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私が思い描く、夢の10階建て

執筆者:Haru

しんちゃん、本屋さんになりたい

ある日の息子との会話。
「しんちゃん、本屋さんになりたいんだよね〜」
親子ふたりの食卓で、4歳の息子が呟く。土曜日の夜ご飯は翌日を気にしなくていいので、のんびり屋な息子をせかす必要もないし、お互いリラックスして会話を楽しむことができる。

「絵本好きだもんね。素敵な夢だねぇ」
「でも絵本だけじゃなくて、おもちゃも置きたいんだよ〜。あとね、赤ちゃんにも楽しいところなんだよ!10階まであるの」
「10階建て!?それは気になるなぁ。ちょっと詳しく教えて!」
ということで、結局いつものように急いでご飯を平らげ、息子の夢の本屋さんを画用紙に描き出してみたのだった。

しんちゃん(4歳)考案の10階建て本屋さん


 その本屋さんは、1階に入り口とお庭がある。各階でテーマが決まっていて、2~5階はそれぞれ息子が大好きな恐竜・虫・魚・乗り物の本や図鑑、おもちゃが取り揃えられている。6階はbaby向けの絵本とおもちゃがあり、赤ちゃん連れでも楽しめるらしい。

「でもそれだけじゃないんだよ」
目を輝かせて息子は言う。
「7階はなんとホテルなんだよ!」

それってもう本屋さんとは言えないのでは…と思ったが、どうやら「時間を気にせず大好きなものに囲まれて、帰りたくなくなったらそのまま泊まることもできる」のがこのお店の売りのようだ。せっかくなので同じフロアに温泉も付けてもらうことにした。どうせなら大人だって楽しめるお店にしたい。

8階は子ども服屋さん(急にホテルに泊まることになっても着替えを購入できる)、9階はおいしいメニューがいっぱいのカフェ。
「屋上はお星様を見るところ!」
ふたりで相談して、最上階の10階には宇宙や天文にまつわる本やおもちゃを集めて、屋上の天文台をより楽しめるようにした。

下層階は、テーマが決まっているとはいえ、普通の本屋さん。そこで満足して帰るお客さんもいるだろう。しかし、物足りなさを感じるお客さんは、階段を上ってそのまま泊まったり、食事をしたり、新たな学びを深めて、屋上で実践することもできる。

 息子のアイデアからの気づき

息子のアイデアを描き出していくうちに、この10階建ての本屋さんは、私にとってのセルフケアと一緒かもしれない、と思った。

育休中にひとり親になった当初、同じ境遇の方達と出会いたいと思い、シングルマザーが集まる会を調べては参加していた。自分の身に起こった不幸な出来事を話して共感してもらい、「辛い思いをしているのは自分だけじゃない」と自身に言い聞かせることが心の支えになっていた。

育休が明けて久しぶりに職場復帰をすると、同期や後輩が見違えるほど活躍していた。自分が担当していた業務も運用が改善され、効率が格段に上がっていた。赤ちゃんだった息子も保育園で知らぬ間にできることが増え、成長に驚かされる日々。

自分ひとりだけが取り残され、前に進めていないように感じた。

ひとり親になったあの日から、たったの一歩も。

前に進めない歯がゆさを感じながらもめまぐるしく日々を過ごしていると、新型コロナウイルスが流行し始め、保育園が2ヶ月ほど休園となった。いつも以上に仕事で迷惑をかけ、毎日のように上司や同僚に謝っていた。

そんな中、メルマガ登録していたひとり親支援団体を通じて、シングルマザーズシスターフッドのセルフケア講座の案内を受け取った。

全国のシングルマザーがオンラインで集い、ストレッチと対話を行う。ひとり親同士が意見交換をする「お話し会」はよく目にするが、ともに体を動かすプログラムに参加するのは初めてでとても新鮮だった。

体を動かすと全身が温かくなって心もほぐれていき、自然と気持ちが前向きになる。その後の対話の時間も不思議とポジティブな話をするようになっていった。

変化していった自分のステージ

それから、マネーリテラシーなどの講座にも積極的に参加するようになり、学びが心地よい生活の道標(みちしるべ)になることを実感した。自分が求めていることは、過去の出来事を聞いて慰めてもらうことではなくなったことに気がついた。

心身を健康に保つこと。新しい学びを楽しむこと。そして、今の自分を前向きに認めること。いつの間にか、それが心の支えになっていたのだった。

そして今、自分ひとりがセルフケアを楽しむだけでは満足できなくなっている。シングルマザーズシスターフッドが主催するキャンペーンにスタッフとして参加し、ひとりでも多くのシングルマザーの方にセルフケアを考えるきっかけが広がることを目指している。

セルフケアが生み出す循環

セルフケアによって自分のことを前向きに認められるようになると、周りの人を見る目もとても前向きになる。そのような良い循環を誰もが自ら作り出せると信じているからだ。

だからこそ、驚くほどの忙しさと大きな責任感を抱えながらも地道に頑張るひとり親に、もっとこの輪が広まってほしい。新しいことに挑戦するのはいつでも不安がつきまとうが、心強い仲間もいる。

ひとりで本を読むだけではなく、屋上で皆で本物の空が見たい!新しい星を見つけたい!

この活動こそ、今の私のセルフケアだ。

私が思い描く、夢の10階建て 

画用紙に描き上げた夢の本屋さんを眺め、「しんちゃんはこれから何でもできるから、本当にこんな本屋さんを作れるかもね!」と伝えると、すかさず、「ママもだよ!一緒に作ろう!」と息子が言った。

まるで階段を上っていくように、その時々で自分が求めるセルフケアを一つずつ丁寧に積み上げていく。疲れ切って前向きでいられなくなってしまった時は、下の階に降りてひとやすみしても良い。フロアが多ければ、自分を立て直す方法もきっと見つかるだろう。

そうやって少しずつでも懸命に上の階を目指していけば、いつの日か私が思い描く10階建てになるのではないだろうか。

好きなモノで溢れる本屋さんと、前向きになるコトで溢れるセルフケア屋さん。我が子の夢を見守るだけじゃなくて、親子で一緒に夢の10階建てを作るのって素敵かも。

すっかり頼もしくなった息子に背中を押され、まっさらな未来が楽しみになった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。このエッセイは、NPO法人シングルマザーズシスターフッドのMother's Dayキャンペーン2022のために、シングルマザーのHaruさんが執筆しました。

このキャンペーンは、自身の心と体を大切にすること、それを互いにサポートしあえる社会を目指して実施しています。ご共感くださった方はぜひ、私たちの取り組みを応援していただければ幸いです。

これからクラウドファンディングも始まります。(5/8公開しました!応援よろしくお願いします。)
https://congrant.com/project/sisterhood/4690

NPO法人シングルマザーズシスターフッド


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