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K-POPのデザイン2: ポスト・ミンヒジン

前回からの続き。前回言及したNCTの作品の詳細をミンヒジン氏とそれ以外のアウトプットで比較した後、退任後のSMクリエイティブは具体的にどのように変わっていくのか考察したい。
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ミンヒジンが担当しなかったNCT

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現状SMでいちばん若手グループのNCTは、無限拡張をテーマにメンバー数に決まりがなく流動的な編成を行う。ザックリいうと多国籍グループ。そのユニットのひとつNCT127の"127"はソウルの経度で、ソウルから世界中で活躍するという意味が込められている。 
音楽的にも先輩グループのアジア中心だった市場を欧米にも広げようとしていると感じることができるのだが、それがクリエイティブの変遷にも表れていると思う。まず上の画像がデビュー直後から2017年までのミンヒジン氏によるビジュアルワークである。

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そして、NCTだけは在籍中の2018年から外部のデザイン事務所やSM社内でも別のディレクターが担当するようになった。「NCT 2018 Empathy」のビジュアルディレクターはSM社内のイムエレナ(EllenaYim/임승은)氏、実際の制作は ORDINARY PEOPLE という韓国のデザイン事務所が担当。この前後を比べてみると、情報量が多くアジア的なグラフィックから、要素を絞った欧米的グラフィックデザインに変化しているように見える。

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さらにその後のアルバム2作「Regular-Irregular」と「Regulate」は、イギリスのデザイン事務所 MMBP が担当し、それまでNCTで使用されていたロゴのリブランディングも行う。画像右上のフォトブックの写真はデザイン性が高すぎて、ファンからすると素直に喜べるかは分からないが。

ミンヒジン氏がNCTのビジュアルディレクションを退いた経緯は不明だが、ここまでの変化を見るとミンヒジン作品特有のフェミニンな雰囲気は無くなり、ジャケットデザインだけ見ればソリッドで未来的・幾何学的なグラフィックが採用されるようになった。ポップ・エレガント・レトロ・ファッション的世界観が十八番のミンヒジン氏にとって、このソリッドさが唯一射程外なのではと私は感じる。

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それ以降はSM社内のイサンミン(LeeSangmin/이상민)氏がビジュアルディレクションを担当。「We Are Superhuman」ではレトロフューチャー、ミンヒジン氏退任後リリースの「NEO ZONE」では90年代カルチャーをリブートしたようなティーザー動画やステッカーといった要素が随所に見られる。

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退任後、最近の傾向

ミンヒジン氏退任後のSMは、キムセジョン(KimSeajun/김세준)氏と前述のイサンミン氏が主にビジュアルディレクターを務めていると思われる。このキムセジョン氏は、ミンヒジン時代はずっとスタイリストとしてクレジットされていた。そして、NCT以外も含めた最近のSM全体には「フォント・テクスチャ・写真」にいくらかの傾向が見える気がする。

フォント:クセの強いセリフ体、大味でオールドタイプなゴシック体
テクスチャ:壁ポスター・ビニールのシワ、紙の破れ
写真:フィルターがかった色味、ファッション誌のようなモノクロ

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テクスチャ画像の右上はJYPエンターテイメント所属の新人グループ itzy の最新ビジュアルのひとつなのだが、この手法はSMに限らず最近よく見かけるようになった。写真のテイストに関しては、InstagramやVSCOによる若い世代のレトロブームが関係しているのではないかと思う。

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SMクリエイティブの変化

ここでひとつ仮説を立てるなら、これまでのミンヒジン氏のディレクションは彼女のバックグラウンドやアートフィルムの嗜好から成る「ストーリーテリング的世界観」であり、現在のキムセジョン氏はスタイリスト出身から来る、特定の時代のカルチャーをうまく取り入れる「ファッション誌的世界観」と言えるのではないだろうか。

ミンヒジン時代にはティーザー考察など、全ての制作物に物語性を強く感じるものが多かった。逆に悪く言えばアーティストに並ぶほどミンヒジンという個人が制作物に反映されていると捉えることも出来るし、ごく一部ではあるが「彼女お気に入りメンバーとのそれ以外の格差・自分のアイデアの再生産・オマージュの多用」などの意見も見られた。

対して現在は、スタイリングへのトレンドの取り入れ方、そしてなんと言ってもアルバム同梱のフォトブックのデザイン性の向上はあると思う。ただ物語性や突出した個性は薄れた印象があり、またデザイン性を重視する反面、アイドルの写真が良くも悪くも制作物を映えさせるためのイチ素材として機能しているため、ページレイアウトやフォトディレクションの面で「とにかく大きく顔写真が見たい」というようなファンサービスは不足しているのかもしれない。

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次回

また思っていたより長くなってしまったので、以下は次回に。


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