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未来の学校に出会った

ここは2020年の世界。私は11歳のトヨミ。秋山第三小学校に通っている。突然現れた変なウイルスのせいで、学校が何ヶ月もお休みになっていたので、私はとても退屈していた。でも、今日から学校がまた再開したんだ。しかも、6年生として初めての登校。

いつもより早く家を出て、3ヵ月ぶりに、いつもの通学路を歩いて学校に向かった。

見なれた校門をくぐる。だが、くぐった先にある学校は、少し変なことになっていた。

トヨミ「あれぇ…何ここ!?」

そこには巨大なディスプレイがあったからだ。

何が何だか、分からない。休校前まであった校舎はどこへ行ったのか。
そこへ、後ろから声がかかる。きっとシオリだ。シオリは私の親友で、私を見つけると真っ先に、嬉しそうに話しかける。

「おっはよーう、“カズミ”ちゃん!」
カズミ。確かにその子は私をそう呼んだ。
けれど、その顔と声はシオリと区別がつかないほどよく似ていた。
トヨミ「あ、う、うん…。えーと、シオリちゃん…?」
反射的にそう答えてしまっていた。
サユリ「…?あたしはサユリだよ!カズミちゃんったら相変わらずの天然ぶりだねぇ。早く早く、授業はっじまっるよ~!」
トヨミ「えっ、ちょっと、待ってよ!私は、秋山第三小学校は…」

幼なじみで私と同い年のシオリにそっくりだけど、今目の前にいる子はサユリと言うらしい…に、ぐいぐい手を引っ張られて、学校の中へ入った。一瞬だけ顔を上げて学校の名前を確認すると、確かに「秋山第三小学校」と書かれていた。

朝8時40分。登校の時間。1つの教室には15人の子どもたちがいる。私より年上の子も年下の子もいる。どうやらその14人全員が、私が“カズミ”ではなく“トヨミ”であることに、気づいてないらしい。
おまけに、そのカズミは天然キャラで通っているらしく、自分が「別人」のトヨミだと言ってもなかなか信じてもらえない。

そこで、私は小説で読んだことのある「記憶そうしつ」のふりをして、この学校のことについて聞くことにした。

トヨミ「ねえ、サユリちゃん…だっけ。教室にいる子どもがすっごく少ないけど、他の子たちはどうしたの?みんなお休みなの?」
サユリ「いつもこんな感じだよ。全員いるよ」
トヨミ「私より年上の、中学生くらいの子もいるし、年下の2年生くらいの子もいるよ?」
サユリ「そんなの誰も気にしないよ。それに、入学の時に校長先生がおっしゃってたんだ。『年の数と成績は関係ない。成長していくスピードは一人ひとり違う』って。だから、誰もそのことでいじめたり、からかったりしないよ」

そう話しているうちに、担任の先生が入ってきた。

先生「今日は午前授業の日なのでお昼で終わります。何か質問はないですか?」

サユリ「先生、カズミちゃんが“記憶そうしつ”になって、この学校のこと全部忘れたみたいなんです」
先生「そうですか…。カズミさん、どこか痛むところはありませんか?」
トヨミ「はい。特に体が痛いところは…無いです」
先生「何かあればすぐ保健室に行きましょうね。勝手に行っても、保健室の先生がすぐに私に連絡するので、誰も怒りませんから」
先生はふふ、と笑って話を続ける。

先生「さて、記憶を無くしたということは、この学校に入学してきたことと同じですね。秋山第三小学校では、朝の連絡会が10分ほどあって、その後すぐに授業が始まります。
朝8時50分から10時20分、10時50分から12時20分までが午前の授業。今日は午前中で終わりますが、13時20分から14時50分までが午後の授業です。
この学校には時間割が無いので、その間何をするかは、子どもたちが自分で決めます。一人ひとり好きなことを学べます」

最後に今日も頑張りましょうと言って、先生は教室を後にした。

建物ばかりか中身も全然ちがう。名前は確かに「秋山第三小学校」だったけど、本当にそうなのかな。

さっそく午前の授業が始まる。

トヨミ「(えーっと、何しよう?)」
ふと、トヨミは周りを見回す。

トヨミの学校では、クラスの全員が同じことを同じようにやっていた。
だが、ここでは本当に皆やってることが十人十色。ある者はロボットを相手にプログラミングをやりにコンピューター室へ行き、ある者は家庭科室へプロの料理を教わりに行った。教室には数えるほどしか人が残っていなかった。
隣にいるサユリは、黙々と宇宙のことを調べている。
さんざん考えて、教室に置いてあった3Dプリンターから、新しいスマホケースを作ることにした。説明書を見ながらパソコンで設計し、スイッチを押す。

トヨミ「(好きなようにできるのは楽しいけど、自分で何をするか考えて決めるのって、結構頭使うなぁ。ヒマだなんて思わないで、自分のやりたいことを見つけてテキパキ動ける皆は、すごいなぁ。
あれっ…これって、学校に行けなかったとき、退屈とかヒマだとか思っていたからってこと…?)」

そう考えているうちに、ラベンダー色の四角い箱が現れた。

2時間目。
算数…ではなく数学を続ける子や、ディベートをしに別の教室へ向かう子がいた。
私はと言うと、図工室でイラストレーターに色の選び方や人物の描き方を教わりながら、色鉛筆で絵を描く練習をしている。一度プロから教わってみたかったんだ。
夢中で描いているうちに、あっという間に時間が過ぎていった。

10時20分。30分もある長い休み時間になる。校庭や体育館で遊ぶことも出来るし、図書室に行って好きなだけ本を読むこともできる。音楽室でギターを弾くこともできる。

私は教室に戻ってくると、机の上にあるものに気づいた。
トヨミ「え、何?あの子、お菓子(かし)を持ってきてる…?って、サユリちゃんまで?」
サユリ「この時間は休み時間でもあるけど、おやつの時間でもあるんだよ。家から持ってきた好きなお菓子や果物を食べることができるんだ」

トヨミ「そうなんだ!あっ…でも、今日は持ってくるの忘れちゃった…」
サユリ「忘れてきても大丈夫!学校には秘密の冷蔵庫があって、中には甘い物が何でもそろってるよ。そこから自由に選んで食べることができるってさ」
サユリの案内で冷蔵庫の前に立ち、扉を開けると本当に何でもそろっていた。しかも大好きなウエハースが目の前に!すっかり嬉しくなった私は大急ぎで教室に戻る。

でも、甘味にかぶりついても私の疑問はふくらむばかり。
トヨミ「(いつの間に学校でお菓子が食べられるようになったんだろう?)」

そして、10時50分。3時間目。

サユリに誘われ、トヨミは二人で校庭にある巨大なアスレチックのてっぺんにやって来た。
目の前に見えた校庭のトラックでは、小さな子どもたちが鬼ごっこをしている。

まるで休み時間の続きみたいだ。
トヨミの学校でやっていたように、例えば50m走でタイムを測ることがないので不思議に思った。

トヨミ「ねえねえ、また分かりきったこと聞くけど…」
サユリ「50m走?ずいぶん物知りだね。体の動かし方や、基礎(きそ)体力がつく運動は学ぶけど、かけっこで競争したからといって順位を付けたりはしないよ。
あたしね、運動すると健康に良いってことを自分の身で試して学んだんだ。運動すると、その日の夜は何だかよく眠れる。それで、“大人になった後も、運動を好きになって健康でいて欲しいから。順位をつけて、運動が苦手な子が運動を嫌いになって、もっと運動しなくなるのは体に良くない”って、分かったよ」
トヨミ「(50m走を知らない…?やっぱりこの学校は何かが変だ!)」
サユリ「カズミ、なーに思いつめた顔してるの。校庭のとなりにある森の中を探検したら、昼ごはん食べに行こうよ!」そう言って、サユリはするするとアスレチックを降りていき、走り出す。私も後を追った。

へとへとになった頃、カフェテリアにやって来た。

トヨミ「おいしい…!」
サユリ「何たって今日はビュッフェの日だからね!」

普段は皆で同じものを食べるが、月に1度あるビュッフェの日には、色んな国の料理が学校に運ばれてきて、何でも好きな物を食べられる。

掃除の時間は無く、私たちが学校を出た後、全自動式掃除ロボットがやってきて、学校中をきれいにしてくれるのだそう。

学校が終わっても、好きなように過ごす。本好きなユキちゃんは図書室へ向かい、ダイくんはダンスを習いにコーチの元へ。部活動やクラブ活動は無いけれど、これも放課後の時間をどう過ごすか、自分で考えて欲しいからだという。

そして私とサユリは、教室に残った。いつもと違う学校の手がかりを探すために。
ふと、教室の壁に目を向けると、画用紙のように大きな画面にカレンダーが出ていた。
今までどうして気がつかなかったんだろう。
近づき、表示されている文字を見て絶句した…「今日」は2120年6月10日。
トヨミ「(うそ…)」
私、100年後の未来にいるんだ。それなら今までのこと全部、納得だ。

サユリ「どうしたの?」
トヨミ「ねえ、サユリちゃん」

帰る方法は分からない。でもここを出たら、もう会えない。そんな気がしたから。

トヨミ「ありがとう」
そう言って、持っていた黄色と緑色のミサンガをサユリに渡した。
トヨミ「これ!いつもの、感謝(かんしゃ)の気持ちとして!」
サユリ「どうしたのさカズミ…ふふっ、ありがと。じゃあこれ、私からも」
私の小さな手に、青と白色のミサンガが握られた。22世紀にもミサンガがあるんだ…。

サユリ「じゃあ、カズミちゃん、また明日ね」
トヨミ「うん、じゃあね」

校舎を出て振り返ると、元の秋山第三小学校に戻っていた。

トヨミ「夢だったのかなぁ…」

いいや、これは夢なんかじゃない。間違いなく未来の世界に行ったんだ。ポケットにあるスマホケースと、手首についている青と白のミサンガが物語ってる。
もしかすると、カズミという私にそっくりな子どもは、私の孫かひ孫なのかもしれない。そして、もしかしたらサユリは、シオリの孫かひ孫ということなのかも、と想像した。

◇   ◇  ◇

後日、カズミとトヨミの前に、一人の天才科学者とタイムパトロールが順番にやって来た。
科学者の方は、トヨミたちとあまり変わらないくらいの幼い子どもだった。

二人の話を聞くと、何でもその子が行ったタイムマシンを使った実験により、2020年の世界と2120年の世界が繋がってしまい、トヨミは22世紀の秋山第三小学校に来てしまった。一方、トヨミの子孫であるカズミは、21世紀の学校に行っていた。今回二人が訪ねてきた理由は、そのお詫びに来たからだという。

カズミ「もう!あの時は幻を見てるのかと思ったよ。昔の学校ってあんな風なんだな」
サユリ「そっかー。あのとき私が会ってたのが、カズミちゃん…じゃなくて過去から来たトヨミちゃん!だから、様子がおかしかったんだね。あははは、それにしても、双子みたいにそっくりだったな」
カズミ「へえ、そんなに?私のご先祖様、かぁ…。会ってみたいなぁ」
サユリ「じゃあトヨミちゃんには長生きしてもらうよう、お祈りしないとね!何たって100年後だからね!」
カズミ「もしかしたら、サユリちゃんのご先祖様もいたりして…!」
二人でカラカラと笑った。

一方、2020年の世界では。
タイムパトロール「私たちがそれぞれの世界の様子を見ながら、あなたたちが校舎を出ていくタイミングで元に戻しました」
科学者「もし、未来の学校で過ごした一日が苦しかったなら、あなたの記憶を消すこともできますが…どうしますか?」
トヨミ「ううん、良いよ。せっかくサユリちゃんと仲良くなれたし。思い出を消すなんてもったいないよ」

科学者「そうですか、」ですがその代わり、と続ける。科学者「この事を一生誰にも話さないと約束しますか?そうすれば、時間の流れがおかしくなること無く、あなたの子孫とあなたのご友人の子孫が…出会えるでしょう」
トヨミ「する!絶対約束する!」

遠い未来で、「私たち」がまた会える。そう確信したから。今、自分が何をするか、自分の頭で考えようと思った。

(おしまい)

後書き

22世紀ともなると、そもそも学校に通う人はいるのか?授業も宿題も何もかもオンラインになっているのでは?と思うのですが、私自身は、既存の学校も「学びの手段の一つ」と考えているので、通学制が存在する世界線で書きました。

あとオチを考えるのってすごく難しい。

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