違法の冷蔵庫
この国の民は一般的な冷蔵庫の他に
もう一つの冷蔵庫を持っている。
肉や野菜を保存するのではなく
感情を保存するためのもので
大切な想いをしまい
その鮮度を長持ちさせるのだ。
ただし、この冷蔵庫に保存して良いのは
歓喜のみと定められている。
憎しみや悲しみはいつか
人を罪に導いてしまうかもしれないから
保存しておいてはいけない。
なのに、兄ちゃんは法を破ってまでも
つらかったはずの記憶を保存し
裁判にかけられる事になった。
「なぜ歓喜以外の感情を保存したのだ?」
裁判官は鋭く、問うた。
「なぜ、保存してはいけないのですか?
憎しみや悲しみは必ずしも
誰かを傷つける訳ではありません。
痛みが分かるから人に優しくでき
苦しみが分かるから手を差し伸べられる。
僕はそう思うから、残すんです。」
私は証言台に立って証しよう。
語られた通りの兄ちゃんの愛を
一番近くで見てきたんだから。