国内市場重視に転じたスズキのワケ

攻めるスズキ

最近スズキが攻めている。自動車メーカーは新型コロナウィルスや戦争など世界のいろいろな出来事により、部品調達が困難といった影響を受けており、納期は早くても半年。人気車になると1年弱は当たり前という誰もが経験したことがないような状況になっている。販売現場は非常に混乱したことも事実だが、おかまいなしに新商品投入の攻勢を強めている。

昨年後半からの動きを見てみると、9月にムーヴキャンバスのライバルとなるワゴンRスマイルを投入。ダイハツにあるけどスズキにはないという事態に対応している。この2社は永遠のライバルであり、他の自動車メーカーとは違った関係性である。消費者から見ても軽自動車のトップブランド二大巨頭であり、比較されるケースが非常に多く、どんなにホンダが売れようが、ダイハツにとって大事なのはスズキに勝つことであり、スズキにとってもダイハツに勝つことが一番の関心時である。「あっちにあるのにこっちにない」ということは許されない。つまり、似たようなコンセプトの車を互いに持つことで発展してきたメーカー同士。ハスラーが当たればタフトが出る。キャンバスが当たればスマイルが出る。お互い公認しているといっても過言ではない。

年末にはアルトがフルモデルチェンジとなった。軽セダンを見直し、思い切ってバンをやめ、スタート価格を上げたことでクオリティが高くなった。今年度に入ってからは、エブリイとキャリイに吸排気VVTを採用した新しいエンジンを搭載。キャリイに4速ATをやっと投入した。5月にはハスラーを改良。NAエンジンモデルにアダプティブクルーズコントロールを設定するなど商品力を強化。6月にはラパンを改良。モデル末期でありながら、安全装備の刷新を行い、派生車種でレトロ感を増した「LC」を投入した。

フロントマスクが個性的すぎるラパンLC


そして、8月にはクロスビーの仕様変更。ワゴンRのマイナーチェンジをするという。特にワゴンRは先代スペーシアの最後に登場した「カスタムZ」を追加して商品力を強化。また、安全装備を刷新したり、スズキコネクトの採用など、フルモデルチェンジの時に取っておきたくなるような材料を惜しみなく注く。また、9月にはN-VAN対抗となるアウトドアにも使える新型商用車を発売し、売れている商品にきっちりと対抗馬を用意する。さらに、セレナのOEMであったランディがトヨタノアに切り替わるモデルチェンジを予定。その後も年末に向けて続々と新商品を投入していくという。

国内市場重視に転換

スズキの動きが少なくとも日本市場において攻めの姿勢に変わったのには他の自動車メーカーと違ったことをするという独特の社風があるとみられる。これは、第一線から引退した鈴木修前会長ならではの精神であり、国内メーカーが軒並み海外市場最優先となり、日本を第一に考えた車を作らなくなったことに注目。今こそ日本での存在感を上げるチャンスと捉えていると見る。日本の自動車ユーザーは舌が肥えているので、もっと高級なもの、もっと先進的で革新的なものを求める人もたくさんいるが、逆に使いやすいサイズや、最新技術満載でなくてもいいから割安感を求めるユーザーも少なくない。こうした点でスズキの強みである小さな車、良品廉価な車造りは国内でも活かすことができる。2020年代において日本を最重要市場と捉えているほとんど唯一の自動車メーカーがスズキである。

これを後押ししたのは、一昨年ホンダを抜き、国内第2位という信じられない結果となったことがあるだろう。スズキはこの年に販売台数第2位となり、社内もかなり湧いたという。販売だけでなく保有台数においても2位に躍進。これはスズキ車が日本で2番目に愛用されているということで、たまたまその年だけ売れたということではない証だ。ただし、その数字はホンダと比べてわずかな差であったため、いつ逆転されてもおかしくない。このポジションを確固たるものにすべく、2年前から国内市場を重視する方針になったと私は見る。

また、新型コロナウィルス拡大などによって、海外市場の不安定さが増したことも国内重視の要因となっていると考える。スズキは工場が稼働できないといった中で、主力のインドでの生産と販売が大幅に低迷するなど大きな影響を受け、危機的な経営状況になるのではないかという心配があったものの、結果として大幅な赤字になるといったことを防げた。これには日本市場での安定した販売と収益があったためと発表されている。

次の次の一手が重要になる

スズキは日本メーカーとして非常識ともいえる国内重視路線で日本のユーザーを喜ばせてくれるだろうが、現時点では魅力のある車を投入しているし、個性的でスズキにしかない車で楽しませてくれるだろう。当面はこれで伸びていくと予想されるが、新しくスズキのユーザーになった人をつなぐためには、もっと大きな車が欲しいとか、もっと先進的なものが欲しいといった流れになった時に対応できなくてはならない。これは将来的にインドでもあたる壁と思われる。そのためには一周遅れでいいから安い価格で売っていればとりあえずOKということではダメで、今よりも電動化、自動運転技術。もっとプレミアム感のある車を作る力も磨く必要がある。この点は小さな車を作る技をトヨタへ提供する代わりに、今度はトヨタから学ばせてもらうところかもしれないが、それにしても当面は日本のユーザーのために車を作ってくれるメーカーとして応援していきたいと思う。

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