2. 幸せや豊かさは、自分の言葉で紡ぐもの
この連載について
前回「その好奇心が、次の未来を刺激する」はこちら
SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA2020 は2020.11.7-15に開催。
「HOW -今を、これからを、どう生きるか- 」をグランドテーマにお届けします。
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北村
前回、好奇心の話をしましたが、今回は、好奇心が幸せにも関係するのでは?という問いから始めたいと思います。
予防医学者 石川善樹先生のセッション「ウェルビーイングの本質」で、「ウェルビーイングの和訳って何ですか」という質問が出たんです。それに対して石川さんは、「よく言われる『精神的幸福』ではない。西洋的すぎる」と。「ウェルビーイングの和訳は般若心経の『色即是空、空即是色』だと思う」とおっしゃったんですね。どういうことかというと、「無の状態で、世の中には面白いものがいっぱいある」というところから生きていくのが幸せなんだというようなことで。そう考えるようになったのは「毎日を好奇心を持って暮らしている自分が幸せでいるから」と話しました。次に石川先生のお父さんが登場して「石川先生はどうしてこんなに発想豊かに育ったんですか?」という質問があり、お父さんは「とにかく石川先生から何か質問されても一切答えなかった。」と。だから自分で答えを探すしかなくて、どうしようってずっと考えていたということなんですね。
ウェルビーイングの本質 2018/09/17 17:00-17:50 @EDGEof
話は、「時代ってそもそもどうやって作られるんだ?」から始まりました。結論はなんと「運」。それに加え、「産業を成長させるための学問が時代を大きく変えていく。“資産家の最高の贅沢は学問を作ることである”というムーブメントがアメリカでできてから、財団が学問を推進し新たな時代を作っていく」と語ります。
では、学問はどう作られているのか。様々な偉人を例に挙げながら出た結論は「曖昧な概念を具体化する中で形作られる」ということ。測定精度を高め、定量的に評価をしていくことで学問が推進されるのだそう。
「研究者たる私の人生において、今学問として具体化すべき曖昧な概念とはなにか。それは“社会の進歩とはなにか?”ということです。ことは、アメリカ32代目大統領ルーズベルトから始まります。1930年アメリカ大恐慌の時代に、打った施策を定量的に評価するためにGDP(国内総生産)というものさしが生まれました。ただ、物質的な豊かさだけでは実感としての豊かさは測れません。そこで、近年ウェルビーイングという考え方が生まれました」
<登壇者>
株式会社Campus for H 共同創業者
石川 善樹氏
北村
幸せだったり豊かさというテーマでいうと、他にも2018年、「豊かさの本質」のセッションでは、一般社団法人そっかの代表を務める小野寺愛さんが、自然と人の暮らしをつなぐご自身の活動を紹介してくださいました。また、Public Meets Innovation代表理事の石山アンジュさんは、豊かさのパラダイムシフトについて問いかけました。
豊かさの本質 2018/09/15 12:20-13:10 @EDGEof
逗子海岸とその周辺で四季を通じて、放課後に遊びつくす小学生のクラブ「とびうおクラブ」の共同代表を務める小野寺氏は、いまの時代のこどもたちが失いつつあるとされる3つの「間」、“時間” “空間” “仲間” の大切さと、それらが“地域”に寄り添って“身体”をつかって育まれることの重要性を説きます。
現代社会においては、「private」な場と「public」な場は多くあれど、その中間の「commons」の場が不足していると小野寺氏は指摘し、こどもの教育において「知識」や「仕組み」の議論が多くあるが、そのベースとなるべき暮らしの豊かさ、自然との共生や楽しい時間が足下で見過ごされがちだと語ります。
<登壇者>
一般社団法人そっか共同代表
小野寺愛
信頼のこれから。ひとと社会の信頼を再定義する
2019/9/15 15:30-16:15 @渋谷ヒカリエ 9階 ヒカリエホール A
「メルカリ、Airbnb、Uber、Pairsなどは多くの人が使っていると思います。一方で、子供のころには親に『知らない人の車に乗っちゃダメ』と言われて育ったのではないでしょうか? 先程挙げたサービスは、赤の他人からモノを買う。赤の他人の家に泊まる。赤の他人の車に乗る、といったサービスです。これまでは企業やブランドという信頼のもとに、企業がサービスのクオリティや価格を決めてきましたが、現在は個人がクオリティも価格も決める時代になっています。つまりB to BやB to Cではなく、C to Cのビジネスがシェアを拡大しており、信頼の定義も変わってきています。
これからは信頼が、お金よりも社会的地位よりも資産になる時代です。豊かさの定義も“所有”から“共有”へ。資本価値は“お金”から“つながり”へ。個人の価値は“ステータス”から“信頼”へ。充足感の軸は“物質的なもの”から“精神的なもの”へ。主語も“わたし”(個人主義)から“私たち”(みんな主義)へと変わります。
<登壇>
Public Meets Innovation代表理事/内閣官房シェアリングエコノミー伝道師/ほか
石山アンジュ氏
満たされないことが幸せ?
北村
石川先生は好奇心、小野寺さんは、足下の自然や楽しい時間に「豊かさ」を見出していらっしゃいます。石山さんは、資本価値はお金からつながりに、個人の価値はステータスから信頼に、充足の軸は物質から精神に変わっているとお話しされました。金山さんや長田さんはどんなときに「幸せ」や「豊かさ」を感じますか。
金山
僕は自分の豊かさは自分では定義してないんですね。というのも、「豊か」って「満たされている」と近い感じがしますが、満たされるっていうことは、コップの大きさが決まっているってことじゃないですか。コップは好奇心次第でいくらでも大きくできるわけで、そうしたら永遠に満たされない。だけど、それがダメかというとそうじゃない。だとしたら、自分にとって満たされないと足りなくて寂しいものってなんだろう?って考えて、それを得ようとすることが幸せなんじゃないか。つまり満たされないことがあるからから幸せなんじゃないかな、みたいなことを思ったので今日のテーマを投げかけてみたんです。
ただ、「豊かな緑」は緑がいっぱいということで、「豊かな髪の毛」は髪の毛ふさふさな状態、「豊漁」は魚がたくさんとれるということだから、“たくさん”っていうのが豊かさの一つの真理ではあるのかな。
長田
わたしは、物質的な豊かさと精神的な豊かさのバランスがとれている状態かな。買いたい服を買えるとか、自分の欲求が満たせるのと同時に、家族を支えたりする中で感じる気持ちの豊かさも必要な要素だったりします。幸福はすごく大きな幸福じゃなくて、自分や家族や周りがハッピーだったり、みんな頑張っているから自分も頑張ろうと思えるみたいな、割と小さなことです。
金山さんの「豊かな○○」の文脈でいうと、「豊かな発想」という言い方もありますよね。発想の豊かさって、量ではなくて、その人が持っている想像力とか、経験値とか、そういうことを指すような気がします。
金山
そうですね。Aさんの発言に対して、Bさんが「発想が豊かですね」と言うとき、Bさんは自分の経験値を超越したことに出会ったことを認知している。自分にはまだ、勉強できることがある、まだ知らない世界を持つ人がいたと発見できることに、Bさんは豊かさを感じているのかもしれません。
僕はまさに、学びたいと思えている状態、つまり学びに対して満たされなさがあるときに、気持ちは充足感を感じています。だから、僕にとっての豊かさは成長欲求と関係がありそう。子どもたちを見ていると、すごく豊かな時間を過ごしていると感じるんですよね。日々発見があったり、知らないことと出会えたりするから。大人になると、すでに知っていることでいろんなことを理解してしまいたくなる。もしかするとそれは不幸せなことかもしれない。成長したいと思えていることが豊かであり、まだ知らない世界があるのに知っている世界で物事で片付けようとすることが空虚で寂しいことだと思っているかも。コップを大きくせずに、コップが満たされたらゴール、みたいにピリオドを打ってしまうことが。
好奇心の話のときも、強く伝えたくて伝えたことですが、豊かさも幸せも、結果論じゃなくて、プロセス論で解釈したいということでもあります。
My happy ≠ Our happy ?
北村
豊かさや幸せには好奇心や成長欲求が関係している、だから、どちらも常にプロセスであり続けるのかも、と少し見えたところで自分の幸せと他者の幸せの関係性について考えてみたいと思います。先ほど長田さんから「家族を支える気持ちの豊かさ」という言葉がありましたが、トランスジェンダー活動家の杉山文野さんは、家族の幸せは自動的に備わっているものではないんだと仰っていました。
New Family〜新しい家族の形〜
2019/9/16 13:15-14:00 @渋谷ヒカリエ 8/COURT
LGBTへの正しい理解を社会に促し、みなが生きやすい社会実現のための活動も行なっている杉山文野さん。ご自身もトランスジェンダーです。2019年にパートナーが出産し、父親になりました。杉山さんとパートナーは生理学的には女性同士。友人であるゲイの方から精子を提供してもらうことで、パートナーの妊娠に至ったと説明します。つまり、杉山さんとパートナー、そしてゲイの友達——親が3人存在するわけです。
いまでは、月に何回か、ゲイの友達も家にやってきて、“家族団欒のひと時”をシェアするそう。「たとえば、“血の繋がった親だから、家族だから、すべてわかってくれるはずだ”と思いがちですよね。でも、親とはいえ、いい意味で他人。僕の性について理解をしてもらうのにも時間がかかりましたから。そうやってコミュニケーションをして、家族に“なっていく”のではないでしょうか。
<登壇者>
トランスジェンダー活動家/株式会社ニューキャンパス代表取締役
杉山文野氏
北村
お互いの顔を見て、毎日のできごとひとつひとつに向き合い、何もなかったところから少しずつ家族になり、幸せをつくっていくんだという話でした。わたし、この話から小野寺さんの「豊かさの本質」のセッションでの、質疑応答のシーンを思い出したんです。「小野寺さんの話を聞いて、物がたくさんあることイコール豊かじゃないってことがわかりました」という感想があって、それに対して小野寺さんはこう答えたんです。
「そうなんですよ。とびうおクラブの共同創業者の永井匠くんがほんと抜けてる人なんだけれども、他人の『好き』を大事にする人で、さらに永井くんも自分らしく生きられてて羨ましい。ほんとに豊かさと幸福のバランスが取れている人だ」と。みんなと一緒に生きていく楽しさみたいなのが実はほんとの豊かさだったり幸福なんじゃないかっていう話をしていらっしゃいました。石山アンジュさんの、「時代の主語が“わたし”(個人主義)から“私たち”(みんな主義)へと変わる。」ともリンクします。
金山
「私の幸せ」と「私たちの幸せ」ってめっちゃ難しいテーマだなと思って。僕にとって幸せは成長で、だからみんなに成長機会を与えたいって思うけども、それが嫌な人もいますよね。自分の幸せを押し付けちゃいけないって頭でわかりつつ、なんとなく理解して共感させたいって思うときもある。でも、そうするとチームがばらけてしまうので、幸せを共通項にして説いていくのは難しいなと思うんですね。my happyとour happyを共通化するってすごく難しい。僕は少なくともまだできていないです。
長田
個人が評価されてhappyなことが会社にとってもhappyだなと感じたのは、営業の仕事をしているときでした。それは売り上げに貢献していたからかもしれません。でも、営業部のあと異動したマーケティングの部署では、チームプレーが重視されたんです。チームプレーを重んじる、チームでこれを達成するんだと。みんなでひとつのことを達成することに対して価値や幸せを感じている。両方を経験して感じたのは、チームで戦っているときの幸せって、個人で戦っているときの幸せと同じものかというと難しい。自分がよかったって思ったことも、相手の嫉妬を買うこともあるかもしれないですよね。チームプレーだと、自分がhappyだと思っていることが必ずしも相手もhappyとは限らないなと。
金山
チームメンバーの幸せとチーム全体の幸せのバランスはすごく難しいよね。
自分の幸せは、自分の言葉で紡ぐしかない。
北村
自分の価値観と周りの価値観が違うというテーマでは、教育実践家の藤原和博さんが「一つの正解に縛られず自分自身と周りの人が納得できるそれぞれの答えを導き出す重要性」について語られていましたね。
AI時代、子供に何を学ばせるか
2019/9/15 14:15-15:00 @渋谷ヒカリエ 9階 ヒカリエホール A
教育実践家、藤原和博さんの公演は、来場者に「僕が似ている有名歌手は誰か」を一斉に答えさせることから始まりました。ある人は「さだまさし」。ある人は「谷村新司」。大切なのは、隣の人に答えを合わせるのではなく、自分が思ったことを大きい声で素直に言うこと。(隣の人と同じ答えを言わなければダメだという)“正解の呪縛”から逃れる儀式だと藤原さんは言います。
「地球の50億人がスマホで繋がり、またAIがあらゆる正解を瞬時に導き出すこの時代に、どのような能力を身につけるべきか」。藤原さん曰く、大切なのは、情報処理力以上に、情報編集力を養うこと。
「仮説をいっぱい出して、そのなかで自分、かつ自分と関わる人が納得できるものを導き出していけるか。他人と“脳をつなぐ”ことで、それをより多様にできるか。正解ではなく、“納得解”を出す情報編集力が、これからの時代に必要な力です」。
<登壇者>
教育改革実践家
藤原和博氏
金山
そう考えると、そもそも豊かさや幸せって、画一的に語られすぎている概念ですよね。例えば綺麗な水と綺麗な山があることが豊かさだ、とか。でも、youtubeひとつとっても、教育に良くないと言う人もいれば、何か発見するかもしれないと言う人もいる。クラシック音楽の世界から見たらJポップやロックがめちゃくちゃ低俗なのかもしれない。だから、あまりいろいろなものを否定しすぎなくていいのではないかと。「そこに必ず幸せや豊かさがあります」と断言せずに、自身の考えとして語っていくことが大事なのかな。
北村
自分とみんなの幸せや豊かさの総量を増やすには、まず、それぞれが自分の幸せを自分で認識して言語化できていることが大事なんでしょうか?
石川さんは、世界幸福度ランキングで日本が54位、フィンランドが1位という結果に対して疑問を呈していました。そして、それぞれ異なる価値観を持つ国々の幸福度と社会の進歩を緻密に計測するために、ウェルビーイングという学問を創造する意義があると結論づけました。このセッションを聞いて、わたしは幸福度の測定って、より繊細な心のひだに分け入るようなものなのではないかと感じたんですね。心のひだに分け入るのは言葉でしょうか。
金山
僕は、言葉以上に大事なものはないと思っています。言語化は、人生において大切な行為。言葉で自分の人生を納得感あるものに定義していくし、言葉が人と人のつながりをつくる。幸せであるとか豊かであるということは、究極的には、自分にとっての幸せや豊かさの軸で自分の人生を言語化すること。それでシナリオを紡いでいったり、他者の幸せとの同期点や接点を見出していくことなのかもしれません。
長田
フィンランドの会社で働いていたことがあるんですけど、教育が無料なんですよね。その分税金は払っているんですが、全員に平等なチャンスがあるので、生まれ落ちた家庭環境が塾に通えるかどうかの分かれ道になる日本とのギャップは感じました。機会が平等にあるから好きなスポーツに力を注げるし、夏休みは親と一緒に1ヶ月キャンプに行ったりできる。幸福度が世界1位という結果は、平等さも要素になっているのかな?と。でも私は、自分の生活の幸福度ってひとつのものさしで誰かと比較することはできないなと思ってます。
北村
個人の幸せと、国レベルでのみんなの幸せをどう定義するのか。ひとつのものさしでは測れない、この難しい問いを探っていくべく、次回は個とコミュニティの関係性について話してみたいと思います。
(2020/7/17 17:00-18:00 @online)
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to be continued to
vol.3 弱さの自覚がコミュニティを生み、
異質性がコミュニティを強くする
vol.4 価値と価値観が交差する シゴトと社会と私の連鎖
vol.5 クリエイティビティを解放せよ
vol.6 ソーシャルイノベーションを呼び起こす
「意味」を超える「意義」の力
vol.7 経済連鎖を超えて。これからの人間社会は「文化連鎖」でつながる
vol.8 ルールや規制は、感動を生む舞台装置。
構成・浅倉彩
SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA2020 は2020.11.7-15に開催。
経営者・社会事業家・クリエーターなど各界のキーマンがセッション。
会場観覧とオンライン視聴が30カンファレンスすべて無料。
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