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後輩に悟られたくない中年の震え

国境を越えるのは3年ぶり。
この地を訪れたのはちょうど10年ぶりになる。


国境を越えることに抵抗はなかったはずですが、久しぶりに越えようとすると、これがまた煩わしい。例の感染症のせいで面倒な手続きが多くなってしまったからだ。スマホにいくつもアプリをダウンロードして個人情報を入力しなければならない。ちゃっかりマイナンバーカードが必要になるなんて、都合よく国にコントロールされている実感がわく。


午前7時過ぎ、一見するとスーツのようなジャージ姿に革靴の出立ち。ボサボサ頭のままダラス国際空港で入国の順番を待っていた。朝だと言うのにものすごい行列だ。まるで蟻が獲物にたかっている様だ。ちゃんとニューオリンズ行きの飛行機に乗り継げるのだろうか。既に出発まで1時間を切っているんだぞ。


「何しに来たの?」
「仕事だよ」
「何の仕事なの?」
「サラリーマン、薬の会社」
「どこ行くの」
「ニューオリンズ」
「何で」
「だから仕事だよ」
「何日間」
「2週間」
「くちゃくちゃくちゃ。。。」


相も変わらず、入国するための不毛な会話が続く。
ガムをくちゃくちゃ噛みながらの仕事っぷりは、凡そ日本では受け入れられない。こちらも強い態度で示そうとするが、こう言うタイプは機嫌を損ねるとややこしいことになるので、ここは大人しく愛想笑いで返しておく。


しかしこの空港はやたらとデカい。いや、デカいにも」ほどがある。
僕が到着したのはターミナルDと言うところ。乗り継ぎはお隣のターミナルCと表示されている。だけどそこまではモノレールに乗って仕舞えばあっという間だと経験的に知っていた。


「ゆーじさん、このモノレール逆じゃないっすか。だって次はターミナルAってなってますけど」後輩くんが怯えながら問いかけてきた。
僕は冷静を装っていましたが、スーツジャージの背中は冷たい汗がたらりと滝のように流れ出すのを感じた。逆に乗っている。間違いなさそうだ。


本来なら、D→C→B→A→Dの環状線に乗るべきところを、明らかかにD→A→B→C→Dの環状線に乗っている。おまけにひとつのターミナルは途轍もなく広く、少なく見積もっても羽田空港くらいはあるだろうか。ヤバいかもな。


後輩くんの顔色はみるみるうちに青ざめて行った。僕は余裕の表情を見せてはいたものの、背中はお風呂上がりの状態で足は小刻みに震え出していた。スーツジャージに革靴のオッサンがモノレールで震えている。知られたくない。


ターミナルCに到着したと同時に走った走った。スーツジャージの革靴おじさんも声を上げながら走りました。これだけ走ったのは、息子の幼稚園の運動会以来だろうか。


搭乗と同時にドアが閉まった。ヒューッ!!
何とか間に合ったが、CAの態度は冷たい。何か言っているがバクついている心臓の鼓動で聞き取れない。おまけに乗客はほぼ満席で皆こちらを見つめているではないか。半分以上は「遅っせーよ」って言っている気がする。
す、すいませんと弱気に頭を下げるしかない。やっぱ日本人だなぁ、僕は。


久しぶりの長いフライトと思わぬ運動会のせいで飛行機が離陸した記憶がない。気がついたらそこはニューオリンズの空港だった。
あぁ、やっと着いた。そう思った矢先に10年前の苦い記憶が蘇ってきました。買ったばかりのiPhone5sを無くした土地だから。無くした場所を思い出しながら、無意識にスーツジャージのポケットをまさぐり、持って来たiPhone13の存在を確認した。


さてと、ちょっくら繰り出すか。



ニューオリンズ Hrrah's HOTEL前


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。🌱


🍵 僕の居場所




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