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「鮭茶漬けでがん予防!?」で方針転換、食品機能学研究者から農水省への道

前回のnoteでは、私が生まれながらに食べることが好きで、食べ物と、そして無自覚ではあったものの健康にも、興味を持っていたことをお伝えしました。

九大農学部への入学後から、次第に食事と健康への興味を自覚するようになり、その方向へ歩みを進めていくことになります。



●食事で病気を治せるってすごい!(大学時代)

入学した九大農学部は、入学直後は学科に分かれておらず、2年生の後半の専門課程が始まるまでに進みたいコースを決めればよい仕組みでした。それまでに様々な教養科目を受講していきました。その中で必須科目になっていた「健康科学」の授業を特に面白いと感じたんです。「病気を予防し、生活の質を上げて生きていくことが幸福につながる」といった、公衆衛生学的な考え方に触れて、健康に関わることを仕事にしたいなという思いが強くなりました。

ちょうどそのころ、テレビで「食品○○を食べると△△の病気が治る!」といった情報がかなり出回っていました。その情報でスーパーの棚からターゲットの食品がなくなるということもよく聞いたものです。当時の私はとても素直で、情報を疑うことや批判することを知らず、何でも鵜呑みにしてしまうたちでした。薬を使わずに日々の食事で病気が予防できたり、治せたりするってすごい!と感激し、「食事と健康の分野で貢献する」という目標が定まってきたのはこのころです。煽りぎみの信頼度の乏しい食情報で人生の方向性が見えてきたとは少し皮肉ですが…。

●そうだ、機能性食品の研究者になろう!

そして専門課程に進むとき、自分の興味に従って、食料科学工学を学べるコースを選択しました。さらに大学4年生になるときには、食品成分と病気の予防の関係を研究できると聞いた食品機能学の研究室に所属しました。機能性食品の研究者になろうと思い、大学院の修士課程に進むつもりで研究室に入りました。

研究室では、培養しているヒトや動物の細胞に食品の成分を振りかけて、がんの増殖が抑制されるか、そのときには細胞のどんな場所に食品成分が結合しているか、といったことを調べていました。食品成分の機能を探索し、メカニズムを調べることが食品機能学の目的でした。

配属直後は意気込んでいた私ですが、実は実験があまり上手ではなかったんですよね…。意外とドジで詰めが甘くて(苦笑)。数時間もかけて抽出したサンプルを簡単にこぼしてしまうし、しっかり混ぜたつもりの試薬は良く混ざってなくてうまく発色しないし…。さらに、同期生が実験でバンバン結果を出している一方で、自分は思うように結果が出ません。次第に実験を仕事にするのは辛いな、と感じるようになりました。

それに、実験研究は、人の健康のための研究とはいえ、人が食べたときの状態は検討しません。それだけでは人に効果があるかはわかりません。すぐに社会で活用されるようなものではないことがわかってくると、次第に、自分が研究結果を発表できても、社会での活用までにはなんと遠いことだろう、と感じるようになりました。そして、食事と健康のために貢献したいとはいえ、私のしたいことって本当にこれなのかな、という気がしてきたんです。

●食情報はこうして作られる、を知って

そんなあるとき、先輩が学会で「緑茶カテキンががん細胞の増殖を抑える。さらにレチノール(ビタミンA)を加えるとその増殖抑制はさらに強まる。」という実験の結果を発表しました。するとその数日後、テレビ番組で、その学会発表の結果を基に、ある専門家が「がんには鮭茶漬けが効く!」と紹介していました。お茶漬けに使う緑茶の成分ががん細胞を抑制し、さらに鮭にはビタミンAが含まれていて一緒に食べるとより効果的なのだそうです。

実際の学会発表のときの図は残っていないのですが、こんな図で発表(イメージ図)

人が食べたらどうなるかは検討されていないのに。食情報はこうして、細胞実験の研究結果を人に飛躍して作られているのか!と衝撃を受けた出来事でした。

この状況を見て、研究室のメンバーは皆笑っていました。でも私は笑ってはいられませんでした。もしかしたらこの情報を信じて、わらを掴む思いで鮭茶漬けを食べる人もいるかもしれない、と思うと、気の毒でなりませんでした。この状況をなんとか変えられないのかなと思いました。

●「食育」に惹かれた

そのころ、地域の新聞で「食卓の向こう側」という連載記事を目にしました。大学生の食事の実態を調べた調査ではその内容があまりにひどい状態であったとか、コンビニ弁当を飼料として与えた母豚のお産で死産が相次いだとか、現代の食に関する問題提起が色々となされていました。
(この連載はその後ブックレットとなって出版されています。)
https://www.nnp-books.com/items/1719853

このときもまた、素直な情報の鵜呑みっ子だった私は、まだ論文にもなっていない調査結果や、出典のはっきりしない記事を読んで「これはいけない」と判断してしまったんですよね…。(今ではそのように、論文結果に基づいていない情報を根拠に判断してはならないことはしっかり身に付いているのですが。)
よくない判断ではあったものの、こういった情報に触れたきっかけで、「食事と健康の分野で貢献する」という目標を達成するには、実験研究の研究者になるよりも、たくさんの人に正しい食事の摂り方を教育していくほうがよいのではないかな、と思うようになったことは事実です。当時「食育」という言葉がはやっていました。食育基本法の策定も進んでいた時期でした。研究者になりたいとは思わなくなってきたけれども、同期が目指しているような食品会社や製薬会社のような営利企業には興味がない。そして時代は食育!そうすると公務員はどうかな。それなら、地方公務員ではなく、一番影響力がありそうな国家公務員を目指してみよう!と心が決まってきたわけです。大学院の入試に合格した、大学4年生の秋でした。せっかく入試に合格したので、修士課程の修了まではがんばることにしました。

●そうだ、国家公務員になろう!(大学院時代)

今まで公務員になることを視野に入れたことはまったくありません。国家公務員になるには、筆記試験に合格するのも大変だし、その後の面接も大変で狭き門だと聞きます。受験勉強の時間をかなりとらなければならないだろうな、と想像しました。幸い、大学受験のときに浪人したおかげで、受験勉強を進める方法はかなり身に付いています。とにかく過去問を手に入れて、それを解けるようになることが大事なことはわかっていました。ただ、大学受験のときと違って、国家公務員試験のための教材はあまり充実していないと感じました。教養科目は書店にもそこそこありましたが、専門科目はほとんど見かけません。過去問を手に入れる方法を調べ、人事院に「情報公開請求」という手段を使って請求して、手に入るものをすべて手に入れました。

夜遅い時間は勉強がはかどらなかったため、夜は22時半に就寝、6時間睡眠をとって朝4時半に起床して毎日朝2時間勉強、そして研究室にいる9時から17時は卒論や修論のための実験、17時をすぎるとすぐに研究室を出て、学食で夕食をとり、家に帰って20時くらいから2~3時間勉強、という日々を7か月間過ごしました。その結果、修士1年生の春の国家公務員Ⅰ種試験(当時)に合格をし、修士2年生の官庁訪問で農林水産省に内定をもらうことができました。

ただ、私にとって毎日睡眠時間6時間というのは体に無理があったようです。この頃少し体調を崩しました。

公務員試験が終わったあとは、食育実践を目指すなら自分自身の食事も見直そうと思い、それまでの学食やスーパーの中食に頼りがちだった食事を、なるべく自炊に変えました。一人分の食事を作るのは難しかったのですが、1日1品作って、翌日も残りを食べる、を繰り返すと、毎食2品ずつくらい自分で作ったものを食べられて、同じものばかり続くということはなかったように思います。1日に1回3食分のご飯を炊いて、お弁当も持って行って経済的!おかずは冷凍食品などが多かったですが。大学入学時に人生のピークを迎えた体重は、少し体調を崩したことと、このころの自炊によって、どんどん減って、元のやせぎみ体質に戻っていきました。

こうして機能性研究者を目指していた私は方向転換をして、霞が関で働く国家公務員となりました。とはいえ、この方向転換はこれで終わりではなく、このあとさらに何度も方向転換を経験することになります。

次回へ続きます。



すべての100歳が自分で食事を選び食べられる社会へ。

みなさんの人生10万回の食事をよりよい食習慣作りの時間にするため、できることからひとつずつお手伝いしていきます。

また読みにきてください。
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