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知識の前に感覚を掴む【24.3.11】

・久しぶりの大荒れの天気。ストームシーズンも終わりに近づいており、11月の天地をひっくり返したような嵐ではなく、いつもより少し雨足と風が強いくらい。

・それでも本土行きのフェリーは欠航になった。今日から島の対岸のプリンス・ルパートで研修を控えていたタロンも足止めを喰らう。

・こんな天気で外でできることもなく、家で作業をする。ハードウッドを燃やしてリビングルームを温め、溜めていた作業にとりかかる。確定申告もそろそろ取り掛からなくては。一応個人事業主なのである。

・このところ、「難しいがぜひ読みたい本」を1日1章ずつ読んでいくことにしている。今読んでいるのは「ゴールデン・スプルース 一本の木をめぐる神話、狂気、強欲」ジョン・バイヤン(未訳)、そして「マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険」スザンヌ・シマードである。

・後者は原文で一月から読んでいたが、森林生態学関連の単語が難しすぎて心が折れていた。先週に翻訳を電子書籍で手に入れてから、ある程度読み進めてこれて嬉しい。

・どちらもBC州の林業、ハイダグワイの森に関するノンフィクションである。前者については渡航前にも読もうとしたが、バックグラウンドが分からなさすぎて諦めていた。半年以上森に囲まれて過ごし、ある程度地理的感覚や歴史を掴んできたからこそ、するすると読み進められるようになった。

・ある場所を訪れる時、事前知識はあるに越したことはない。特に自然と強く結びついた先住民コミュニティにおいて、神話や精神世界について知ろうとする時、その背後にある環境・自然の知識があるかどうかではその理解度に大きく差が出てくるはずだ。

・だがやはり事前知識を頭にいれるのにも、ある程度の土壌が必要なのだ。感覚を得る、というほうが正しいかもしれない。実際のフィールドで五感を使ってなんとなく感覚として掴み、その上で整合的で精錬された知識を取り込む。そのことで、「こんな感じがするな」という漠然とした認識から「なるほど、そういうことね」という確かな知恵を得ることができる。

・語学学習でも同じで、いきなりテキストブックにあたり、文法と単語を頭にいれる、ということは僕の好むところではない。その言語の会話や音楽を聞き、実際のコミュニケーションで使われるようなセンテンスを口にだす。文法構造や単語の正確な意味など、最初の段階ではどうでもいい。僕は何を学ぶにあたっても、バランス感覚や空気感のようなものを先に掴んでおくことを求める傾向がある。

・上記の二冊の本を、現地で八ヶ月の時間を過ごした上で読んでいると、これまでの体験にさも注釈がつけられていくかのように、経験知が実際の知識と変わっていく。今この段階で、じっくりと腰を下ろして読書をすることが必要なのだと思う。

・本日の章を読み終え、確定申告にうつる。会計アプリに情報を同期し、昨年の事業利益などをまとめていく。本当に無駄な仕事である。

・「旅の前に最後のサウナセッションはどう?」とタモにメッセージを送る。「いいね。パッキングを早く片付けるよ。火を入れたら連絡をする」と返信。

・タモも今日のフェリーで本土に向かうことになっていたが、あいにくの嵐でキャンセルとなった。明日のフェリーは予約の返上分でいっぱいで、もともと乗っていく予定だったバスで乗船できなくなってしまったのだとか。改めてパッキングするのは大変そう。

・彼は明日から三週間のアラスカ・ツアーだ。BC州北部イスクートの先住民らの土地保全運動を八年間かけて撮影したドキュメンタリーをおととし発表した彼は、去年からBC州のさまざまなコミュニティで上映イベントを開催している。今回はイスクートの長老たちをつれてアラスカで上映ツアーを行うのである。

・「まずはイスクートで長老たちを拾い、そこからユーコンを北上する。ホワイトホース、ドーソン、そしてアラスカのフェアバンクスだ。そこからアラスカ南島諸島部に南下し、船でジュノーに渡る予定だよ」サウナストーンに水をかけながらタモがいう。室内の体感温度が一気に上がる。

・なかなかの長距離ロードトリップである。そのうえ各町での上映会のセッティングなどを考えると、休む暇もないツアーになりそうだ。「しんどそうだけど、訪れる先々のコミュニティで待ってる友人たちのことを考えると、楽しみでしかないよ」

・銭湯スペースには簡易的水風呂が設置された。タモとミドリと3人で頭からバケツで水を掛け合い、その冷たさに叫ぶ。

・作品を作って終わりにはせず、作品の伝えるべきメッセージがきちんと伝わるように動き続ける。誰にでもできることではない。いつか一緒にツアーに参加したいな。

・彼とは入れ替わりで僕も3月末にスカンディナヴィアに飛び立つので、タモとはしばしのお別れ。お互いの旅の幸運を祈っておやすみをいう。

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