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#93 法華経・日蓮・日蓮宗・日蓮主義の思想と賢治 その1【宮沢賢治とエミリィ・ディキンスン その31】

(続き)

○ 法華経・日蓮・日蓮宗・日蓮主義の思想と賢治 その1

一方、このようなエマーソンの思想に近いとも言われる法華経の思想を考える際には、まず、法華経・日蓮の教え・日蓮宗・日蓮主義のそれぞれが、微妙に異なることを念頭におく必要があると思われます。

まず、法華経はインドに実在した釈迦の教えを、釈迦の死後500年位にまとめた経典です。法華経自体は、日蓮宗以外の仏教の宗派においても経典とされていますが、鎌倉時代に日本に生まれた日蓮は、特に法華経を重視し、原点に立ち返り法華経の経典から学ぶ姿勢を重視しました。このため、当時の既存の仏教の宗派や鎌倉幕府と対立することとなり、日蓮自身も数々の苦難に遭っています。そして、その日蓮を開祖とするのが日蓮宗で、時代が経つにつれ、日蓮宗もいくつかの派に別れていきます。

明治時代に入り、形式化した仏教の他宗派や既存の日蓮宗の派を批判し、元来の日蓮の教えに立ち返ることを唱え、やがて勢力を拡大し日蓮宗の中で主流となっていったのが日蓮主義で、帝国陸軍幹部の石原莞爾や、血盟団というテロ集団の構成員等にも支持されるなど、戦前の軍国主義拡大の一翼を担ったという側面も持っています。
日蓮宗や日蓮主義など、それぞれの立場によって、思想なども微妙に異なっていると思われます。

私なりの浅い解釈で恐縮ですが、法華経の汎神論的な考え方を大まかに捉えると、今生きているこの世で、自分自身の力を信じることにより成仏するという自力救済的な考え方を持っているように思えます。これは、仏教の他宗派が、自分以外に存在している「仏」を拝むことにより「あの世」での成仏を期待する他力本願的な考え方である事と異なっています。そして、仏が自分自身の中や、宇宙・自然の中に存在するという考え方は、エマーソンが描いた「神」の形と似ているようにも見えます。

(続く)

2023(令和5)年11月1日(水)

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