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最終バスでのプレゼント

往路もバスで復路もバス、それは東尋坊から駅までの道のりである。車を使わず公共交通機関のみで旅をする私にとって、往復の道がきちんと戻れるかどうかの把握は必要不可欠である。いつものようにバスの時間を調べてみる。芦原温泉駅行きの最終バスは18:23発、今日の日の入りは18:30ごろだと分かった。
それが分かると同時に、東尋坊で日の入りの様子を見ることは、惜しくも叶わないということが確定した。
最終バスに乗るためにゆったり歩く私と、「もうすぐ日の入りだ!」「もう既に綺麗!」と夕暮れ迫る東尋坊に向かって走り出す若者衆。
その時の私の気分は、夕日に照らされるであろう東尋坊を目にできるのが羨ましい気持ちと、朝にホテルで食べたビュッフェ以降何も食べていない空腹状態がもたらす疲れの気持ちが、ちょうど半々だった。

バスは時間通りに来た。スマホの充電は残り7%ではあるが、PASMOを使ってバスに乗る。どうかバスを降りるまでは耐えてくれますように。そんなこんなで、最終バスに乗れた安心感とスマホの充電残量による焦燥感とともに、バスの座席に腰を下ろした。

東尋坊の次は雄島(おしま)。赤色の橋が、遠くにある島の方まで、ずっと向こうへと続いている。行きのバスでは、そんな景色も素敵だなあと感じたし、実際写真を撮っている人たちもたくさんいた。まあ、最終バスなので、ここに降りることもできなければ、バスで眺めているだけになるだろうと思っていた。

すると、運転手さんが、「よければ、お写真撮っても構いませんよ」とバスの入口ドア(後方)を開けてくれた。
初めての出来事だった。
バスから見ている景色で満足しようと思っていたけれど、運転手さんの小さいけど大きな配慮がとても嬉しくて、私は少しの間戸惑ったが結局その言葉に甘えることにした。他の乗客2人も、初めは「いいのかな?」「本当に大丈夫なのか?」と少し怪訝そうな表情を浮かべていたが、次第にカメラやスマホで写真を撮りだすようになった。「お写真が撮れましたらバス出発するので、言ってくださいね〜」まで言われた。なんとまあ、ハンパない。運転手さんのさりげない気遣いが、空腹の私の心に染み渡った。

行きと同じ<あわらゆのまち駅>で私はバスを降りた。降り際に、「写真ありがとうございました」と、運転手さんからのささやかなプレゼントへのお礼を忘れずに。


これからしばらくはこんな感じで、旅で得たほっこり体験も、エッセイっぽく載せてみようかしら。なんて思ったりしております。


今日のところは、こんなもので。

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