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K-POPのデザイン3: 概論A

前回まではSMエンターテイメントだけに限った話だったが、K-POP全体のクリエイティブの特徴というもう少し大きな括りで見ていきたい。
またその独自性を語るため補足的に、K-POPと酷似していながら時に対照的でもあるJ-POPアイドルのクリエイティブの例も入れていく(といってもJ-POPアイドルは多様性がありすぎるし詳しくないため、比較は一例でしかない)。ちなみに「J-POPは育てる文化で、K-POPは完成度を求める」など、音楽性やアイドル本人たちの成長物語性などでの言及は他でもされているので、出来るだけクリエイティブや商品としての側面だけで見ていく。

ティーザー

K-POPのカムバック頻度がJ-POPアイドルのリリース頻度より低かったとしても、それを感じさせない施策としてティーザーやその他のYoutubeによる動画展開が機能している。SMだけで言えば、2017年の中期くらいまではサビのワンフレーズをティーザーで歌うものが多かったが、それ以降はインストもしくはSEのみの期待感をより煽る作りになって来ている。

ティーザーの有用性は運営や制作者目線で見れば何点かある。

考察:MVリリースまでファンの盛り上がりを徐々に上げていく。さらに意味深なカットを入れて、SNSでの考察コミュニケーションを促す。
時差対応:MVを韓国時間のプライムタイムにリリースしても、時差のある本国以外のファンが待機してくれるよう事前に告知できる。さらに最近は Premiere 公開が定番になったので、それがなかった数年前より逆にMVの同時刻体験が重視されてきた。
先出し:全ての例ではないがMVがギリギリまで制作完了していなくても、ティーザー用のクリップだけ切り出し各所に確認出しでき告知できる。日本のMVでさすがに Short ver. というのは減って来たが、あれはあれで実は完成していないけど守らないといけない日がある時に使われる事もあった。
ディレクターズカット版:ティーザーは良くも悪くも雰囲気だけが重要であり、本編に全く使われてないカットによるオムニバス形式のパターンもある。このクリエイター・オリエンテッドな文化が制作者の実験の場となる。

K-POPは10年以上前から積極的にインターネットでの動画コンテンツ公開をしてきたが、近年やっとPremiere公開などのプラットフォームの整備、ファンYoutuberなどのDIYクリエイター文化が追いついてきて、

ティーザー解禁( → 考察動画 → )MVのPremiere公開( → リアクション動画 → )番組収録公開Vlog/Unboxing公開( → 翻訳動画・ミーム動画 → )DancePractice公開( → ダンスカバー動画 )

という、 Dance Practice や Vlog/Unboxing などのリリース後のコンテンツにも話題に事欠かないし、ファンがさらにファンを楽しませる構図がある。

上のようなパフォーマンス動画については、前回ポスト・ミンヒジンについての近年のスタイリング兆候として「vs制度」を書くのを忘れていた。
EXO「Obsession」EXO・X-EXO
NCT 127「Kick It」SQUAD・FIGHTER
NCT DREAM「Ridin'」Ridin’・Rollin’
NCT 127「Punch」1st player・2nd player
{ 全体+個人 } × スタイリング × { 顔のみ+全身 } × 音楽番組 = 動画合計数 というのはファンサービスを通り越して供給過多である。イスマン氏の言ってた "無限拡張" ってもしや動画本数のことなのでは。

ちなみにTwitterでジャニーズファンとハロープロジェクトファンに聞いたところ、ティーザーのようなものを出す事はやはりまだ稀のようだが、この2つを教えてくれた。またFAKYのように、最初から海外志向のグループであればやはりプロモーションのやり方はK-POPに習ったものになる。

K-POPリスナーからするとこれらは全て当たり前のリリースルーティンなのだが、J-POPアイドルファンも「そういうコンテンツならJ-POPにも、CDの特典映像がある」と思うだろう。

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J-POPの坂道グループの発明のひとつにリリース時の特典映像として生まれた個人PVがある。特典のためYoutubeでは一部を除きトレーラーしか見れないが、この個人PVは(特に若手)映像作家の挑戦の場となっている。個人PVの内容は監督に委ねられ、被写体の良さを存分に活かしたものから、モキュメンタリー形式、Youtuberとのコラボまで多種多様。
以前紹介したミンヒジン氏のアートフィルムのような小規模作品がリリースごとあると捉えれば、ファン・ディレクター双方に良いチャンスだ。そして何より個人PVは監督はじめクレジットがYoutubeでも載っているのが良い。普通は当たり前に出来たら良いことだが、K-POP大手だとBigHitくらいしかクレジットを掲載していない。

このように、市場を常に広げるためのコンテンツを放出するK-POPは嗜好性よりも第三者的目線でのクオリティを上げることに極振りする。
対してJ-POPアイドルのように、購買やファン会員という一定ハードルを超えた層へのサービスは、アイドルとディレクターの試行錯誤がコンテンツに色濃く反映される。

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パッケージ≠音楽

MVは映像表現・音楽・パフォーマンスなど、デザインを独立して考えるには少し複雑なのに対して、パッケージデザインはデザイナーの手腕がファンのリアクションに顕著に影響を与える。そのパッケージデザインに対するK-POP界の意欲は世界的にも独自であり、J-POPアイドルのそれとも似ているようで少し違う。

イギリスのデザインメディア「The Digital Arts」は、K-POPのデザインについて1年前インタビューで紹介している。K-POPと日本カルチャーに詳しいライター Patrick St. Michel 氏は、以下のように述べている(意訳)。

「K-POPのパッケージデザインは非常に入り組んで精巧な作りですが、ファンはこれを非常に高く評価しています。このような円盤制作にJ-POPはK-POPほど挑戦的ではなく、多くの人が手に取りやすいように古くからある一般的なCDケースのフォーマットを広く採用しています。しかし、K-POPやいくつかのJ-POPの事例に見ることができるデザイン性の高いパッケージが、これから(のストリーミング時代)はより重要になっていくでしょう」

さらに、BTS, EXO, NCT, LOONA などのブランディング・ジャケットデザインを手がけてきたデザインスタジオ「Studio XXX」代表 Ji-yoon Lee 氏の反応も非常に冷静で面白い。

「2007年ごろ、我々もCDといえば大衆の消費者を意識して作っていました。しかし近年のメインターゲットはファンのみに絞られ、彼らはCDを同梱のブックレットやトレカなどのために購入するのです」
「正直、個人的にはクラシックなCDケースの方が好きなんですが、ほとんどのクライアントはファンが求めるからと、リッチなパッケージデザインにするようオーダーしてきます」
「クライアントはいつもアルバムの音源と一緒に、官能的・オールドスタイル・ヒップホップ系などのコンセプト草案を伝えてきます。我々はそこからいくつかデザインを提案し、クライアントに決定してもらいます」
「将来、もしかしたら今のレコードブームのように、プラスチックのCDケースがまた流行るかもしれませんし、新しい挑戦の中で全く別のフォーマットがまた生まれるかもしれません」

さらに、アメリカのインタビュー番組「Zach Sang Show」に Stray Kids が出演した際にも、動画11分あたり司会者は彼らのブックレットについて「アメリカは、こういったリアルなものに対する意欲やリスペクトが低い、LPくらい」と言及している。

ちなみに、この「Zach Sang Show」にK-POPアーティストが出る時は、韓国番組のようなアットホーム感や日本番組のような意図的な可愛さを狙った感じとは異なり、自分達がK-POP文化の代表という姿勢で話している誠実さが見えるので、特にファンじゃない人のインタビューも見てほしい。NCTやBlackpinkも出てるが、個人的にはDAY6Eric Namの回がオススメ。あとはDAY6のJae、Eric Nam、f(x)のアンバーなどがホストを務める韓国クリエイティブ・コミュニティ「DIVE Studios」もクリエイター個人としての一面が見れるので良い(個人的にはWendyやMarkにも加入して欲しい)。日本だと「NO GOOD TV」などがそれに当たるのだろうか。どちらももっとこういう動きがあって欲しい。

Patrick St. Michel 氏の言及にある通り、パッケージに対してリベラル志向な一部のJ-POPアーティスト以外は確かに同一形式のものが多いし、K-POPがブックレットなどのCD以外の要素が主たる目的となっているのには同意だ。ただ、J-POPはその役割をライブDVD/Blu-rayという機会でリッチに作り上げているのもまた事実として補足したい。

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カムバック

前節で書いたようなデザインに対するポジティブな流れはあるものの、どれだけ試行錯誤されていようと、今のストリーミングの時代、実物を買う大部分は結局ディープなファンだけなのは確かだ。では、J-POPとK-POPのファンで円盤を買う意識に差があるのだろうか。

握手券やファンミ参加のための個人複数購入
複数ver.展開収集のためのコンプリート購入
トレカなどランダム同梱要素を集める重複購入
音楽番組の順位に貢献するためのファンダム購入

最後の項目の音楽番組はK-POPの方が顕著な例だが、それぞれの熱量に差はあれど基本的な購買意欲は同じ部類だと思う。悲しいかな「パッケージデザイン勉強のために資料として購入」という私のような例は少数だろう。

しかし他方で、K-POPのミニアルバムやフルアルバムに絞ったいわゆるカムバック形式は、J-POPアイドルのスタンダードな「シングルリリース数回 → アルバムリリース」という音楽周期に比べると、ビジュアルディレクションやデザイン制作の点で、以下の通り都合が良い。

収録曲がまとまった数ある:ブックレットの中身が充実させやすい。曲ごとにフォトディレクションやスタイリングを変えるなど、クリエイティブ面の挑戦の機会が多い。もしくは「90年代・レトロフューチャー・学生服・ストリートカルチャー」などまとまった形でのコンセプト設計がしやすい。
タイアップが主たる目的のリリースじゃない:ドラマ内容や出演メンバーを軸にするなどの制約を受けない。リリースを制作進行によって後ろ倒しにすることが物理的には可能(YGエンターテイメントとか毎回遅れてる...)。
リリース頻度:一概に言えないがデザインを試行錯誤する時間的余裕がある。コンセプトを咀嚼してアーティストと何度もやり取りをして数ヶ月に渡りデザインをするという例も、BTSの「Map of the Soul: 7」の制作インタビューより見て取れる(次回紹介)。SMの場合は、そもそも社内にデザイン制作の中枢があるため言わずもがな。
選抜形式でない(+α)AKBや坂道グループのように、ジャケ写に映る人物のレギュレーションが 通常版,Type-A,B,C,... で決まっているものに比べると、フォトディレクションの制約は少ない。逆の見方をするとAKBや坂道グループは、これが様式美の域に達しているので凄いとも言える。

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日本ローカライズ

次は、K-POPとJ-POPというジャンルにおける差ではなく、K-POPの日本ファンがどうターゲティングされているのか成果物から見てみたい。K-POP収益の多くを未だに担っているのは日本市場であり、そのため日本語ローカライズされたアルバムを出すことはどんなトップグループもやってきた。日本リリース版のパッケージデザインは東京の「united lounge tokyo」が数多く手がけている。次回の韓国デザイナー紹介に載せる本国版のパッケージデザインと比べてみると面白い。本国版のフォーマットに習いつつも、ジャケットは必ず写真でJ-POPアイドル市場に馴染ませる配慮が見える。

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ファンと挑戦

さて最後に、ここまで割と冷静に分析してきておいて、急に極端な論法をすることを先にお詫びしたいのだが、あなたなら前節までの内容を踏まえ次のどちらでクリエイティブ・ディレクションするか問いたい。

「攻めたデザインになってしまったし、リッチに作ったせいでリリースの時期が遅れて待たせることになるが、ファンは結局買ってくれる」
「ファンは結局買ってくれるから、いつものパッケージフォーマットで発注し、短いスパンでのリリースでも効率化してタイアップや特典対応をする」

もし前者なら、前回解説したNCTリブランディングのようなイギリスのデザイン会社の感性に委ねる決断もできる。その結果ファンの間で賛否両論な以下のフォトブックも出来上がるだろうが、ファンは次第にデザインの目を養っていく。語り草となるアウトプットはいつも挑戦の産物だ。

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これについては韓国と日本がどちらかという以前に、ぞれぞれの国でも無数のグループとファンダムの規模があり、一通りの結論はもちろん無い。寧ろ両国それぞれの最適化を追求した結果が、今のビジュアルディレクションやパッケージデザインとして反映されているだけに過ぎない。

ただ、それを踏まえた上でも私が勝手ながら思うのは、前回まで紹介したSM・クレジットをちゃんと載せるBigHit・ジャニーズ・AKBといった老舗もしくは最大手には、ファンダムの大きさに比例して、文化のクリエイティブの風潮を左右する責任がリリースごとにあるということ。

例えば、王道が王道たり得ればカウンターパートが生きてくる。坂道グループのクリエイティブがデザイン雑誌などで特集されるほどになるのは「AKBのライバル」という挑戦者の役割を最初から担えていたからでもある。
逆に王道が挑戦的であり続ければ、その姿勢がクリエイティブの成功例となり裾の尾が広がっていく。SMはK-POPでジャニーズほどの影響を持ちながらクリエイティブでは(少なくともミンヒジン時代)常に亜種であり続けた。

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次回

次回はK-POPのパッケージデザインがどのように生まれるのか、制作者を知るところから入る。J-POPアイドルのジャケットデザインについて書いてないがそれは次の概論Bにて。


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