする内容ですが、以下のことを最低限カバーする必要があります。

● 市場状況、施策コンセプト、STP分析 (Segmentation, Targeting, Positioning)
● ターゲット顧客のペルソナ集
● 営業プロセスと方法論、 各商談ステージにおける主なタスク、ツール、コンテンツ一覧  (営業マニュアルに近いもの、CRMとも関連する)
● 関連する商品・サービスの情報 (簡単な概要とリンク集)
● 提案シナリオ、顧客の反応への応答方法、スクリプト
● 事例、サクセスストーリー、ベストプラクティス (簡単な概要とリンク集)

リストを見てお分かりの通り、内容にはマーケティングと営業の両方のノウハウが含まれているためプレイブックの開発は単独組織でできるものではありません。マーケティングと営業組織が協力して開発していく必要があります。

プレイブックに書く文章は平易で営業から見て分かりやすい内容になっている必要があります。難しいマーケティング専門用語や、マーケティングにしか通用しないKPIなどは入れないようにしましょう。また、実際に実施をする営業の立場から見て抜け漏れがない情報を入れ込むようにしましょう。

また、セールス勉強会、トレーニングといった、いわゆる「イネーブルメント (Enablement)」施策も、このプレイブックの内容に従って実施していきます。

考慮すべき事項

誰がプレイブックのオーナーになるべきか

この手のガイドライン作成でまず課題になるのが、どの部門が主導して作成すべきか、ということです。セールス・プレイブックはマーケティングと営業の両方の内容が含まれており、実際にこのガイドラインを実施するのは営業組織である、ということは考慮する必要があります。

作成の最終段階では、営業組織が主導してくれるようになるのが望ましいのですが、営業組織では目の前の売上を意識する為、プレイブックによる効果が目に見えるようになるまでは大抵の場合あまり前向きに主導してくれないことが多いです。また、商品・サービスが数十、数百あるような会社では、営業組織でこれらの商品・サービスの内容を網羅することは不可能です。そのため、個人的なお勧めは、少なくとも初期段階ではマーケティング組織がセールス・プレイブックのオーナーになりガイドライン作成を主導することです。

ゼロから始めて形が見え始めるところまではマーケティング組織で内容を作成して、営業組織にレビューを依頼して巻き込み、その内容で実施をしてみて、型化してこなれてきた段階で主導権を徐々に営業組織に移していけるとスムーズな立ち上がりとオーナーシップが期待できます。

マーケティング施策の横連携と優先度決め

商品・サービスが数十、数百あるような会社では、その全部を等しくプレイブック化して営業が売ることは不可能です。通常は会社の売上の幹となる、またはその会計年度で先行投資すべき数点の商品・サービスに絞って優先度を高く設定して、これらを中心にセールス・プレイブックを作成します。

また、複数の商品・サービスを売る際には、あらかじめ同時、または順番に売れるように提案を組むなど、商品・サービス間でシナジーがでるように横連携したシナリオ・スクリプトを開発します。大抵の場合、商品・サービス毎にオーナーになっている事業部門が異なるため、最初は単体で作成したプレイブックを統合するなど、事業部間での横連携が実現するようにマーケティング組織が調整します。

報酬との紐づけ

最後に営業インセンティブの話です。セールス・プレイブックのようなガイドラインは、いくら作成したとしても営業が実際にそれを守らなければ意味がありません。営業メンバーもそれぞれ独自のノウハウを持っていたりするため、効果が見えるようになるまではなかなかガイドラインに従ってくれないケースもあります。

最初から強制力を持って組織として動くには、営業組織の長の協力が不可欠であると共に、ガイドラインに沿った提案活動をすることで報酬が得られる、もしくはガイドラインに沿わないと報酬が得られない、優先度の高い商品・サービスには追加インセンティブが付く、といった「ニンジンのぶら下げ」が必要になります。

セールス・プレイブックを作成する際には、その内容と連動した営業報酬制度を合わせて展開できると、より高い効果を発揮することができます。

最後までお読みいただきありがとうございました!では、また!

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