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海の飛沫 - #2 「なんか私、変な子なんだって」

「へえ、今更気付いたの?」
「え!?君から見ても、私って変?」
「むしろ自覚してなかったんだって思うくらいには、変だよ」
「ふあ、そうだったんだ……知らなかった……」
「まあ、わざわざ言うことでもないしな」
「たしかに、そりゃそうか」
「急にどうした?」
「それがさ、大学に入ってから『君って変わってるよね』って言われることが増えてさぁ。いや、増えたっていうか……今まで言われたこともなかったのに、急に指摘されるようになった、が正しいかも」
「今まで言われてこなかったのが逆にすげえな……」
「でもさ、私はずっと私で生きてるから、自分を変だと思ったことなくて。私にとっての『普通』は私だからさ~」
「そうだろうな」
「だから、なんでみんな『変』って言うんだろう?って思ってたの。でも、ここまで言われるってことは、実は私の思う『普通』は、みんなの言う『普通』とズレてるのかなって最近思い始めて。思ったより私って『変』なのかも!?っていうのが、最近の私の中でアツいんだよね」
「まあ、『普通』の人間は、突然、自分たちは海の飛沫だー!なんて、言い出さないよな」
「そうなの!?」
「そうだよ」
「そうなんだ!?え、じゃあ、私って本当に変わってるんだ!はえー、知らなかった~……」
「……まあでも、お前は『変なやつ』の中でもだいぶ『普通』な方だからさ、あんまり悲観的になるなよ」
「?どういうこと?」
「なんて言うんだ、ほら、たしかに突然変なこと言い出すし、いや普通そうはならんだろ!?って行動したりするし、事実変わってるところはあるけどさ。こうやって普通に会話もできるし、何考えてんのかさっぱり分かんね~ってほどじゃないしさ。だからその、あんま落ち込むなよ」
「え?え?何で落ち込むの?」
「は?いや、落ち込むだろ、普通。お前は変だ、なんて言われたら」
「どうして?」
「どうしてって……。いや待って、お前落ち込んでないの?」
「え?うん」
「は!?じゃあなんで急に、自分は変な子らしい、とか言い出したんだよ」
「え!それはなんていうか、自分が思ってる以上に、私は『普通』から外れてるんだな~っていう、確認?というか、そうか分かった!を報告したかっただけ」
「……人間は海の飛沫だ~!と同じ感覚で?」
「そうそう!まさにそれ!」
「……はあ、心配して損した……」
「え!?なんで!?なんで心配になるの!?」
「だってそりゃ誰だって嫌だろ、自分が『変わってる』扱いされるだなんて。意思疎通もできない、何を考えてるかも分からない、そういう人間と一緒くたにされたらショックだろ、普通」
「……君の言う『そういう人間』って、どういう人のことを言ってるの?」
「あー、そうだな。たとえば、道端で奇声上げてる“いかにも”って感じの人とかさ」
「……」
「あとはそうだな、国民は政府に騙されている!目を覚ませ!みたいなことを、駅前でギャーギャー演説してるやつらとか」
「……そういう人たちは、君の言う『変な人』、になるの?」
「うーん、できる限り関わりたくはないよな~。何考えてるかわかんねえし、うっかり近付いて危害でも加えられたら、たまったもんじゃねえよ」
「……そう、なんだ」
「だからさ、お前はたしかに『変』だけど、そういう奴らと比べたら全然『普通』だって!だからあまり気にしねー方がいいよ」
「……私は、『普通』?」
「そーそー。深く考えず、今まで通りのお前で良いんだよってこと」
「……じゃあ、なんでわざわざみんな私に『変』って言うんだろ」
「さあ?分かんね。……でもまあ、お前の周りのやつらってみんな平凡だもんな」
「平凡?」
「いわゆる量産型女子って感じ?みんな無個性じゃん。だからお前を『変』っていうことで、自分を正当化してんじゃね?」
「んん!?難しい!『平凡』と『普通』って違うの?」
「『普通』では居たいけど、『平凡』では居たくないだろ」
「んん~~!?」
「だからお前のことある種羨ましくもあるんじゃねーの?多分。だからわざわざ『変』とか面と向かって言うんじゃね?分かんねーけど」
「むむ、『普通』、『平凡』、『変』……分からない……」
「……ところでお前、16時からなんかあるって言ってなかったっけ」
「……あ!!心理学入門の質問に行くんだった!」
「やっぱり。お前、自分の予定くらい把握しとけよ。俺はお前のスケジュール帳じゃないっての」
「うーー、話に没頭してるとすぐ忘れちゃうんだもん……。教授にアポ取ってるから待たせるわけにはいかない……ってああ!!」
「あーあー、全部ひっくり返して。飲み切ってるからいいものの」
「ど、どうしよう……!て、店員さん……」
「いいよ、ここはやっとくから行ってきな」
「でも……!」
「教授のアポをドタキャンする方がまずいだろ」
「う、たしかに……じゃあここはお願いするね!ほんとごめん、今度何か奢るから……!それじゃ!」
「おま、そんな慌てて!こけんなよ!……はあ。やっぱりどこか『変』ではあるんだよな~、あいつ」

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