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新しい自分に出会う瞬間まで

自分のことについて、知っているようで実は知らないことが多い。

最近「私って意外とこういう性質してたんだ!」と思うことがあった。人には本人もまだ気が付いていない未知の部分がある。

本人が出会っていない自分を「新しい自分」とするならば、いつ会えるのかわからないのだから、可能性を狭めないように生きたい。そして「今が新たな自分に会っている瞬間だ」とすぐに反応できるように、心の扉をオープンにしておきたい。

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私の母はとても明るい。一緒にいれば黙っていることがほとんどないし、初対面の人ともペラペラお喋りできるタイプだ。仕事も今は英語を使った外国人ガイドをしていて、本人も天職だと感じているらしい。

一方、私はどうかというと「一日のお喋りの容量」が決まっていて、そんなにたくさんは話せない。今でもその性質は基本的には変わらないが、特に20代前半の頃は顕著だった。誤解を招かないように補足すると、決して喋るのが嫌いというわけではなく、単純にキャパが決まっているだけ。キャパを超えるとだんだん一人の世界に戻りたくなってくる。

それでも母と私は親子なんだからおもしろい。

外国人ガイドになる前の母は、自宅で小学生向けの英語塾を経営していた。アメリカで生活していた経験を活かして、なるべく本場の文化に触れる機会を大切にしていたように見えた。例えばハロウィンは本格的な仮装をしていたし、イースターではお菓子が入ったイースターエッグを隠してエッグハンティングをしていた。

イベントは私も手伝っていたことがある。最も記憶に残っているのは「ハロウィンのお菓子詰め」だ。

イベント当日がやってくる前に、母と私は子どもたちに配るためのお菓子を買いに行った。外国のお菓子がたくさん売られているカルディは常連だった(いちばん覚えているのはジャックオーランタンの形をした薄いオレンジとグリーンのマシュマロ)。日本の駄菓子や定番のお菓子はスーパーで手に入れた(うまい棒とかカントリーマアムとか)。

「数も揃ったしいよいよお菓子詰めだね」

百円ショップで購入したハロウィン限定のラッピング袋に、調達してきたばかりのお菓子を詰める作業は心がほくほくした。それぞれのお菓子の向きを微妙に調整したり、色の配分を考えたり。どんどん増えていくお菓子の詰め合わせの山を見ると、ますます作業が楽しくなった。毎年、最終的に100袋以上にはなっていたのではないかと思う。

こんなに丁寧に子どもたちのためにハロウィンを企画するなんて「ほんとよくやってるよなあ」というのが母に対する当時の感想だった。

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私は結婚してから田舎暮らしを始め、今は夫とともに小さな民泊を運営している。

最初は「民泊なんて始めて私は宿泊者に対していったいどんな反応ができるだろうか」と不安がたくさんあった。それでも始めてしまえばそれなりに楽しくなってきて、今は慣れたこともあって、かなり気に入っている仕事のひとつ。

ちょっとした計らいで、宿泊者に対して小さなハンドメイドギフトを差しあげることがある。丁寧にラッピングもする。それが先日、在庫がほとんどなくなってしまった。ちょうどそのタイミングで父と母が我が家に遊びに来ていて、ラッピングを手伝ってもらった。

「これをこの透明な袋に入れて、どんどん積み上げてほしいのよ」

父と母は進んで作業を引き受けてくれた。この光景を見て母と私はお互いに「なんだかハロウィンのお菓子詰めと似ているね」と笑いながら、昔のことを懐かしんだ。

そこで気が付いたのだ。

そうだよ。ハロウィンのお菓子詰めと、ハンドメイドギフトを詰める作業は同じなんだよ。でも待てよ。大きな違いがあるぞ。

私は宿の宿泊者に喜んでもらいたくて、これを自発的に作り始めたんだ。ハロウィンのときは母を手伝うのが目的だったし、単純に袋詰めの作業が楽しかっただけ。でも今は「これが誰を喜ばせるのか」を考えている。

そうなのだ。民泊を始めて「私って意外と人と触れ合うことが好きなんじゃない?」ということを感じるようになったのだ。

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咲きたてのアジサイを客室に

この発見は意外すぎて、10年前の自分に言って驚かせたい。

「人とお喋りできる一日のキャパが決まっているあなたは10年後、宿を通して人と触れ合う仕事を案外楽しくこなしていますよ」(未来の我より)

はじめましてから始まって、宿の近隣でおいしい飲食店を訊かれて答えて、たわいもない世間話をちょっとして。最後、お別れのタイミングでハンドメイドのギフトを渡して、宿の感想を訊いたりして。こんな感じで人とゆるりと触れ合って気分があがるってことは、意外と他者との交流が好きだったんだなあ。

母と私の性格はまったく違うけど、根本にあるサービス精神みたいなものは引き継いだらしい。

「人と触れ合うことが好き」の気持ちには、誰かに喜んでもらいたい想いが隠れている。母は英語教室の生徒やガイドに申し込んでくれたお客さんに、私は宿に泊まりに来てくれたゲストに。

自分が人と触れ合う仕事は向いていないと勝手に思っていたから、気が付いた時、本当に意外に感じた。

自分のことでもわからないことはいっぱいあるもんだ。勝手に自分の可能性を閉ざしてはもったいないから、食わず嫌いをしないでどんどんいろんなことに挑戦していこう。偶然新しい自分に出会える日がくるかもしれないからね。忘れてはいけないのは、その瞬間を見逃さないように「感じること」を大切にすること。何歳になっても自己発見は続いていく。

民泊が楽しい仕事と感じる新しい自分。こんにちは。

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