オッサン心が躍る瞬間
ここ数年で完全に働き方が変わりました。
勿論、リモートワークが主流になったこともありますが、僕的には通勤の仕方も激変しました。「LUUP」の登場で、随分長い間、明らかに心の奥底に沈んでいた何かが再燃しはじめました。
「LUUP」とは、首都圏と大阪、京都で展開しはじめた電動キックボードのサービスで、普通免許とスマホさえあれば、誰でも手軽に使用できる便利な乗り物です。
少し前のこと。交差点で信号待ちをしている僕の前を、突然ビューッと横切った若者がいた。明らかに見覚えのある乗り物だ。ローラースルーGOGO。
幼稚園児だった頃、両親に泣いて頼んでもどうしても買ってもらえなかった遊具。サンタクロースに頼んでも、優しいお婆ちゃんに頼んでも叶わなかった夢の乗り物「ローラースルーGOGO」。サンタさんもお婆ちゃんも、きっと御袋の偽装工作にはめられたのだろう。そんな夢の乗り物が目の前を横切ったのだ。
信号待ちで停まっているGOGOに乗った若者に声をかけてみた。
「すみません、これなんですか?」
若者は突然声をかけられたことで少し驚いた様子でしたが、すごく丁寧に「LUUP」を解説してくれました。そして前方を指差し、LUUPが停めてある場所(設置場所)を教えてくれたのです。
めっちゃかっこいい!!
なんと自分の住むマンションの向かいにも設置場所があるではないか。いてもたっても居られず部屋に戻り、早速ネットで使い方を確認してみました。
えぇっ、ノーヘルで良いのかぁ。しかもスマホでQRコードを読み取るだけで良い。スピードは最大で15km/h、、、原付の半分以下だな。ルールさえ守れば結構安全そうだ。しかも近所に設置場所が多いときた。
と言うことで、すぐさまエレベーターに飛び乗り、その足でLUUP置き場へ向かった。
ヒャッホーッ!!
快適快適。完全に進化したローラースルーGOGOだ。
あみだ池筋から御堂筋までの区間を、オッサンがノーヘルで風を切りながら進む。最高の気分だ、なんせ45年ぶりに願いが叶ったんだから。サンタさんでもお婆ちゃんでも叶えられなかった夢のローラースルーGOGOに乗っている。しかも都会のビルの狭間を颯爽と駆け抜け、通り過ぎる景色を違う空間から眺めているんだ。あまりの嬉しさからか涙でビルが滲んでしまった。
それからと言うもの、会社へ出社する時はLUUPを利用している。
会社まで徒歩で行こうとすると、ドアツードアで25分かかる。地下鉄を利用すれば10分。でもLUUPだと3分だ。しかもたったの100円。会社の社則にはLUUP通勤禁止とは記載していない。
いつものようにLUUP出勤をしていると、脇の小道からパトカーが出てきた。乗っている警官の熱い視線を感じる。恐る恐るチラ見すると、何やら警官同士でヒソヒソ話している様子。僕のことを話しているに違いない。
確かにLUUPは若者に似合う。50歳を過ぎたオッサン、しかも朝からスーツ姿で乗っている方はほぼいない。
信号機が青に変わると、僕はゆっくり走り出した。バックミラーでパトカーを確認すると、するりと僕の跡をつけてきているではないか。やだなぁ。
ノーヘル、しかもシートベルトもない。当たり前なのだが不安がよぎる。
本当に大丈夫なのか、僕は。もしかして捕まるのかな。いや、大丈夫、何も悪いことしてないから。
ずーっと僕の跡をつけてきている。だから15k/hまでスロットルを全開にできない。どこまでついてくるのか。やんわり背中を冷たい汗が流れる。
次の信号で停まった時にこちらから声を掛けてやろう。こんなんじゃ、気になって運転に集中できない。こうやって不用意に善良な市民を追い回すことで事故につながるのではないかって言ってやろう。
丁度、目の前の信号機が赤になった。
よーし、今だ!勢いよく振り返ると、何とパトカーの姿がない。代わりに郵便職員のカブが後にピタリとついていた。
あまりに勢いよく停車したものだから、郵便局員は些か驚いた様子で身構えていた。ヤバイ輩に絡まれたって顔をしている。僕より少し年上のオジ様。
ごめんなさい、郵便局員さん。そんなつもりではありませんでした。
ちゃんと説明したかったけど、明らかに怯んでいる様子だったのでそのまま過ごしてしまいました。
パトカーのやろう。
そして、ごめんなさい、郵便局員さん。
大阪の街中、スーツ姿て颯爽とLUUPに乗っている中年がいたら、かなりの確率で僕です。そっと跡をつけるのではなく、お声がけくださいませ。
最後まで読み進めて頂きありがとうございました。
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