見出し画像

旅に出たい欲の変化について

以前と比較して「旅に出たい」という欲がなくなってきている。

これまで旅が大好きで、国内は44県(徳島、愛知、富山以外)、海外は12か国(アメリカ、カナダ、イタリア、タイ、ラオス、カンボジア、スリランカ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、韓国、台湾)を訪問した。

特に大学生になると、アルバイトをしてお金を稼ぐことを覚え、暇さえあればシフトを入れては旅に出る、というのを繰り返していた。当時付き合っていた彼や、周りにいた友人も旅好きが多く、旅を共にする人にも困らなかった。

これは社会人になってもしばらく変わることはなかった。旅が人生のモチベーションだった。

それがいつからだろうか。自分のなかで「旅に出たい欲」が減ってきたのだ。

***

このことに関して、なんとなくの自覚はあったものの、改めて深堀りして考えることはなかった。結婚したこと、それに伴い地方移住したこと、ヤギやニワトリを飼い始めたことなどが影響しているだろうとは思っていた。

それが先日、運営している宿に泊まりに来てくれたゲスト様の一言で確信に変わった。

「地域に生きている人は、その地域の生活だけで満足しているように見えるんです」

そのゲスト様はうちに泊まりに来る前も旅をしていて、そこで関わった人に対しても全く同じ感想を抱いたそう。

より深く話を聞いてみると、元は旅好きだった人も特定の地域に腰をおろして暮らし始めると「そういえば最近、旅に行かなくなったなあ」という返事が返ってくるのだとか。無理をしているわけではなく、ポジティブな意味での旅欲減退だ。

もちろん社会情勢的に旅に出づらくなったことも少しは関係しているだろうけれど、決してそれだけではないだろう。

***

まだ答えは出ていないけれど、旅に出たい欲が減ったのは、「暮らしから得る刺激が長持ちしているから」というところで個人的には落ち着いている。

刺激が長持ちしているってどういうこと?という感じだが、例えばショッピングなど消費行動をして得る刺激というのは、長持ちしない気がする。その瞬間はすっきりしたぜ!となるけれど、数日後にはその刺激はすっかり消えているというか。

その点、暮らしから得る刺激というのは、例えば季節ごとに変わる花や虫や風景を愛でたり、旬の食材を楽しむことであって、消費行動とはやや異なるものだ。これには自然環境が深く関与していると思う。

そういう意味ではもしかしたら、自然が豊かな場所であればあるほど長持ちする刺激は多いのかもしれない。その結果、盛大な刺激を求めて旅に出ることが減ったというか。

端的に言えば、日々の些細なところがおもしろくて飽きないのだ。

でもこれはそれぞれが生まれ育った環境や、個人の感性によるところも大きい気がする。ただ、今のところそのように感じている。

――ゲスト様と会話している途中、とんぼがどこからともなくやってきて胸に止まった。

「あ、とんぼのブローチ」と言い合いながら笑った。長持ちする刺激ってまさにこういうことの繰り返しだと思うんだよなあ。

そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。