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ブエノスアイレスの思い出

海外旅行の話を友人としていたら、パリで財布を盗られそうになったと友人が話し出した。パリの地下鉄の車内にいたら、端正な顔をした男の子が体を押しつけてきたそうだ。何かしらの気配を感じて見ると、カバンのチャックを開けようとしているのに気づいた。開け方がぎこちなかったので気づいたのだが、慣れた大人だったらやられていただろうと言っていた。友人は、カバンをしっかりと抱きかかえていて幸い被害に遭わずにすんだ。向こうに母親らしき人がコートを片腕に垂らして立っている。どうも親子のスリらしいという話だ。

この話を聞きながら、以前に行ったアルゼンチンのブエノスアイレスの旅を思い出していた。

ブエノスアイレスは、スペイン語で良い風、良い空気という意味とスペイン出身のスタッフにディナーのときに聞いた。アルゼンチンタンゴや牧畜が盛んで美味しい牛肉を思い浮かべて楽しくなる。

ブエノスアイレスに着いた晩に食事とタンゴが楽しめるラ・ベンターナという店でタンゴを観劇した。古典的な劇場で、2階席があり、楽団は舞台の中央2階で演奏して、その下でダンサーが踊り、観客はダンサーと楽団が両方見られるようになっていた。食事が終わるとタンゴショーが始まった。若い男女が踊るだけでない。ダンターは少年少女や高齢者も演じていて、それぞれの年齢を思わせる人生を表現していた。踊るというより演ずるという表現がふさわしい。本場のタンゴはすばらしいという月次な言い方しかできない、タンゴに無知な私にも、その良さは十分に伝わってきた。哀愁を漂わせながらもユーモラスに踊るのは、著名な高齢のダンサーらしい。

翌日、19世紀の独立戦争の将軍サン・マルティンが眠るサン・マルティン大聖堂、エビータ元大統領夫人の荘厳な墓があるレコレータ墓地、港町ラ・ボカ等を観光した。

ブエノスアイレスの南東にあるラ・ボカは、カラフルな建物が立ち並ぶ美しい港町だ。タンゴ発祥の地と言われ、小説クオレで母を訪ねてマルコが下りた港町として知られる。現地ガイドから、ここから港までの通りだけを見て、それ以外の場所には行かないようにとの注意を受けた。どうも治安が悪いらしい。

ラプラタ川が見えるレストランで昼食をとった。まず餃子を大きくしたようなエンパナディージャが出た。次いで大皿の上に、中にレバーが入った腸詰めとソーセージにポテト、ホーレンソウ、トマト、オニオン、レタスが添えられていた。メインのビーフステーキは、大きく、柔らかい。塩がきつくなくて美味しかった。
スプライト(7up)を注文したが、3米ドル、けっこう高い。

宿泊したパンアメリカーナホテルからは、グリーン色のドーム屋根の国会議事堂、オベリスク、ラプラタ川が望めた。ブエノスアイレスは、近世の建物が建ち並ぶ美しい街だ。

しかし、後日、市街を自由散策中に被害にあったという話を本人から聞いた。ある女性は、臭い緑の液体をかけられて、数人の男女が寄ってきて、上着を脱がされて、介抱するふりをされているうちに、カバンを持っていかれたという。ある男性は数人に囲まれたら、あれよあれよという間に、高級腕時計を抜かれて盗られた。

隣国チリでは、そういう話は聞かなかった。治安のひとつの原因が経済的貧富の差にあるとしたら、同じ南アメリカ大陸にありながら、アルゼンチンとチリの経済力の違いは、面している海が大西洋と太平洋の違いによる。太平洋に面しているというメリットがチリにはある。環太平洋貿易の恩恵を受けにくいということがアルゼンチンの地政学的な宿命なのだろう。

ドーム型の屋根の国会議事堂
サンマルティン大聖堂
ラ・ボカ
ラ・ボカの港
タンゴ発祥の地ラ・ボカの壁のレリーフ
ラ・ボカ

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