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K-POPのデザイン9: ミンヒジンのライバル

今でこそ多くの事務所がパッケージを始めとした細部にもクリエイティブ投資をしているが、K-POP第2世代の時代からSM同様に社内でクリエイティブディレクション文化を育ててきたのはYGであった。「SM's Art Director vs YG's Art Director」という記事がよくあるのはそのためだろう。そのYGの礎を築いたチャンソンウン氏とシンシティ氏を勝手にミンヒジン氏のライバルとして紹介したい。

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Jang Seong Eun @MA+CH

Creative director (ex. YG Entertainment)
Psy, BIGBANG, 2NE1, Taeyang, AKMU, Lee Hi

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まずチャンソンウン氏は、2013年YGを離れ自分の会社を設立しフィールドを広げたため現在K-POPの中心人物ではなくなっている。それに彼女の作品に特別思い入れがあるかと言えば個人的にはそうでもない。ただ以下のスピーチ(英語字幕)にある生い立ち・学生時代・YGに移籍するまでのプロセスを聞くと、ミンヒジン氏と対称的で興味深い。

チャンソンウン氏は、大学の授業でとった工業デザイン入門で初めてデザインの世界に触れるまで、興味や知識も全くなかったという。その授業で魅力に気付いてからはデザイン職に就きたいと思うようになるも、それまで全く勉強してこなかったため大きな不安があり、卒業後は教授の紹介で会社に就職。しかしその後3年間実践を通してデザインを学びながら、2004年からYGから外注を受けるようになり、最終的にはYGに引き抜かれ移籍した。

対してミンヒジン氏のバックグラウンドは連載最初の記事でも触れたが、祖父の影響で子供の頃からデザインも身近な環境で育ち、早くから美大を志し新卒でSMに入社して社内でその影響力を高めていったというものだ。

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またスピーチの中でチャンソンウン氏は、職業人としてクライアントに寄り添う姿勢に言及しているが、これは外部のデザイナーとして古巣YGとの関わりをスタートさせた経緯もあるかもしれない。またYGはアーティストそれぞれの個性が強いため、彼女のこの堅実な姿勢は制作上アーティストと自然とマッチしていたのだろう。

デザイナーのあるべき姿勢とは、技術やセンスをひけらかす事なくクライアントについて親身に考えることだと思います。「デザインとはクライアントと同じ景色でものごとを見て提供するもの」というのが私の哲学です。

一方のSMといえばコンセプトアイドル、つまりアイドル自身がいかにアルバムやビジュアルごとのコンセプトを高い水準で再現できるかという点を求める。結果ミンヒジン氏のような強烈な世界観や、現在の複数ディレクター体制により多様性が生まれたスタイルが機能しているのだとも言える。

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さらにチャンソンウン氏は「プロセスブック」という独自のインスピレーションの源流についても語っている。彼女は一般的なポートフォリオの代わりに、成功しなかった事例も含め自分のプロジェクトのアイデアや過程の全てをスクラップブックとして大切に記録している。そこから次のインスピレーションを得る事もあれば、過去の多くの失敗事例が逆に挑戦を恐れないモチベーションに寄与するのだという。

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SJ "Sinxity" Shin @AXIS

Creative director (ex. YG Entertainment)
BLACKPINK, KATIE, iKON, WINNER, ONE
instagram: @axisccp
instagram: @axis_sinxity

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シンシティ氏は、YGでクリエイティブ最高責任者・ブランド戦略最高責任者としてスタイリング・コンセプト・MV・ジャケットなどビジュアル面を統括してきた。YG総合プロデューサーであるヤンヒョンソク氏と音楽プロデューサーTEDDY氏同様にBLACKPINKの立ち上げに大きく寄与した一人でもある。2018年独立し、クリエイティヴプラットフォーム「AXIS」を創業。

AXISの第一弾アーティストであるKATIEも元々はYGからデビュー予定であったが、シンシティ氏が全てをプロデュースしてきた経緯もあり、彼のYGからの独立を機にAXISからのデビューをヤンヒョンソク氏が勧めたのだという。ビジュアルディレクターを務めるNYLON出身のKaori Fukada氏含め、AXISあるいはYG時代のシンシティ氏のプロジェクトにはスタイリング面で日本人が多く関わっている。

シンシティ氏は、韓国音楽業界でしばしば話題となる「買い占めによるチャート操作(サジェギ疑惑)」に対して、Instagramでその業者の金額表を投稿し問題提起したことがある。そしてそれがK-POPなど特定のジャンルに限らず横行しており、正当な競争は失われているのだと主張した。

また、BLACKPINK LisaとNCT MarkがK-POP第3世代で最も優れたアーティストであるとInstagramに投稿し話題にもなった。インタビューで彼は、第3世代の次は、Z世代・ポストミレニアル世代というK-POPとその他のPOPなどジャンル区別に囚われない層をターゲットにした「Zウェーブ」を予想しており、AXISが目指す音楽もK-POPに限ったものではないとも語った。

クリエイティブディレクションの功績以外にある、この上記2つのような例は、彼が大学でMBA(経営学修士)を学んでいたことから来るマクロな問題意識にあるのだろうと思うと、他の2人とはまた異なる存在だ。オカモトレイジとの対談でもビジュアル的視点より業界全体の構造の話が印象的だ。

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いま奇しくもチャンソンウン氏・シンシティ氏・ミンヒジン氏はそれぞれ古巣を離れ、新しいフィールド、新しいZ世代の音楽、そして新しいアイドルグループの立ち上げに取り組んでいる。

BigHit移籍後「TXTのMVがミンヒジン的」や「MOTS :7 THE JOURNEYのイラストレーターがCherryBombと同じ」などの憶測が色々あるが、現状正式クレジットで確認できるのは、新グループ立ち上げのためのPlus Global Auditionのみ。そこにはSM時代ともに制作スタッフだったYemin Kim氏とNayeon Kim氏の名前もある一方、同じく当時制作スタッフだったWoocheol Jo氏は、前述紹介の通りSMに残りアートディレクターを担当している。

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次回

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