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「思いやり」は、<未来>につながる。 『なぜ「やる気」は長続きしないのか』 5

前回の記事では『なぜ「やる気」は長続きしないのか』を取り上げ、瞑想をすること以外で、思いやりの感情を起こすために大事なこととは何か、ということについて述べましたが、

今回はその続きで。「思いやり」は<未来>につながるということについてです。

『なぜ「やる気」は長続きしないのか』の著者である、心理学者のデイヴィッド・デステノ氏は、

「人との結びつきをつくりさえすれば、思いやりの感情をより感じられるようにするには十分だ」

とし、さらに、

幸運なことに、ほかの人というのがまだ見ぬ未来の自分である場合にも、この法則はあてはまる。(中略)未来の自分に思いやりを持つこと(お金がなくなったり、病気になったり、なんらかの形で不幸にさせないようにすること)は、現在の私たちに自制を促してくれる。そして感謝とは異なり、私たちは未来の自分に対して、実際に思いやりを抱くことができる。未来の自分はいまの私たちに恩恵を与えてはくれないが、それでも私たちは未来の自分を助けるために行動できる。

と述べています。


しかし明らかに問題なのは、「ほとんどの人間が未来の自分に親近感や絆を感じられないことが多いという点」であり、「本質的に私たちはみな、未来の自分とのあいだに感情移入ギャップがある」としています。

すなわち、「人間が、投資より借金を、勤勉より遊びを、運動よりも過食を積み重ねてしまうのは、それによるツケがはるか遠くにあるように思え、さらにそれを払うのが未来の自分というほとんど想像すらできない人物だから」なのです。

そして、「仮想現実は、思いやりにおけるこのギャップを橋渡しをするのに役立つが、ほとんどの人にとってすぐに利用できる技術でない」としたうえで、以下のように述べています。

マインドフルネスの訓練をすれば、誰が相手でも深い思いやりの感情を抱けるようになり、結果として自制心が高まる。しかし未来の自分に思いやりを抱けないのは、いまの自分とは切り離された存在であるというだけでなく(瞑想はこの認識を変えるのにも役立つ)、困っている未来の自分の姿を見る機会がまったくないためだ。私たちは未来の自分にできるだけ現実味を持たせ、その立場に身を置く努力をしなければならない。

『なぜ「やる気」は長続きしないのか』 デイヴィッド・デステノ 著 住友進 訳 154頁


しかしこのことに関しては、「未来の自分を想像しようとする時、あまり前向きに考えすぎないことが重要」であり、「批判的な視点を持って未来の準備をしておく必要がある」と説明しています。


未来の自分を想像しようとする時、あまり前向きに考えすぎないことが重要だ。インチキを正当化するために心が無意識のうちに考え方を歪めるのとまったく同じように、これから先の数十年、すべてがうまくいくと思い込んでしまう危険性がある。もちろん、そのすばらしい想像が現実になるのが理想だ。しかしそれをしっかり実現するためには、つらい時期があることも想定に入れて、イソップ物語のアリのように、批判的な視点を持って未来の準備をしておく必要がある。私たちは、退職後の貯蓄計画や体によくない食事の影響などを考えるのと同様に、自分の周囲の人々が経済的にもそれ以外の面においても老後にどのように対処しているのかを客観的に眺めることで、実際に自分の未来像を調整しなおせる。

また、「こうした情報を考えに入れて、ときどき、三〇分くらい時間をとって未来の自分に手紙を書いたり、少なくとも頭のなかで話し合ってみたりするといいかもしれない」とも述べており、このことについては、

手紙を書いたり、または定期的に頭のなかで話し合いをしたりすれば、未来の自分の幸福を考え、感じ、現在自分が下している選択について説明せざるを得なくなる。これは私たちの心を未来から切り離している一時的な障壁を乗り越えるのに役立つはずだ。そうすれば、思いやりの感情ももっとすんなりと湧いてきて、数年後に起こりうる困難をあらかじめ避けるような形で行動できるようになるだろう。

としています。

しかしながら「こうした対話は、どちらの方向にも作用しうることには注意が必要だ」とし、

次に考えるべきもう一つの戦略は、過去の失敗について自分を厳しくとがめるのを控えることだ。自分を恥じたりするのはなお悪い。かわりに過去の失敗は果敢な挑戦だったと思うことだ。

と述べています。ですがその一方で、

ただ、思いやりの心を抱くことは、お人好しになるということではない。最初から成功しようという気持ちすらなく、怠けたり、騙したり、食べ過ぎてしまったりといった、明らかに自制心の足りない行動を大目に見えるという意味ではない。思いやりとは、目標を叶えようとしたが、実現できなかった人たちを、過去の自分も含めて、許してあげることなのだ。

とも説明しています。

さらに、

忍耐力に関していえば、人間の心はその弱点を隠したり、正当化したりする傾向がある。その境界を明確にする一つの戦略は、感情的緊張――つまり、潜在意識に潜んでいる罪の意識や後悔の苦しみを探し出すことである。

としたうえで、著者のデステノ氏は、「自分の考え方の癖を明らかに」するために、二つの方法を勧めています。


まず一つ目は、

「自分が普段どのような心の声を発しているかに意識を向けること」

であり、このことに関連した二つ目は、

「週に一回、時間をとって、成功のためにかなりの努力をしたのに失敗してしまった出来事をじっくりと振り返ったのちに、その失敗を許してあげることである」

としています。

さらに「過去の失敗を非難すること」は、「将来失敗した場合に、恥辱や不安の感情を強くするだけ」であり、「この二つのマイナス感情はそれ自体が、自制心を継続的に弱くしてしまう」と述べています。

そして最後に、

自然と自分を思いやるように心をトレーニングしておけば、自制心は高まり、やり抜く力も強くなる。さらに、ストレスがかかってもすぐに立ち直る力を持った体をつくるのにも役立つ。

と締めくくっています。


すなわち仕事であれ勉強であれダイエットであれ、ゲームやファストフードといった目の前の誘惑に抗えず、何をやっても長続きしないという場合に、自分自身を思いやることは、「自制心は高まり、やり抜く力も強く」なり、「ストレスがかかってもすぐに立ち直る力を持った体をつくるのにも役立つ」ため、心身の健康のことだけではなく、「未来の成功」(うまくいく)という観点からも、注目なのです。


 感謝の気持ちと同じように、思いやりは体を癒してくれることに気づくことも大切である。精一杯頑張って意思の力を使うのとは違って、思いやりはストレスや不安を原因とするダメージから心と体を守るクッションの役割を果たしてくれる。突然、圧力を感じるような感覚は、ストレスの初期の兆候としてよく知られている。具体的には、心拍率の上昇、胸が締め付けられるような感じ、声のこわばり、胃腸といったものである。このような兆候はすべて、迷走神経によってある程度は抑えられる。この神経が働きだせば、このようなストレス反応のあらゆる面が鎮まっていく。つまり、この神経はある種のブレーキと考えることができる。

『なぜ「やる気」は長続きしないのか』 デイヴィッド・デステノ 著 住友進 訳 143頁

迷走神経の活動が活発になればなるほど、緊張は解けていき、胸の鼓動が収まり、腹筋も緩んでいき、喉の緊張もほぐれる。こうした働きは、環境が安全であることを体に伝えてくれるので、自分の興味の対象に意識を集中できるようになる。そこでは緊急事態は完全に解除される。すなわち、さしあたり生き残るための心配をせずに、創造的に目標を追跡する時間が確保できるということだ。



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