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娘の町になってゆく

 2歳11ヶ月の娘は年末に高熱を出し、年始にかけてずっと寝込んでいるか、起きててもずっとぼんやりしていた。
 でもこれを書いてる今はすっかり元気になり、娘の肉体に娘の魂がフルインストールされ、好奇心全力全開あばれアマゾネスである。

 病み上がりのときはお出かけも控えめに。
 近所の商店街をちょこっと散歩したりした。
 でもその小一時間のお散歩がめちゃくちゃ楽しかった。

 実はぼくも高熱で年始はぶっ倒れていたので、このお散歩こそがぼくにとっての初日の出だったと言える。

 娘は元気なら常に独走だが、このときはずっと手を繋いでてくれた。
 ニコニコしながらこちらを見上げておしゃべりする娘。

「こないだキューズモール行ったなぁ! またプリキュアさんのお店行きたいなぁ!」
「そうやな。もっと元気になったら行こうね」
「ネコちゃんのレストラン、最初こわかったけど、もうこわくないからまた行ってハンバーグ食べたいなぁ!」
「いいねー。でも今日はお寿司にしよう」
「いいよ!」

 お気に入りのスーパーに立ち寄ってガシャポンを回す。
 すみっコぐらしの「とかげ」をゲット! よかったねぇ。

 それから商店街を歩く。

 子ども服やおもちゃが売ってる店の前を通れば、娘はふらりと足を向け中へ。
 足元ちかくのキティちゃんのおままごとセットをチェックする。

「これ、もらいたいなぁ!」
「キティちゃん可愛いね」

 次は靴下屋さん。
 棚の上の方にトマトの顔の可愛い人形があるのを知ってる娘は、

「だっこする!」

 とおとうちゃんの助力を借りてご挨拶する。

 お茶屋さんのショーケースには水族館のようなミニュチュアがディスプレイされてる。

「これなんて魚?」
「うーん、カクレクマノミやな」
「じゃあこれは?」
「うーん、わからんなぁ。熱帯魚かな」
「ねったいぎょか!」

 ──とかやっていると、商店街の向こうのほうから、ドン、シャン、とお囃子めいたサウンドが聞こえてきた。
 目を向けると、人混みの向こうにときおり舞い上がる赤い中国獅子。
「招福駆邪」ってやつかな。

「獅子舞やなぁ。観に行ってみる?」
「見ないー! いかへん! だっこ!」
「だっこ、いいよ!」

 こわがる娘をだっこして、しかしぼくは獅子舞を見に行こうととする。

「見ないー! シュークリーム食べるー!」

 手近にシュークリーム屋さんがあったので、ぼくの意識をそちらに向けようという娘の魂胆だ。

「えー、これからお昼やから買わないよ」
「買うのー! あれ見ないのー!」
「わかったわかった。もう近づかへんよ。ここから見よう」

 しばらく中国の獅子舞の演舞を遠くから眺める。娘はぼくにガシッとしがみついている。

「あ、終わったみたい。いなくなったよ。降りて歩く?」
「だっこのままがいい!」
「えー、もういないよ」
「いるの! だっこ!」

 存在可能性だけで怖い、みたいになってしまった。

「ごめんごめん。だっこでお散歩しよ」

 そしてそのまま、お昼ご飯を食べに回転寿司屋さんへ。
 なじみのお店に入ると、娘は安心したのか降りてくれた。

「ツナと納豆のおすしある?」
「あるよ。ポテトもあるよ」
「やったー!」

 お寿司を食べていると、机に置いたすみっコの「とかげ」に目を止めた店員さんが、

「かわいいの持ってるね! おねえさんもすみっコ好きやねん。ほら、おねえさんは『ぺんぎん』!」

 と、ぺんぎんのボールペンを見せてくれた。
 娘は人見知りをしつつ、おねえさんが去ったあと、

「おねえさん、ぺんぎん持ってたなぁ。かわいかったなぁ」

 と言っていた。
 帰るとき、

「また、おとうちゃんとおかあちゃんと、みんなでおすし食べような!」

 と言ってニコニコ。
 手を繋いで家路についた。

 病み上がり。久々の散歩。
 娘の寄り道スポットや安心できる場所があったり、いつの間にか住んでるこの町は娘の町になってたんだなと思った。

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