芝桜の向こう側で親父に会える気がして
見覚えのある交差点。
芝桜が綺麗に生い茂る石垣の角には、子供の頃から馴染みにしている黄色いカーブミラーがある。
「飛び出さないでよ!」
耳にタコが当たるほどに御袋から言い聞かされ、その度毎に思い出すのはこのカーブミラー。今日も自然に減速して注意深く確認する。もう何十年も身体に染み付いている。
ゆるりと交差点を曲がり50メートルくらい進むと、山茶花に囲まれた垣根の向こう側に、一本のハナミズキが目立つ家がある。僕の実家だ。
バイクでするりと門を潜ると、いつもと明らかに様子が違う。
窓は雨戸で塞がり、整えられていたはずの庭には、背丈の高さまで雑草が生い茂っている。車庫のシャッターは閉まったままになっていて、すぐ横に停めてある親父愛用の自転車すら見当たらない。
いったいどういうことなんだ。
ぐるりと周りを見渡してみても、いつもと全くわかっていない。
隣の家からは普段と同じように光が漏れ、家の中からは団欒の声が聞こえている。焼きそばなんだろうか、晩ご飯の美味しそうな匂いまで漂っている。
僕の家族はどこに言ってしまったんだろう。
ここで目が覚めた。
どうやら夢を見ていた様です。なんだよぉ、夢かぁ。
身体が鉛の様に重く、目が覚めたとは言え意識が朦朧としている。あかん、副反応だ!
金曜日のお昼に3回目のワクチンを接種したばかり。
1回目、2回目は微熱程度で済んでいたので、それほど気にしていませんでしたが、今回はちょっと違うかも。
重い身体を引きづり体温計を取り出して測ってみることにしました。
ピピッと電子音が鳴るまでが途轍もなく長い時間に感じます。音が鳴った後、更に力が抜けてしまいました。
39.4度。
ヤバイ、子種が無くなる。
いや、もう無くても良い。
51歳。もうそんなことはどうでも良い年齢だと知っていても、実際にこの数字を見ると怯えてしまう。
身体が思う様に動かない。
高熱ではありますが、全身から汗が噴き出していない。それと、強烈な怠さ。副反応に見舞われた方の証言通りだ。
隣の寝室を覗くと、妻が幸せそうに眠っている。
叩き起こす手も考えましたが、10倍返しで反撃されても困る。朦朧としていても、この計算だけはしっかりできるんだなぁと呆れてしまう。
常備薬と所持しているロキソニンをカバンから取り出し、冷たい水と一緒に一気に流し込むと、喉元を通る瞬間が春を感じるほど気持ち良い。20分くらい経った頃、幾分か楽になってきたのか、また夢の中に戻って行った。
GWは親父の7回忌。
親父はまだあの時の自宅に居るのだろうか。
朦朧とする夢の中で、楽しかった昔の実家に辿り着きました。今の実家は隣町に移っているのですが、僕が幼少期を過ごした実家は親父がとっても愛した家屋でした。だから今でも親父がいるのかも知れない。
あれからもう30年以上経っている。
既に昔の家屋はとっくに取り壊されており、今では更地になっている。
今年のGWは家族と御袋を連れて言ってみるかな。
ちょうど今頃は、あの交差点の角は芝桜が綺麗なはず。
カーブミラーを曲がった向こう側には、親父が待っているような気がして。
最後まで読み進めて頂きありがとうございました。🌱
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