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父の日の工作

ざんねんな事に、
私には産まれる前から、父親がいない。
存在すら知らないのだ。

しかし、年に一度、
父の日と言うものがあるのだが…。

そんな父の日であるが、
とっても、
大きなお世話な話があります。

私が小学校入って、しばらくすると、
母の日があり、かあちゃんに手紙と、
似顔絵を書いた記憶がある。

その次に、必然的に、父の日に、
何かを作成しなければいけない…。

先生に事前に、
オイラ…父ちゃんいないから…。
と相談してみた。

先生は、忙しいのか、
お世話になっている人なら、
だれでもいいよ。

と、ちょっと投げやりな返しが来た。

むむむ…誰もいない…どうしよう…。

当日の工作の時間。
みんな楽しそうに工作してるのに。

私は、何も手をつけれなかった。 

だって、
お世話になっている人なんていない…。

むむむ…ぐぬぬ…。
と頭を抱えながら、考える。

すごく困って、すごく悩んだ。

そして、ある決断をした。

もー工作なんてやらない!

工作の授業を放棄したのだ。

みんなが、楽しく工作しているのを、
ただ、頬づえをつきながら、
楽しそうだなーと、眺めて過ごした。

すると、先生に催促の様に、
ほら!手を動かして!何でもいいんだよ!

と、言われた。

だけど、私にも言い分はあるのだ。

だって、先生の言ってるの、
すごく考えたけど、オイラはないんだもん!
だから作れないから、やらないんだ!

先生は、
じゃぁ、自由でいいから、何が作ってみて!

とまた先生は、投げやりな返事だ。

むむむ…自由ってなんだ?
あれ?もしかして…好きな事って意味?
工作なら、何でもしてもいいって事?

うむむ…ますますわからない…。

みんな、それぞれ父親の似顔絵を、
一生懸命に書いていた。

自由ってめんどくさいんだなー。

もおー何をすれって言うんだ!

でも…先生が指示された事は出来ないし…。

私は、先生の言葉通り自由を決めた。

白い画用紙に、
糊で人らしき人物をなぞり、
ハサミで自分の髪の毛をザクザクと切った。

小さく切られた髪が糊について、
人物が浮かび出された。

おー!すげー!いいじゃん!

面白くなって、どんどんやる。

ながーいお髭のおじさんの絵。

私の髪の毛は、長さがバラバラになっていた。

そこで、
急に先生に見つかり、怒られたのだ。

なにしてるの!
なんで、そんな事するの!
ダメでしょ!
こんな事して、よくないよ!

えっ!だって…
先生が自由に何か作れって…言ったから…。

先生は、
先生はそんな事言ってません!
こんな事して、他の子が真似するでしょ?
これは、してはいけない事なの。
わかった?

と私の肩に手を置いて、
目線を合わせて怒って言う。

だって、先生、言ったじゃん!

お世話になってる男の人描けって、言って、
それでも、いないって言うと、自由に、
なんでもいいから、手を動かせって、
言った!言った!先生の嘘つき!

せっかく作ったのに…
褒めてくれると思ったのに…
なのに…なのに…先生はおかしい!

と訴えたのだが…。

周りの同級生達が、ざわざわして、
そのうちに、みんな遊び始めた。

先生は、手をパンパンと叩いて、

はーい!みんな自分の席に座って!
お父さんの似顔絵はできたの?
最後まで、ちゃんとする!

とまた投げやりな言い方で、
返事してくれなく逃げられた。

休み時間に、職員室に呼ばれた。

他の先生達と私が作った髪を切って、
出来た、髭のおじさんの画用紙を、
出してきて、公開処刑の始まりました。

髪を切ったせいで、その髪の毛が、
背中や首に張りついていた。

だから、
痒くてポリポリと首や背中を、掻いていた。

その様子を見て、知らん先生に、
悪びれないその態度はなんだ!と怒られる。

私は、
だって、髪の毛が張りついてかゆいんだもん!

と言うと、
髪を切るからでしょ!とまた怒られた。

しょんぼりしながら、だって!先生が…

と言おうとしたら、ぱんっと頬を叩かれた。

やっていい事と悪い事がある!
これは、やってはいけない事なんだ!
先生は、悲しいよ!
大切な髪の毛をそんな事で切って!

と違う、また知らん先生に言われた。

叩く事ないじゃん!

そんな事じゃない!
ぼくの髪の毛なんだから、いいの!
それより、僕の作ったおひげの人を見てよ!
すごく、すごく、頑張って作ったのに!

ぼくには、父ちゃんがいないんだ!
お世話になってる男の人だっていない!
なのに…なのに…なんか自由に作れって、
ぼくは先生にちゃんと聞いたのに、
先生がちゃんと聞いてくれなかった!

ねぇ、先生、自由ってなんなの?
この髪で作ったのは、自由じゃないの?
自由って言われても、ぼくにはわからない…。

先生方は、呆れてた。

当然だろう、支離滅裂な話だもんな…。

私のひねくれた思考なんて、
理解できなのが当たり前なのだ。

だから、
多分だが、頭の弱い子として扱われた。

とりあえず、
もう二度とこんな事、しちゃダメだよ。
わかったかな?
これは、やっちゃダメな事なの。
だから、先生と約束してくれるかな?

とバカにした様に、言われた。

私は、しぶしぶ、わかりました…。
と、もうどうでも、よくなっていた。

その日の夕方。
かあちゃんが帰ってきて、
学校からとかあちゃんに手紙を渡す。

多分今回の出来事だと思う。

かあちゃんは、悲しそうだった。

父ちゃんがいない私を、
申し訳ないと思っているのだ。
私の悪行が、自分のせいだと責めているのだ。

かあちゃんからは、
何か言われる事は、なかった。

ただ、バリカンを持ってきて、
私の髪の毛を黙々と坊主にしていた。


私は、大人って難しくて、やっかいだし、
子供の言い分なんて聞いてくれないんだ、
と思った。

次の工作の時間、前回の続きをやる。

みんな、それぞれ父親の似顔絵を、
クレヨンで書いて、手紙を書いていた。

私は、先生から、
新しく白い画用紙を渡された。
そして、手紙用の紙も渡される…。

ねぇ、先生、これどうすればいいの?

と聞くと、先生に無視された。

きっと関わりたくないし、また、
何か言えば、ひねくれた私が何かやらかす。
そう思ったのだろう。

私だけ、特別とはいかない。
みんな、平等にする為には、
そうする事しか出来なかったのだ。

私は、ない頭で考えた。
うむむ…うむむ…どうすればいいのか…。

絶対にもう…かあちゃんを悲しませたくない。

それに、先生と約束したしな…。

うわーもーなんだよ!どうすればいいんだ!
わかんねー。全然わかんねー。
ん?ん?そうだ…あの人がいる!

先生にトイレに行ってきます。と言うと、

急いで、校長室に行った。

校長先生は、優しくて、
私の悪行の話も聞いていたのだ。

校長先生!聞いて!と言うと、

君の作品を見たよ。
とても発想が良くて、素晴らしかった!
先生は関心してしまったよ…。
すごいね、先生には思いつかないよ!

でも、もしやるなら…
先生に聞いて、いいよって言われたら、
やればよかったね!

先生も知らないで、君が髪を切ってたのを、
とても驚いてしまったんだよ。
だから、これからは、先生に聞こうね!

と校長先生は私に優しく説明してくれた。

私は、
校長先生、ぼく…。
先生に聞いても全然話し聞いてもらえない。
自由でいいからって言われたんだ。

でも、校長先生の言う通りだった。
ぼく…自分勝手だった。
ごめんなさい…。

ねえ校長先生!
ぼくには父ちゃんがいないんだ。
だから…校長先生の似顔絵と手紙、
書いてもいいですか?

校長先生は、優しく笑って、
ぜひ、描いてくださいと、喜んでくれた。

私は嬉しくなり急いで教室に戻った。

校長先生の似顔絵を描いて、
さっきの校長先生の言葉に対する、
感謝の気持ちを手紙に書いたのだ。

先生も、よく描けてるね。
と、すごく喜んでくれた。

帰ってから、
かあちゃんに話した。

かあちゃんは、
そうか…校長先生にしたんだね…。
確かに、校長先生にお世話になってるね…。

よく考えて、よく決めて、よく描いたよ。
お前は、すごいね…えらいね。

かあちゃんも、すごーく嬉しいよ!

かあちゃんは、お前に父ちゃんがいない、
って事が、どうしても申し訳ない気持ちで、
いっぱいだったんだ…。

でも、お前は優しくて強いね…。

かあちゃんは、お前に教えられたよ!
お前は、お前なりに、考えて、
それを行動にして、頑張ってるんだ!

かあちゃんがそんな気持ちでいたら、
ダメなんだって、お前から学んだよ!

ありがとよ…かあちゃん嬉しい。
あーお前が大好きでしょうがないよー!

と坊主の頭をくしゃくしゃと、
かあちゃんは笑いながら激しく撫でてくれた。

かあちゃんがすごく喜んでくれた事が、
なによりも、嬉しかった印象が強い。

それから、学校の工作で父の日には、
校長先生が父ちゃんの代わりになってくれた。

あの時の、校長先生…。
こんな、ひねくれたバカな子を、
温かく優しい目で、作品を褒めてくれて、
ちゃんと説明も、わかりやすくしてくた。

ただ、ただ、感謝しかない。

今は母子家庭も多くなっているだろう。

だが、当時、
なかなか理解されない事だった。

かあちゃんもそれで、
たくさん傷ついていたのかもしれない。

子供が可哀想とか、親の身勝手とか。

ただでさえ、
かあちゃんは、耳が聞こえない。

余計に陰口を叩かれていたのだろう。

そんな、かあちゃんにとって、
私がした父の日を、校長先生への感謝として、
受け止めた事が、私が少し成長したと思えて、
よほど嬉しかったのだと思う。

かあちゃんは、もう父ちゃんがいない事に、
申し訳ないと言う気持ちもなくなっていた。

父ちゃんがいなくても、かあちゃんがいる!
そう、強く言う様になった。

私も、父ちゃんと言う存在を、
過剰に意識しなくなっていたのだ。

私も、かあちゃんがいるだけでそれでいい!
そう、思える様になった。

もうすぐで、父の日である。

あの時の
校長先生はどうしてるだろう…。
何十年と前の事だ、亡くなってるだろうな。

とても、素晴らしい先生だったな。

頭がハゲてて、温かい手をしてたな…。


あの時の私の作品は、どうなってんだ?

まぁ、もう無くなってるだろうな。

いいんだ。
あの時の似顔絵も手紙も、形にはないかも、
だけど、私の心には、ずっと残ってるもんな。

なあ、天国のかあちゃん、
あの時の校長先生に会ったらお礼言っといて。

私が当時、唯一、

大きな、大きな
お世話になった男の人だからさ。

よろしくね。



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