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離職、上京、4畳半

今から22年も前の話。
高卒で就職し3年半勤めた会社を辞める事にし
当時の上司に辞意を伝えたのは7月の半ば。

出向に伴い東京と群馬県を行き来していたが、
上京して一旗あげてやろう、という田舎者にありがちな
安直かつ温度の高い感情というか劣情が
気づけば手の施し用がないぐらいに鎌首をもたげ
「変化を嫌い安定を好む」人間だったはずの俺は
洗脳されたかのように上京への手順を1つづつ処理していた。

22歳になる年の8月の最終火曜日、
プジョーの黄色いマウンテンバイクにのって
長年過ごした会社の寮を
誰にも見送られることなく後にした。

持ち物は上着とCDウォークマンと地図が入ったリュック1つ。
DISCバインダーにはBon JoviとVan Halen、Yen Town Band、Mr.Bigなどを選抜し入れてあるので安心だ。

今から大事を成し遂げようという割には
意味不明な英単語が大きくプリントされた白Tシャツに短パンという
ちょっとそこまで買い物に行くような軽い服装だった。

所持金は2000円ちょっと、
口座残高は1000円以下なのでおろせない。
クレジットカードなんかは作り方も知らなかったし、
マルイのカードは限界まで借り切っていたから
これからどうやって暮らしていくのかを考えると
今なら目眩するようなものだが、不思議と死は相当な遠方に見えていた。

秘境グンマーの山奥から
東京都世田谷区烏山のボロアパートまで約90km

太陽の南中まであと数時間、
気温が25度から30度に駆け上がろうとアップしはじめた
朝6時頃の出発だったが
時間の計算、ペース配分の検討などは1度もしておらず
大まかな道筋だけを何となく胸中に秘め
1冊の関東地図だけを頼りにペダルを
力任せに蹴り進めた。

狙っていた女の子が通っていたから入会した
ピアノ教室へと向かういつもの国道を走って
もう1年以上会ってないなT先生元気かなとか思いつつ
予定通りの道順を快調に飛ばしていたら
いつの間にかエラい峠に入ってしまっていた。

グンマーから埼玉方面

あれ、道を間違えたか。
方向音痴なので間違える自信はある。
しかし前の分岐まで戻るには相当なリスクがあると判断し
そのまま進んでみることにする。

しかし、キツい。
何しろキツい。
漕げど登れど次の分岐が近く手応えがサッパリない。

野宿か?
テントも武器も何もない、木の上で寝れば大丈夫かと
大丈夫な訳がない思いが去来するが
特別なことが起こるでもなく
坂もいつしか下りへと変わり
峠を超えれば間も無く東京、どうやら予定ルートから大きく逸れてはおらず

無事東京に入り昭島の米軍基地の横を通り過ぎながら
ガリガリ君2丁食いなど真夏の暴挙もこなし
所持金500円を切って流石に心許なくなり始めた21時過ぎ、
世田谷のボロアパートに到着し、
これ以上ないチープな鍵で自室のドアをあけ
段ボールの横でドカっと横になり
すぐに眠ってしまった。

このアパートには変人ばかりが住んでおり東京の膿溜めのような
なんとも言えない雰囲気のパワースポットだったが、
こちらはまた別の機会に書いてみようと思う。


ああ、なつかしいな、
いまどうなってんのかなあのアパート
と思ってネットで検索してみたら



家賃さがっとるやんけ!!
俺んときは35000円だったぞ!!風呂もトイレもないのに!!

しかし潔い間取りだ。


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