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ポジショニング戦略で成功したブランドをひたすら集めてポイントを解説[30選]

「ポジショニング戦略」は簡単に言えば、市場の中で独自の優位性が発揮できるポジションを築くことで、商品やサービスを効率よく売りやすくする戦略のことです。

アル・ライズジャック・トラウトという世界屈指のマーケティング戦略家が提唱し、マーケティング業界に一大旋風を巻き起こしました

詳しく知りたい方は、マーケターのバイブルと呼ばれている本書をぜひ読んでみていただければと思います。

今回は手っ取り早くポジショニング戦略の要点を掴みたい方のために、ポジショニング戦略で成功した企業(ブランド)をひたすら集めてみました

全部で30あるので、ぜひ気になる企業やブランドから気軽に読み進めていただければと思います!


(1)スターバックス

コーヒーにうるさい消費者、コーヒーにこだわりまくる人というニッチ市場をターゲットに定め、「スペシャルティーコーヒー」というコーヒーの新しいカテゴリを創出。

従来のカフェや喫茶店がハンバーガーやドーナツなど食べ物もウリにしていたのに対し、スターバックスはひたすらコーヒーの品質、コーヒーの香りや味を楽しむ場所を追求したことで、新しいポジショニングを確立して大成功を収めました。

さらに「女性が1人で気軽に入れるカフェ」、自宅と職場のどちらでもない「サードプレイス」という、当時のカフェの概念にはなかった新しいポジションを次々と開発し、それを高次元で実現するための商品設計、サービス設計、店舗設計、広告設計などを徹底的に実施

カフェのみならず、他のどんな業界のブランドと比べても真似できないほどの、唯一無二のブランドへと成長を遂げました。


(2)ダンキンドーナツ

アメリカの老舗カフェチェーン「ダンキンドーナツ」は、スターバックスが新興勢力として台頭する中、彼らになんとか打ち勝とうとあの手この手を使って躍起になっていました。

その中で、彼らはスターバックスファンに金銭を払ってダンキンドーナツを1週間買ってもらい、逆にダンキンドーナツファンにはスターバックスを1週間買ってもらう調査を実施。双方に感想を聞くと、スタバファンはダンキンドーナツを「古臭くてダサい」と毛嫌いし、ダンキンドーナツファンはスタバを「おしゃれ感が鼻につく、落ち着かない」と毛嫌いしていることがわかったのです。

この調査から明らかになったのは、ダンキンドーナツはスターバックスではない、ということ。もちろん、スターバックスもダンキンドーナツではありません。

ダンキンドーナツは「街にある普通のコーヒーショップ」というポジションを改めて強調するブランディング&マーケティングを行うことで、スタバとの共存に成功しました。


(3)モスバーガー

マクドナルドのような低下価格路線と、プレミアムなハンバーガーを提供するハンバーガー店の高価格路線とのあいだで、いわばハンバーガー業界の「中価格路線」のポジションをキープ。

安心・安全な素材、手作り感、おいしさといった品質のこだわりはしっかりと訴求しながらも、決して高級路線に行きすぎないことで業界2位の座を守り続けています。


(4)すき家

外食産業における牛丼屋のポジショニングは、常に「働く男性が安く早く食事できる場所」でした。そこで、すき家は市場分析を緻密に行い、ファミリー層と女性客という新たなターゲット層の開拓にチャレンジ。

競合牛の吉野家や松屋が駅前や繁華街などの都市を主軸に展開していたのに対し、すき家は郊外型の店舗展開に注力。これは車を利用するファミリー層を狙ったものでした。

さらに、テーブル席を多く設けたり、子ども用の椅子を用意したり、メニューを充実させてヘルシーな牛丼や子ども向けメニューを出すなど、女性やファミリーが利用しやすい環境を整備。

女性や子どもも気軽に外食を楽しめる牛丼屋」というガラ空きのポジションを開拓することに成功し、客数も客単価も大幅に向上。業界トップの吉野家を追い抜き、見事業界No.1の座を手にしました。


(5)カルビー フルーツグラノーラ

カルビーのフルーツグラノーラは1991年に登場し、仕事で忙しい女性のための食事として販売していましたが、思うように売れませんでした。2000年代に入ると、シリアル市場自体も縮小傾向に。そこでフルグラは主戦場を「シリアル市場」から「朝食市場」にポジションチェンジします。

朝食市場の主役といえばパンや白米。シリアルはその代替品として捉えられがちですが、彼らが目をつけたのは「ヨーグルト」。ヨーグルトを好んで食べる層に対して、ヨーグルトと相性が良い食材であることを訴求。あくまでも「ヨーグルトの脇役」として、日常生活の中へ入り込んでいく戦略をとりました。
 
こうなると、ライバルはパンや白米から、ジャムやフルーツへと変わります。フルーツグラノーラはヨーグルトと混ぜた時の独特の食感や、食物繊維と乳酸菌の相乗効果、何よりも新しいヨーグルトの食べ方提案を発明したことにより、ヨーグルトファンの間で大きな話題に。それをきっかけにグラノーラの認知度や美味しさは草の根的に広がっていき、朝食市場の中にグラノーラという新たなポジションを確立。数年で年商を5倍に引き上げることに成功したのです。


(6)ハーゲンダッツ

1961年にアメリカに創業し、1984年に日本進出したハーゲンダッツ。彼らは、「スーパープレミアムアイスクリーム」というカテゴリを作って、高級路線アイスクリームのポジションを画策しました。

ハーゲンダッツが打ち立てた企業理念は「Dedicated to perfection.(完璧を目指す)」。素材のおいしさを大切にするため世界から原料を厳選し、特にミルクに対するこだわりは世界一を自負するほど自信を持っていました。

品質が一級品であることはもちろん、一流のアイスであることを消費者の頭に植え付けるために、発売当初は販売戦略にもこだわりました。それは、温度管理がしっかりしているデパートや高級スーパー、直営店に販売店を絞ったということ。これにより、プレミアムなブランドの世界観を作り上げていったのです。

当時の日本で高級路線のアイスの代表格といえばレディボーデンでしたが、これは駄菓子屋でも販売していたため、やがてハーゲンダッツにその座を奪われてしまうことになります。

また、直営店の立地にも明確な戦略がありました。彼らが注力したのは首都圏・近畿圏のショッピングセンター、ターミナルや郊外駅前、繁華街やメインストリートなど。共通していることは、大勢の人が行き交い、店の看板がたまたま目に入りやすい場所であること。男女の親密さを表現したアイスらしからぬ広告戦略も相まって、ハーゲンダッツは一気に多くの人々に知られるブランドになったのです。


(7)アサヒビール ドライゼロ

ノンアルコールビール市場は、2009年にアルコール分0.00%のキリンフリーがドライバーや妊娠中の女性の間で大ヒット。キリンに追随する形で他のメーカーも0.00%のノンアルコールビール飲料を販売し始めていました。

その中で遅れを取っていたのが、アサヒビールの「ダブルゼロ」。2010年に発売したものの、シェア率はわずか2%。完全なる一人負けの状況を打開するために同社は、5000人以上に及ぶ顧客調査を行いました。

そこで発見したことは、消費者はノンアルコールビールに対して「本格的なビールの味を求めている」ということ。

当時はアルコールが飲めない人や女性が主なターゲットだったため、ライトな味わい、カロリーオフなどの健康的な訴求が主流でした。しかし、普段からビールを飲む人がアルコールを摂取できない場面で、ノンアルコールビールは味わいの面で顧客ニーズを満たせていなかったのです。

ターゲットは、ビールに飲み慣れている男性。目指すべきはビールの完璧な代替品。こうして生まれた「ドライゼロ」は、その本格的な味わいで新しいポジションを開拓。発売早々に20%を超えるシェアを獲得したのです。


(8)サントリー プレミアムモルツ

2000年初頭に登場したプレミアムモルツ。売れ行きはそれなりに好調だったものの、世間ではプレミアム感のあるビールといえばまだヱビスビールが主流でした。

サントリーはプレミアム路線の新しい戦略を打ち出すべく、まずはヱビスビールのことを徹底的に調査。すると、ヱビスビールの売上が最も上がるのは、お中元などのギフトシーズンや年末年始。いわゆる「ハレの日」需要に応えるビールであることがわかったのです。

さらに消費者の動向調査を大規模に行ったところ、贅沢なビールを飲みたくなるシーンは、休日の夕食中であることがわかりました。

こうした調査から浮かび上がったキーワードを掛け合わせて生まれたのが、「最高金賞のビールで最高の週末を」というキャッチフレーズ。

2005年にモンドセレクションで国内ビール初の最高金賞を受賞したことをフックに、「週末においしいビールを家で飲むというささやかな贅沢」を消費者に提供。

2006年には前年比400%以上の売上を確保します。さらに2008年には、ついにヱビスビールの売上を抜いてNo.1となり、同社初のビール部門での単年度黒字を記録します。

「週末に家で飲める贅沢なビール」というポジションを掘り起こしたことで、贅沢なビールといえばプレミアムモルツという地位を確立。プレミアムモルツが成功した理由は、ハレの日ではなく「日常」に「プレミアム」を発見したことにあったのでした。


(9)ヤッホーブルーイング 水曜日のネコ

2000年代、クラフトビールメーカー各社が白ビールに参入し始め、かつ女性向けビールが日本市場にまだ浸透していなかったことから、「女性向けの白ビール」に狙いを定めて商品開発。ターゲットにふさわしいと思った数十名にデプスインタビューを行い、マスを捨てて個にフォーカスすることで独自性のあるコンセプトを確立していきます。

そして、同社は「中目黒在住の30代独身女性が平日の夜に家で飲むお酒」というポジションを狙いました。このポジションには缶チューハイやハイボールなどが君臨していて、そもそもビール自体が選ばれていなかったのです。

つまり、そこはビールにとってのブルーオーシャンとも言えます。

クラフトビールは、ビール市場という括りで見るとわずか1%のシェアしかありません。しかし、ヤッホーブルーイングは「若い女性の家飲み」という既存のビールとは異なる市場に挑戦し、見事にポジションを築くことに成功したのです。

同社が生み出した「水曜日のネコ」は、ターゲットの彼女たちに、平日に家で飲むお酒の一つにビールという選択肢をもたらしました。見事なポジショニング戦略によって、大々的なPR活動は行わず、マス広告も一切出さずに、知名度を飛躍的に高めることに成功したのです。


(10)レッドブル

これまでのエナジードリンクにはなかった、シンプルでスタイリッシュな赤い牛のマーク。雄牛の形にくりぬかれた珍しい形状のプルタブ。「レッドブル、翼をさずける。」というキャッチコピー。

従来のエナジードリンクの「疲労回復」というイメージに対し、レッドブルは「飲むと強くなる」「力を発揮する」というイメージで勝負しました。

社長のディートリッヒ・マシテッツはレッドブルを単なる飲料ではなく「エキサイティングな体験」「スリルや冒険そのもの」と定義します。

彼らが創業時からエクストリーム・スポーツのスポンサーになったのには明確な戦略があります。当時、若者が熱狂していたのはオリンピックなどのスポーツではなく、スノーボードやマウンテンバイク、ハングライダーなどの新しいスポーツ。エクストリーム・スポーツ業界に参入したことは、レッドブルのエキサイティングなイメージを醸成し、コアターゲットの若者を振り向かせるのに大いに役立ちました。

このように、レッドブルは商品の具体的な機能性については一切語らず、デザインやキャッチコピー、スポンサー活動などを通して、イメージ、価値、イデオロギーを消費者の心に訴えかけ続け、エナジードリンク市場に新たなポジションを築き上げました。

その結果、年間50億本を超える売上を記録。1缶あたりの利益率は70%以上だと言われています。


(11)大塚製薬 ポカリスエット

ポカリスエットは発売当初、まだ日本に浸透していなかった「スポーツ飲料」というポジションを開拓したことで、消費者から絶大な支持を得ます。

その後、スポーツ飲料市場にプレイヤーが続出して飽和状態になると、彼らはもっと大きな市場である「清涼飲料水市場」にポジションチェンジ。消費者に支持されていた「イオン飲料」「水分補給」というブランド資産を武器に、「健康的な清涼飲料」というポジショニングを開拓します。

今でこそ健康を訴求する清涼飲料水は多いですが、当時はほとんど競合のいないブルーオーシャン。すでに健康的なイメージを確立していたことも大きな競争優位性を発揮し、この市場でも大成功を収めました。


(12)セブンアップ

セブンアップは清涼飲料水市場に参入する際、競合のポジションを巧みに利用しました。彼らが大々的に打ち出したのは、「コーラではない飲み物」というポジショニング。「アン(非)コーラ」という広告に全力を注いで、消費者の頭の中にそのイメージを植えつけることに成功しました。

コーラは好きじゃないけど炭酸を飲みたい人、甘ったるくなく、爽やかな味わいで喉の渇きを潤したい人のハートをガッチリ掴み、市場に自分たちのポジショニングを確立したのです。


(13)花王 メリット

花王のメリットは1970年代に「フケ・かゆみ専用シャンプー」というポジションで登場しました。ターゲットは若い女性、悩みを解決するシャンプーというわかりやすさで大ヒットします。

しかし、時代が変わるにつれ、若い女性のニーズは髪をサラサラにしたい、ダメージを修復したいなど多様化していきます。それに伴い新商品が続々と登場し、花王メリットはどこか古臭いイメージが定着しつつありました。

そこで、同社は潔くポジションをチェンジし、「家族全員が安心して使えるシャンプー」へと変貌を遂げます。すでにブランド認知が高かったので「安心感」との相性は抜群。メリットが持っているブランド資産をフル活用する形で、売上をさらに伸長させることに成功します。

さらに同社は家族という大きな括りから細分化したターゲットに商品を展開。「母と女児のためのトリートメント」→「父と子のためのリンスがいらないシャンプー」→「女子中高生のシャンプー」と次々と新たなポジションを開拓していき、メリットは50年近く業界トップブランドの座を守り続けているのです。


(14)資生堂 シーブリーズ

シーブリーズの発売時のコアターゲットは、20代〜30代男性海で使うボディケア製品として販売していました。しかし、海に行く人自体が減っていき、ブランドにも時代遅れなイメージが付いていたのです。

そこで同社が打った施策は、大胆なポジショニングチェンジ。ターゲットを女子高生に変更し、利用シーンも海から日常へと変えました。

商品の機能や成分自体に大きな変更はありません。しかし、広告やキャッチコピーによるイメージの刷新をしただけで、低迷時の8倍もの売上を記録するようになったのです。


(15)エスエス製薬 ハイチオールC

エスエス製薬の看板商品の一つ、ハイチオールC。その誕生は1970年代に遡りますが、もともとは中年男性向けの二日酔い改善薬として販売されていました。

発売当初から売れ行きは好調だったものの、1990年代に入ると、売上は横ばいの状況になります。そこで1998年、同社は大胆なポジショニング変更を決断します。

ハイチオールCの成分には2日酔いを緩和する肝臓への働きがありますが、メラニン色素の無色化、新陳代謝を活性化させる効果も認められていました。

そこでターゲットを中年男性から一気に若い女性へとシフトし、コンセプトを「美白=女性のしみ・そばかす対策」としたのです。

このコンセプトに基づいて、1回あたりの服用量を4錠から2錠にするなど、女性に合わせた商品仕様に変え、広告やWebサイト、流通ルートも変更。

「シミ、のんで治そう。ハイチオールC」のフレーズで多くの女性の心を捉え、売上を倍増させることに成功しました。


(16)タイレノール

痛み止めの市場でトップを走っていたアスピリンのポジションを崩したのはタイレノールというブランドでした。

タイレノールは、広告で「アスピリンを服用すべきでない何百万人の方のために」と訴えたのです。「すぐに胃が荒れてしまったり、潰瘍があったり、喘息やアレルギー、鉄欠乏性貧血がある方は、アスピリンを服用する前に医師の診断をあおいだほうがいいでしょう。」とアスピリンのウィークポイントをほのめかします。

さらに、「アスピリンは、胃の粘膜を荒らしたり、喘息やアレルギー反応を引き起こすことがあります。また、胃腸に微出血を起こすこともあります」と直接アスピリンの問題となる点を指摘。そして、「でも、幸いなことに、タイレノールがあります・・・」という形で広告は展開されます。

これでアスピリンの不動のポジションは崩されたのです。


(17)ライフネット生命

生命保険会社のライフネット生命は、インターネット専業の保険会社というポジションを築いて成功した企業です。

どうして、インターネット専業が成功したのか。そこには、保険に対する消費者のネガティブなイメージが関係しています。

従来、生命保険会社といえば営業職員による販売活動が中心となっていました。なぜこのような営業職員を必要にしているかというと、保険に対してニーズを感じていない層が多くいるため、そのニーズを生み出し購入に結びつける必要があるからです。

それに対して、ライフネット生命が打ち出した戦略は以下のようなもの。

(1)営業職員を雇わずに、そのぶん商品価格を下げた
(2)保険の特約を廃止し、不明瞭な保険の料金設定に対する消費者の不安を取り除いた
(3)手数料を公開した

このように、保険に対するネガティブ要素を丁寧に取り除くことで消費者からの信頼を勝ち取り、実際に営業職員を持たないことで価格が下がったため、他社よりもお得なイメージを醸成できました。

この戦略が優れているもう一つの点は、ライバルである生命保険会社が真似しにくいということ。実際、ライフネット生命の戦略を他社がやろうとしても、既存の営業職員を解雇するのは難しく、特約は収入源だったため特約をなくすと利益が減ってしまい、手数料を公開すると営業コストが高いことが消費者に知られてしまいます。

既存の生命保険会社がやりたくないことを、ライフネット生命は徹底的に突いた結果、ライバルの追随を許さない独自のポジションを獲得することができたのです。


(18)ザッポス

「Zappos(ザッポス)」は、アメリカのラスベガスに本社を構える靴のインターネット通販会社。1999年の創業以来、独自の企業文化を築きながら急成長し、たった10年という短期間で総売上げが10億ドルに到達。今や、アメリカのビジネスマンでザッポスを知らない人はいないと言われるほどに注目される企業です。

同社は、EC業界でいち早く顧客ファーストを徹底しました。翌日到着、送料無料、返品無料、24時間365日対応の顧客サービスといった、インターネット通販の新常識を打ち立て、今日の通販サービスのスタンダードを作ったと言われています。

しかし、ザッポスの提供するサービスはこれに留まりません。返品は365日以内であれば無料で何回でも受け付ける。顧客の足に合う可能性のある靴を1度に数足送っていわゆる試着サービスを行う。自社に顧客が希望する商品の在庫がなければ、在庫がある他社サイトを紹介までしてしまう。などなど。ザッポスの対応には様々な逸話が残されています。

同社は「サービスカンパニー」という他が真似できないポジションを築いて成功したのです。


(19)マニー

栃木県にある、手術用縫合針、眼科用ナイフ、歯科用治療器などを手がける医療機器メーカー。一般的にはあまり知られていない会社ですが、実はマニーが製造している虫歯の根を削る器具は世界シェア35%、白内障手術で使われる眼科ナイフは世界シェア30%という実績を保持しています。

マニーの企業理念は「世界一というプライド」。世界一を追求する風土がこの会社を支えています。そして、彼らは珍しく「やらないこと」を明確に定義している会社でもありあます。これを読むと、マニーが明確なポジショニング戦略を打ち立てていることが如実にわかるのです。

マニーがやらないこと

(1)医療機器以外扱わない
(2)世界1の品質以外は目指さない
(3)製品寿命の短い製品は扱わない
(4)ニッチ市場以外に参入しない

これらのポジショニング戦略は高い技術力や開発力を持っていることが大前提ではありますが、成功すれば業界内でもっとも強いポジションを得ることができる可能性があるのです。


(20)任天堂 Wii

当時のゲーム業界はソニーのプレイステーション3やマイクロソフトのXbox360などが台頭し、高機能化やゲーム性の高度化、リアリティの追求が進んでいました。

任天堂のゲームキューブも映像の美しさやゲーム性を追い求めており、競合同士が同じ方向性を目指すことで市場はレッドオーシャン化していました。

そこで任天堂の開発チームは、ゲームをやらない非顧客層の分析などを実施。こうして導き出されたのが、従来のゲームファンではなく、ふだんゲームで遊ばない大人や小さい子どもを狙ったポジショニング戦略でした。

彼らは付加価値と低コストを両立するために、従来のゲームで付加価値とされていたリアルな映像や複雑な機能は取り除き、その代わりに簡単な操作性や物理的なゲーム性を追求しました。そして、ゴルフやテニスなどの動きを再現できる「Wiiリモコン」を加えたことで、直感的でカジュアルに遊べるゲーム体験を生み出したのです。

Wiiは小さい子どものいるファミリー層やゲームで遊ばないカップルや夫婦などの間でたちまち話題となり、競合のいない新しい市場を開拓することに成功したのです。


(21)キングジム ポメラ

ポメラは、フルキーボードでテキスト入力ができ、小型で立ち上がりが早いことを売りにした電子メモ帳です。

同商品がリリースされたのは2008年11月のこと。当時はすでに軽量のノートパソコンが安価で手に入り、iPhoneが登場した時期でもある時代。社内でも売れるはずがないという声が多かったそうです。

しかし、フタを開けてみるとライターやブロガーなど、いつでもどこでもすぐに文章が打ちたいという層のニーズを満たし、9万台を超える大ヒット商品となりました。

ポメラの成功要因に挙げられるのが、一部の機能だけに特化することでノートパソコンや携帯電話との差別化を図ったこと

すなわち、「起動の早さ」「持ち運びやすさ」「キーボードによる文字の打ちやすさ」「バッテリーの長さ」だけに注力することで、ノートパソコンにも携帯電話にもないポジショニングを確立し、他のあらゆる機能を削ぎ落としながらも、2万円前後と決して安価ではない価格帯で商品を販売することができたのです。

その後、ポメラの改良版は液晶パネルを大型化したり、内蔵メモリー容量を増やしたり、文書をQRコード化して転送できる機能を追加したりなど、ユーザーのフィードバックを反映しながら利便性を高めていき、万人受けする商品ではないが根強いファンの心をがっちりと掴むことに成功しています。


(22)VOLVO

VOLVOは全米で最も売れているヨーロッパの高級車。その販売台数はBMWやベンツを上回ります。

VOLVOは世界初となる3点式シートベルトを導入して以来、「安全性」だけに焦点を絞って、それ以外の余計な要素は削ぎ落としたブランドです。

ボックス型の古風な見た目は、決して高級車にふさわしいとは言えないかもしれません。しかし、彼らはそんな評判を一切気にしません。なぜなら、そもそも安全性にしか的を絞っていないから。

実際、「安全な車といえばVOLVO」というイメージが全世界に浸透し、VOLVOを購入した人のほぼ全員がその「安全性」を評価。しまいには、「ボルボに命を救われた人の会」が結成されるほど熱烈なファンを生み出しているのです。

こうしたブランドの姿勢は、社内の人間にも良い影響を与えています。たとえば、エンジニアは様々なトピックスに余計な労力をかける必要がなくなり、常に安全性を最重要項目にして開発を進めることができるのです。

では、安全性と関係のない分野はどうするのか?

その答えは実にシンプル。他社に任せるのです。

安全性以外のことは自分たちがやらなくても、他社メーカーの優れた開発者たちが新しい技術を生み出してくれます。いくら業界的に後手に回ったとしても、VOLVOはその技術の安全性が確証されるまで待つ。そして、確かな技術だと判断できたらようやく自社の製品にも取り入れるのです。

人は様々な選択肢を切り捨てることに抵抗を覚えるものですが、正しい取捨選択は圧倒的な力を産むことをVOLVOの事例は証明しているのです。


(23)ハウス食品 ウコンの力

ハウス食品はカレーや調味料の分野ノウハウを持ち、特に加工技術やマスキング技術において業界優位性を築いていました。

同社は、この財産を生かしたサブブランドの構築を模索。その中で着目したのが、ウコンでした。当時、すでにウコンは「お酒を飲んだときに効果的」というイメージが定着していました。そして、ウコンはカレーや調味料で培った強みを存分に発揮できる分野。

彼らはウコンを使って飲酒シーンに限定した商品を作ることに決めます。

同社は消費行動の調査を行い、「飲酒機会が多い」「加齢とともにアルコールに弱くなっている」「健康ドリンクを日常的に飲用する」といった特徴を持つ30〜40代男性にコアターゲットを設定。

これにより、サプリではなく栄養ドリンクのような形状と味が採用され、ウコンがアルコール代謝に及ぼす影響の科学的根拠も研究して、あらかじめ学会に発表して信頼性を担保しました。

こうして生まれた新商品が「ウコンの力」。「飲む前に、飲む」という限定的な利用シーンが見事にヒットし、飲酒機会が生じるたびに購入されるという継続利用にもつながりました。

これまでは一般用薬品胃腸薬のひとり勝ちだった「二日酔い対策の市場」に、「二日酔い対策ドリンク」という強烈なポジショニングを開拓して新規参入することに成功したのです。


(24)H&M

H&Mはやらないことを決めて成功したブランドです。

彼らが掲げた信条は、「常に魅力的で新しい商品を店頭に並べ、顧客を魅了し続け、飽きさせない」こと。

そのため、下記のようなことに全力を捧げました。

・年間50万アイテム以上を開発する。
・数時間ごとに新商品を陳列し、既存商品の場所も変える。
・売り切れた商品は決して再生産しない。

などなど。

逆に言えば、この信条に反することは、たとえそれがどんなに業界のセオリーであっても絶対にやらないと決めました。

品質についても割り切っていると言われています。つまり、仮に多少縫製が粗かったりしても、パッと見て何の問題もなくシーズン中に心地よく着られるものであれば、それ以上の品質は追求しません。顧客もH&Mに必要以上の品質は求めていないからです。

そのぶん、時代のトレンドや優れたファッションセンスを採り入れるためには惜しみない投資を行います

結果、「常に新しいファッションが、それなりの品質と、驚くべき低価格で手に入る」というポジショニングを確立することに成功しました。やらないことを明確にしたことでH&Mが手に入れた地位は、今だに揺るぎないものとなっています。


(25)ネットジェッツ

アメリカのネットジェッツ社は、プライベートジェット市場で最大規模の売り上げを誇るトップ企業です。

ネットジェッツが登場するまで、富裕層の長距離移動の手段は、旅客機のファーストクラスを利用するかプライベートジェットを利用するかの二択でした。

旅客機は移動に時間がかかり、到着する空港の数も限られています。プライベートジェットは利便性が高いですが、莫大なコストと維持費がかかるためごく一部の限られた人たちのマーケットとなっていました。

そこでネットジェッツが提供したのが、プライベートジェット機のシェアサービス。利用者とジェット機を共有することで、低コストながらプライベートジェットの快適さが手に入るようにしたのです。

価格は旅客機のファーストクラスよりは高くなりますが、その価格を上回る価値に利用者が急増。小規模だったプライベートジェット市場に新規層を呼び込み、一気に数十億ドル規模のトップ企業へと躍り出ました

ファーストクラスと自家用ジェットの“隙間”という見事なポジショニングで成功したジェットネッツの創業は1964年。近年はAirbnbやUberなどシェアリングエコノミーが流行していますが、そのビジネスモデルを50年前に実践していたというのも驚きです。


(26)アキレス 瞬足

アキレス株式会社のジュニア用スポーツシューズ「瞬足」は、2003年の発売以来、「速く走れるスニーカー」として小学生の間で爆発的な人気を呼び起こし、毎年600万足を売り続ける伝説的な大ヒット商品となりました。

瞬足を開発する際、彼らは2つのフォーカスを行いました。

まず一つ目が、「運動会で速く走れる靴」に絞ったこと。運動会は走ることの原体験として誰もが記憶に残っている、子どもにとって非常に重要な行事です。だから、サッカーや野球など様々なスポーツに対応するものではなく「運動会専用」の靴、とにかく運動会で速く走れることだけを考えた靴を作ることに決めました。それが瞬足最大の特徴とも言える、トラックの左回りに対応した「左右非対称ソール」を生み出したのです。

もう一つのフォーカスは、販売ラインを小学校低学年の男子に絞ったこと。ジュニア用スポーツシューズを販売する場合、幼児用から高学年の男女までアイテム展開するのが業界の常識でした。しかし、彼らは「小学校低学年の男子を振り向かせられたら勝てる」と判断。事前の入念なリサーチによってジュニア用スポーツシューズのボリュームゾーンが小学校低学年男子にあることを知っていたのです。

小学校低学年の間でブームになれば、成長して高学年になっても使ってもらえるし、年下の子たちも瞬足に憧れを持ってもらえる。まずは小学校低学年の靴を製造することにリソースを集中させ、ブームが生まれたタイミングでラインを広げる作戦を練ったのです。

この「小学校低学年の男子向け、運動会専用靴」という的を絞りに絞ったポジショニング戦略は的中し、効率的に一番届けたいターゲットに種を蒔くことに成功。そして、圧倒的な実績が示すとおり、数年後にその花は見事に開花したのです。


(27)be-monster

従来のフィットネスジムやボクササイズは、鏡張りのスタジオでトレーニングするものが基本でした。

それに対してb-monsterのスタジオは、必要最低限の照明が設置された暗闇。大きなスピーカーから出るノリノリの音楽で、クラブにいるような高揚感の中でボクササイズに没頭できるようにしました。
 
これまでのジムのイメージを一新するようなポジショニングで市場を開拓。創業わずか1年で4店舗も事業拡大することに成功したのです。


(28)QBハウス

QBハウスは平成8年創業の理髪店。言わずもがな「10分1,000円カット」で低価格理髪店というポジショニングを築いた企業です。

彼らがすごかったのは、理容室や美容室のサービスから徹底的に無駄を省いた点にあります。理髪店にありがちなシャンプーや髭剃りは取り除き、提供サービスはカットのみ。カット後も席で吸引機で髪を吸い取るだけ。店内には電話を置かず、予約も一切とりません。

また、従業員の時間に対する意識を高めるために、給与は「分給」で計算されているといいます。

洗面台やドライヤーなどの設備投資はもちろん、敷地も狭くてよいため、通常の理髪店よりコストがかかりません。地下街やショッピングセンターのトイレの脇など、家賃が安い場所を選んで出店しているのも特徴です。

しかも、10分で1,000円ということは、1時間あたり6,000円の売上。通常の理髪店が1時間で3,000~4,000円と考えると、時間当たりの単価は高いことがわかります。

そして、顧客にとっては安い金額で早く髪を切ってもらえるメリットがあります。10分1,000円のため、もともとの期待値も高くありません。理想の髪型にしてもらいたいというよりは、とにかく髪をすっきりさせたい、時間とお金をかけずに髪を切りたい、というニーズを満たしてくれる存在です。

こうした理由から、時間をかけられないサラリーマンを中心に大流行。低コストと高単価を実現しながら、安い、早い、無駄な会話がない、といった要素がターゲットにとっては高い付加価値となった好例です。


(29)シルク・ドゥ・ソレイユ

シルク・ドゥ・ソレイユが登場するまで、サーカス市場は飽和状態。競合同士のショーに変わり映えがなく、差別化のために有名なパフォーマーやライオン使いを引き抜いてくるため、ショーの中身は変わらないのにコストばかりが膨らんでいました

それに対し、シルク・ドゥ・ソレイユは、スターパフォーマーに対する観客の需要が高くないことを見抜き、世間の反発が強くコストもかかる動物ショーをやめ、グッズ販売や複数の舞台での同時ショーなどの無駄もなくしたのです。

一方、サーカスの普遍的な魅力であるテントや道化師、古典的パフォーマンスは残しながら、知的で美しく、芸術性の高いパフォーマンスへと昇華させ、テント設計も世界観の統一や、観客の居心地の良さを重視しました。

こうした取り組みによって、誰もが見たことのない新しいサーカスが誕生し、サーカスファンとこれまでサーカスに興味のなかった層の両方を一気に獲得。「芸術性の高いサーカス」というポジショニングを開拓し、瞬く間に業界トップを勝ち得たのです。


(30)ジャマイカ

カリブ海のジャマイカには、観光地としてバハマ諸島、プエルトリコ、ヴァージン諸島、バミューダの4大ライバルがいます。どこもジャマイカより観光客数が多く、特にバミューダは「ビーチとモーターバイク」というポジショニングで認知度を確立。ジャマイカは観光戦略で完全に遅れを取っていたのでした。

対策を打ち出すべく、ジャマイカは自分たちのブランド要素を細かく洗い出し、ひとつのアイデアが生まれます。

ジャマイカといえば、海に浮かぶ緑豊かな大きな島で、ゆったりとしたビーチ、涼しい山々、広々とした高原、おいしい水、そして雄大なジャングルがあります。こうした環境は、まるでハワイと同じでした。

そして、ジャマイカの敷地が他島に比べてダントツに広く、ダントツに高い火山山脈ブルーマウンテンがあります。見所が多く、遊び方も色々あるという長所もハワイに似ていて、それは他の島では表現できないものでした。

そこで彼らは「カリブ海のハワイ」というポジショニングを見出し、独自の優位性を確立。

美しい自然やきらめくビーチ、年間を通して穏やかな気候――わざわざ遠いハワイまで行かなくても、カリブ海のジャマイカで手に入りますよ」と訴えかけるプロモーションがヨーロッパで大ヒットし、大きな成功を収めたのです。

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以上、ポジショニング戦略で成功した企業の事例を集めてみました。まだまだ探せば出てくるので、面白い事例を見つけたら追加したいと思います。

ポジショニング戦略がどういうものなのか、これを読めば大筋は掴めるのではないかと思います。より詳しく知りたい方は、是非マーケターのバイブルと呼ばれる一冊を手にっとてみてください。




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