庭にはニワトリがいる世界
今年の春に生まれたニワトリが、ついに卵を産んでくれた。
その日は突然にやってきた。
ある日の明け方、7羽のニワトリたちがものすごい鳴き声を出していたため、事件かと思い急いで小屋へ駆けつけた。するとそこには、水をたくさん飲むメス鶏のいつちゃんと、ひとつの卵があった。
いつちゃんが卵を産んだらしいことは、すぐに分かった。生後173日目のことだった。
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いつちゃんが卵を産んで思ったことは「おめでとう!」だった。
ニワトリが卵をいつ産むかずっと楽しみにしていたけれど、自分がどんな感情を抱くかまでは予測していなかった。
いざそのときがきてみると、卵が食べられて嬉しい気持ちよりも「おめでとう」の気持ちが真っ先に浮かんできた。いつちゃんの成長をただただ喜ばしく思った。懸命に初めての卵を産んだいつちゃんに、お赤飯でも炊いてあげたい気分だ。
とはいえ、やはり卵を食べられることも嬉しく、さっそく卵かけご飯にしてみた。
初卵のためサイズはまだ小さいけれど、ぷるんとした黄身がきれい。お醤油を垂らして、あつあつのご飯と混ぜて「いただきます」をする。とてもおいしかった。
その後、いつちゃんのほかにいるメス鶏たちもどんどん卵を産むようになっていった。
全部で5羽いるから、今のところ多いときで1日5個の卵が採れている。産卵箱から採りたての卵はまだあたたかく、ニワトリのぬくもりを感じる。
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わが家ですべての卵を消費するのはなかなか難しく、近所の知人へ届けることにした。
とても喜んでくれて、「さっそく卵かけご飯にしたよ」と連絡をくれた。知人はニワトリがまだ小さくピヨピヨのヒヨコ時代から知っているから、なおさら卵に愛着があったのかもしれない。
卵のお裾分けは、私がずっとやりたいと思っていたことだ。何でもいいけれど、「自分で作ったものや自宅で採れたものを誰かにお裾分けするライフスタイル」にずっと憧れていた。
目に見えるモノを贈ることは、田舎では珍しいことではない。野菜が採れたとか、餅をついたとか、お漬物を作ったとか、いろいろなお裾分けがある。
でも、私はまだ誰かにお裾分けするモノを持っていなかったし、ずっと持ちたいと思っていた。
それが「ニワトリの卵」という形で落ち着いた。
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「自分で作ったものや自宅で採れたものを誰かにお裾分けするライフスタイル」に憧れていたのは、小さなギブアンドテイクがぐるぐるしている世界がおもしろいと感じているからだ。
例えば今回、ニワトリの卵をあげた知人から、卵の御礼に手づくりジャムをもらった。自宅で収穫した柚子を使ったそうだ。いわゆる物々交換とも言える。
これら一連の流れは自分にとっておもしろく、「お金を払って買う」という一般的な消費行動とは異なるワクワク感が得られる。庭にニワトリがいるおかげでそんな世界に参加できた気持ちになった。
今はまだ近所の知人にしか卵をお裾分けできていないけど、いつか全国津々浦々まで、自宅で採れた卵をお裾分けしてみたい。
それが、自分が描く次のかなえたい夢。
かわいがっているニワトリたちの卵を、ぜひいろいろな人に食べてもらいたいな。
そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。