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K-POPのデザイン10: アートに寄り添ったBigHit

第2世代を牽引したビッグ3のひとつであり前回紹介したYGに取って代わるように近年台頭しているのはBTS率いるBigHitであり、そこへ移籍したミンヒジン氏の記事からこの連載も始まった。彼らの近年の活動は音楽的功績を超えた今までにないアート領域への本格的な挑戦にも見える。そして他のビック3であるSM/JYPについても音楽以外の観点でどのような事が言えるのか順に考察したい。眉唾物も含めいつもより雑な見解なのであしからず。

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BTSはアートプロジェクト『CONNECT,BTS』を今年発足し、パトロンとして世界5都市22組の現代美術アーティストの展示を後押しした。プロジェクトのキュレーターDaehyung Lee氏が述べるように、この背景にはBTSがグローバルグループとしての地位を確立したこともあるが、彼らの芸術への愛と熱心さが動機でもあるだろう。

リーダーのRMは各地のギャラリーや美術館を訪れる姿が度々目撃され芸術愛好家としても知られているし、Vは自身がペインターでもある。そしてこの展示のオーディエンスの多くははやりファンダムであるし、これはBTSを入り口とした芸術への橋渡しとなる一種の啓蒙でもあるのだ。

BigHitにてガールズグループ発足を任されたミンヒジンについても、以前紹介した彼女のバックグラウンドから垣間見えるK-POPを仲立ちとしアートな価値観を展開する点で、BigHit/BTSの目指すそれと共鳴し得るだろう。

そして前述のアートプロジェクトがアナウンスされて間もなく、BTSは新曲をMVではなくアートフィルムという形で発表した。自分たちではなくダンスカンパニーを起用しあくまで作品作りを最優先する姿勢には、自身の代名詞をアイドルではなくアーティストだと言い続けてきた所にも通ずる。

またBigHitは、2018年無断で写真集を製作販売した会社に対して訴訟を起こし、最近最高裁ではその違法性が認められた。これまで韓国はアメリカなどとは異なり芸能人の肖像・氏名・写真が持つ財産的価値をパブリシティ権として認めておらず、事前協議のない写真集出版に禁止を求める法的根拠がなかったのだという。つまりこの判決は、BigHitだけでなく芸能分野に関しても大きな意味のある出来事だったのだ。

ただ今回の発端は利益先行商売を行った会社に対して始まったことなので、いわゆる「マスター文化」を滅するような姿勢に舵を切ったかというと断言はできない。実際マスター文化と権利問題のグレーゾーンこそが、K-POP全体の今の発展に大きく寄与してきたのは明らかだからである。ではそのグレーゾーンに言及してアーティストの知的財産権を保護する以外の成果はあるのかと考えると、これは完全に個人の妄想だがアート業界に打って出るに当たっての一種の禊だったのではなかろうか。知的財産の侵害を構造的に黙認しながら国際的アートプロジェクトのパトロンをするというダブルスタンダードでは、もはや居れないほどの存在になったのかもしれない。

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次回


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