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日本語の食情報は危機的状況!?

最新の研究で、食事と健康に関する日本語で書かれたオンライン情報や一般書籍の情報には課題が多いことが立て続けに発表されました。いずれも私が所属していた、東京大学社会予防疫学分野から発表された研究です。どんな内容なのか、見ていきましょう。


●書籍の引用文献の質や記載の仕方が米国よりも不十分

ひとつめの研究は、日本と米国の食事と健康に関する書籍を比較した研究です。オンラインブックストアの売上ランキングを参考に日米の食と栄養に関する一般書を100冊ずつ購入し、引用文献(根拠にした論文の出典情報)の有無と個数を調べています(文献1)。

引用文献を提示していた一般書は日本66冊、米国65冊で大差はありませんでしたが、引用文献の特徴や引用の仕方は大きく異なっていました。米国では58冊が学術論文を引用し、その全てが人を対象とした研究を引用していましたが、日本で学術論文を引用していたものは31冊で、そのうち人を対象とした研究を引用していたのものは29冊でした。日本の一般書は人を対象とした研究結果に基づいていないものが米国のものに比べて多いことが伺えます。さらに、書誌情報(引用文献がどの雑誌の何巻の何ページに書いてあるかという、引用文献をひとつに特定できるように書かれている情報;たとえば ”Kobayashi S, et al. Public Health Nutr 2011; 14: 1200-11.”の部分が「書誌情報」です)の記載の丁寧さに関しては、米国では 97%全ての引用文献において特定可能な書誌情報が記載されていたのに対し、日本では 64%でした。日本の引用文献は書かれていても、その内容では出典にたどれないものが半数近くあるということになります。

著者たちのプレスリリースはこちらで
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400226685.pdf

元論文はこちらです。
https://doi.org/10.1017/S1368980023002549


●オンライン情報も責任の所在が不明

もうひとつの研究は、オンライン上の食事と健康に関連する情報の状況を調べた研究です(文献2)。日本語の食事と健康に関連するオンライン情報は、どのような検索語を用いて検索されているのかを調べ、その検索語を使って実際にどのような情報ページ(コンテンツ)が検索結果として表示されるのかを調べています。そして、示されたコンテンツに関して、著者や編者の情報があるか、広告があるか、引用文献があるかなどを確認しています。

その結果、編者または著者の存在を明示しているコテンツは46%と半数以下でした。引用文献があるものは40%にとどまっていました。さらに、広告をひとつ以上含んでいるものが58%でした。半分以上のコンテンツで誰が書いたかわからず、その根拠が不明という状況ということになります。著者たちはこの状況には問題があるとしています。

著者たちのプレスリリースはこちらで
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400226669.pdf

元論文はこちらです。
https://doi.org/10.2196/47101


●引用文献は必要条件

紹介した2つの研究はいずれも「引用文献が書いてあるか」つまり「研究論文に基づいて書いてあり、その論文がどの論文かが示されているか」ということを情報の信頼度や質の高さをはかる指標としています。なぜ研究論文を根拠にしているかが大事かというと、まず、研究論文こそが、いつでもどこでもだれがやっても同じ結果が得られるように説明している、科学的な姿勢で書かれているものだからですね。

そして、論文化した研究結果は、たくさんの専門家が評価して妥当だと判断した結果です。そのために、他の多くの人にも結果をある程度当てはめてよさそうと言えるわけです。

個人の体験やテレビの実験のような研究でないものでは、別の人に結果を当てはめるには根拠として弱く、同じ結果が得られない可能性が大きいと思われます。そして研究論文の中でも「ヒトで調べた研究結果の論文」のみ、科学的根拠つまりエビデンスとして使うことができ(文献3)、それに基づいた情報は、活用してもよさそうということになります。

そのために引用文献の記載があるかは、信頼できる情報かを判断するためのポイントになるわけです。もちろん、引用文献があれば十分というわけではありません。さきほどの研究の結果のように、引用文献をたどっても元の研究論文にいきつかないというのでは書いてあっても意味がないですからね。でも、ないのは問題!なんです。

●日本語の食情報は危機!

紹介した研究結果からは、日本語で示された食事と健康に関するオンライン情報も、書籍の情報も、多くのものが根拠不十分で、信頼度が乏しい様子がうかがえます。けれども、一般の人が食事と健康の情報を得たいと思ったら、まずはこうしたオンライン検索や書籍から情報収集するのではないでしょうか。得られた情報のうちの半数以上は専門家の認識だと「問題のある情報」になるわけですが、みなさんはそんな玉石混合の入り混じった食事×健康の情報から、信頼できるものを本当に選び取っているという自信はありますか?得られた情報を鵜呑みにすることはとても危険だということが認識できたのではないかなと思います。

●2024年は「正しい食情報の発信」元年に!

今まで「自分は正しい情報を得ている」と思っていた人も、現状を知ると、少し自信がなくなってきたかもしれませんね。それでは「今後は食情報を正しく判断したい、正しく活用したい、正しく発信したい、でも何をしたらよいのか…」と思い始めた人は、正しい食情報発信者になるための講座を準備しておりますので、ぜひこちらのnoteを参照ください。

受講のお申込み期間は2023年12月8日(金)~17日(日)の予定です。参加費、受講のお申込み方法などの詳細情報はメルマガでご案内しています。この機会にこちらのメルマガへご登録ください。

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講座に関するオンライン説明会を12月10日(日)11:30~(30分程度)行います。リアルタイム参加者には割引の特典もあります!こちらもメルマガ読者さまにご案内しています。

ぜひ、正しい食情報を発信する力をつけて、この問題の多い食情報の現状を一緒に変えていきましょう!

●まとめ

日本語で書かれた、書籍またはオンライン上の食情報には、大部分に、引用文献の記載がない、記載があっても元論文を特定できない、記事の責任の所在が不明といった問題があることがわかりました。このような状況の中、知識のない状態で得た食情報は、問題のある食情報である可能性が大きいです。その情報に基づいて行動を変えるようなことがあると、結果的には健康を損なうということも否定できません。

まずは食情報の大部分に問題があることを知り、鵜呑みにしないように注意をしましょう。不安が生じる場合は、食情報のどこを確認したらよいのかを知り、どこに問題があるかを指摘できる力をつけていきましょう。そういったことを学べる環境を用意しています。ぜひ活用してください。

【参考文献】
1. Oono F, et al. Public Health Nutr. 2023; Epub ahead of print.
2. Murakami K, et al. JMIR Form Res 2023; 7: e47101.
3. Jenicek M. J Epidemiol 1997; 7: 187-97.



すべての100歳が自分で食事を選び食べられる社会へ。

みなさんの人生10万回の食事をよりよい食習慣作りの時間にするため、できることからひとつずつお手伝いしていきます。

また読みにきてください。
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