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「研究者をやめた研究がわかる起業家」への道を進みながらやってみたいこと

前回のnoteでは、人生2回目の大学院生生活で、公衆衛生学の基礎を学び、栄養疫学の調査実施法や研究法を学んだことを紹介しました。

5年間の大学院生活を経て博士号を取得し、栄養疫学の研究者として働き始めた私。望んでいた未来を手に入れたところで、ふと「このままでいいのかな」と、また人生を問い直します。


●思い描いた未来を手に入れて(栄養疫学者初期時代)

博士の修了後は、栄養疫学研究者として働き始めました。国立の研究所でポスドク(非常勤の研究員)を経験したあと、出身研究室である東京大学の研究室で特任助教として働けるようになれたのはうれしかったですね。教授の佐々木先生、助教の村上先生と同僚として(足元にも及びませんが…)一緒に栄養疫学研究の論文数を増やすことができるようになり、まさに私が農水省時代に「日本で栄養疫学研究を十分実施するためには自分が研究しなければ!」と思い描いた未来が現実になったわけです。研究者として過ごしている間には、前回のnoteで紹介したように「1年間で1報の英語論文を発表する」ことを目標にし、なんとかそれを達成していました。自分で調査を運営してデータ収集を行うといった、責任の重い仕事も任されるようになりました。

●目標実現のために足りないものは?(東大助教時代)

そんな楽しい研究活動の毎日を過ごしている一方で、研究室には色々な相談事が届いていました。食事指導の現場でどのように指導をしたらよいのかわからないという現場栄養士からの相談、どんな研究結果をもとに食情報を発信したらよいかわからないという食品会社からの相談、どういうふうに食育啓発を進めたらよいかわからないという食関連団体からの相談…。そういった相談事に対して、佐々木先生は直接アドバイスをされることもあれば、様々な場面で参考になるようなコラムを書いたり、講演をされたりしていて、研究すること以外の様々な方法で専門家の知見を提供されることもありました。私もそういった、研究活動以外の仕事を手伝うことが増えてきました。そんな中で「自分が楽しく研究しているだけでいいのかな」と思うようになってきたんです。研究者は確かに、研究を実施して論文として世の中に発表することが仕事だけれど、それを実際に社会で正しく活用してもらわなければ、せっかくの研究の意味がありません。そして社会も変わっていきません。私の目標である「食事を通じた社会の健康づくりへ貢献する」の達成は、研究結果を発表したその後にかかっているのではないか。研究結果を正しく活用してもらいたい。そのためには、私は何をするべきなのだろう…。そんな思いが湧いてきました。

●実務、研究、政策の輪

「研究結果を正しく使って社会をより良い方向に導く」ことの大切さは、佐々木敏先生も普段からおっしゃっていました。「臨床栄養」という雑誌に掲載された2015年の対談記事(文献1)でも説明がされています。図1のようなモデルを使って、栄養の実務、研究、政策の輪を回すことが大事という説明がされています。これが未来の理想的な状態だと感じました。

栄養の実務というのは、食事指導に関わる栄養士さんや、食情報を使ったり発信したりしたい食品会社の人たちなど、栄養を業務にする人たちのことです。この実務者が「業務で活用できるようこんな研究結果がほしい」と研究者に要望し、それに応える研究をする、というところで、実務と研究の矢印がいったりきたりしています。さらに、研究の結果は政策者に届き、その結果を活用して政策が変更されて、実務者の働き方が向上していくことで、研究から政策、政策から実務への矢印がまわっていきます。これがエビデンス(研究結果)に基づいて社会を食事の面から健康にしていく方法だと説明されています。

●この輪を回すために必要なのは?

さて、これを回すのに足りていないものはなんだろう、と考えた私。実務者、政策者の人数はそれなりにいるような気がします。そして幸いなことに、研究者の数も、東大のこの研究室を目指して大学院に入学してくる人は毎年後を絶たず、栄養疫学者と発表される論文数も少しずつ増えています。まだ十分な研究数が実施されているとは言えませんが、将来に期待は持てます。ところが、それぞれの矢印を回すための人って不足しているな、と思いました。たとえば、実務の疑問や課題を研究側に伝えたり、その研究を実施するために実務側に協力を求めたり、出された研究結果をどう解釈して実務や政策で使うとよさそうかをアドバイスしたり、といった人たちです。それぞれ、実務、研究、政策にいる人たちができる範囲で実施してはいるけれど、知識レベルも立場も異なる人たちがスムーズに連携できる状態とは言えないのではないかな、と感じました。だからこそ、研究室にはたくさんの相談事が舞い込んでくるし、忙しい研究者が研究の手を止めて対応しなければならない。ちょっと効率が悪い気がします。食事と健康の専門知識をしっかり持っていて、こういった様々な場面でアドバイスをできる人材が不足しているのでは?と思うと、今度はそういった仕事をする人が、「食事を通じた社会の健康づくり」の達成に必須な気がしてきました。

●「食事が大事!」は自ら実行してこそ(ママ学者時代)

こうして次第に、研究者としてこのままやっていくだけではなく、食事と健康の専門家としてもっと幅広い活動をしてみたいな、という思いが湧いてきました。そんなころ、結婚と出産という人生のイベントを経験しました。出産によって、私の時間の使い方は激変しました。とにかく仕事の時間を確保することが大変。それまでは土日などでも論文の修正依頼などの急な仕事の対応ができていましたが、子育てしながらだと簡単にそうするわけにもいかず、研究者を続けることの難しさを感じました。そして、東大助教の任期が迫っていました。その後他の研究ポストに就いたとしても、研究職は任期制のところが多く、数年ごとに就職活動をし続ける生活はまたきついなと感じました。

一方で、自分と家族の食事と健康のことも考えました。「健康づくりのためには食事はとても大事!」と言っておきながら、自分の食事をないがしろにするわけにはいきません。公務員時代のように、忙しくて十分に食事がとれなくて、心も体も不健康になったような経験はもう二度としたくありません。しかも今度は家族の健康がかかっています。自分が子ども時代に経験したような、毎日当たり前に家族で食卓を囲む生活のためには、働き方の見直しが必要そうだと感じました。長男の産休後に育休をとらずに仕事復帰して過ごしてみた3か月間で、さらにそう思いました。

我が家の日々の食事;食事の大切さは有言実行としたい


●そうだ、起業しよう!

そういえば研究者になりたてのころ、とある女性起業家の方から「起業は女性によい働き方」と聞いたことが頭をよぎりました。しかも私がこれからやりたいことは、自由な活動の中で、食事と健康の分野で実務、研究、政策の輪を回しながら「食事を通じた社会の健康づくりへ貢献する」という、今までに存在しなかった仕事をすることです。具体的な仕事としては、これまでの仕事で得たつながりを活用して、コラムを執筆したり、食事調査のデータ収集や集計のお手伝いをしたり、研究論文に基づいた情報発信の監修をしたり、ということを思いつきました。そういった仕事をし、自分の送りたいライフスタイルを送るのに、起業家という働き方はいいかもしれない!と思ったのです。こうして2019年4月、東大助教の任期が切れたタイミングで、フリーランスの栄養学者として活動を始めました。2022年の9月には法人化し、現在は起業家として、食事と健康のための活動を続けています。そして、栄養の実務、研究、政策の輪を回そうとしています。

というわけで、自己紹介がとても長くなってしまいましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

こんな私が綴っていくnote記事です。これからはちょっと専門的な知見などを提供したいと思っています。研究論文を実際に執筆してきた栄養学者がお伝えする研究の裏側など、どうぞお楽しみください。

【参考文献】
1. 雨海照祥、佐々木敏. 臨床栄養 2015; 126: 470-82.



すべての100歳が自分で食事を選び食べられる社会へ。

みなさんの人生10万回の食事をよりよい食習慣作りの時間にするため、できることからひとつずつお手伝いしていきます。

また読みにきてください。
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