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【文章作成の基本】段落の分け方

なぜ、段落を分けなければならないか。

 中高生のみなさんの文章答案を見ていると、段落を分けていない人が多いこと多いこと。「書いていて息が詰まらないのかな……」と心配になります。でも、平気なんでしょうか。結構みなさん、続けざまに「no段落」で書いています(なんておそろしい……)。しかし言うまでもないですが、長い文章は段落を分けるべきです。読み手のためにも、そして自分(書き手)のためにも。

 以前も言ったように、全ての文章作法は「読み手のため」にあります。自分の考えを読み手にわかりやすく伝えるために、全ての文章作法はあります。段落を分けることもその一つ。想像してみてください(ジョン・レノン)、全く段落がなく文字で埋め尽くされている状況を。あなたは、その文章読みたいと思いますか。読みたくないでしょう。また頑張って(?)読んだところで、内容が頭に入ってきますか。余りの読みづらさに、読むことを放棄してしまうでしょう。だから、読み手のためにも、段落分けはするべきです。

 一方で、段落分けは、「書き手のため」でもあります。これはどういうことかというと、こう言えばわかるでしょうか。段落をつけないで文章を書いている、そこのあなた。あなた、ずばり「ノープラン」で書いていませんか。とりあえず書き始めたものの、どんな内容になるのか、どんな展開になるのか、考えずに見切り発車で書いていませんか。だから、あなたは、段落を分けないのではありません。実は、分けられないのです。なぜなら、今その書いている内容が、文章全体のどの辺りで、その先でどう展開するか、自身が全く予測できていない、というよりも計画していないからです。だから段落を分けられないのです。ということは反対に、段落を分けて文章を書くということは、どういうことでしょうか。それはあらかじめ、文章内容や展開が想定されているということです。ですから、「書き手のため」というのは、行き当たりばったりで文章を書いていくのではなく、段落を分けることで、自分の書きたい内容を整理し、展開を自身でコントロールしていくことができるメリットが書き手にもあるということなのです。

 「そう言われても、どうやって段落を分けるの」という声が聞こえてきそうですね。では、段落とはそもそも何か、というお話を次でします。

段落とは何か。

 そもそもどういう風に日本語の文章は出来上がっているのか、つまり文章の構成からお話しをします。「単語」、これが、まとまった意味のあることばの最小単位です。「単語」が集まって「文節」になります。単独のことばではなく、他のことばと関係性を作ることができる構成単位です。「文節」が集まって「文」になります。これは書き手の思想や考えを表すものの最小単位です。「人間は考える葦である」、これは哲学者パスカルの『パンセ』の中の一文ですが、このように、単なる意味ではなく書き手や話し手の考えていることや感じていることを表すことができます。ここまで、いいですか。
 
 さらにこの「文」が集まって、「段落」になります。「文」より一段上の文章構成単位です。生物にたとえると、「単語」が細胞核です。でも核だけでは生きていけません。そして「文節」は核が細胞壁やミトコンドリアを伴った状態。これだけでも生きていけません。で、「文」が細胞です。これでようやく完結した一つのシステムとなります。では、細胞が集まると……いきなり生物になるわけではありません。細胞が集まると各部分に役割が生じて、分化して器官が生まれます。いわば「段落」は器官です。ここは胃ですよ、ここは脳ですよ、ここは肺ですよと、多細胞化すると器官が生まれるのです。この器官が集まって構成されるのが一個体の生物、これが一つの「文章」です。(※「章」というのがありますが、ここでは省きます。)

 さて、「段落」は器官のようにそれぞれ役割と働きがあります。ここは肝臓、ここは腎臓という具合に、役割と働きが分かれています。たとえば、「問題提起の段落」、「意見提示の段落」、「理由の段落」、「具体例の段落」、「結論の段落」といったように、各「段落」には各々役割と働きがあるのです。文章が一つの生命体だとしたら、これ(文章)が正常に生命活動を営める(一つの伝わる文章として成立する)ように、「段落」という各器官が働きます。そして、この役割と働きがいわゆる「段落テーマ」や「段落主題」や「段落主旨」と呼ばれるもので、つまり段落を分けるというのは、各段落がこの役割と働きを全うできるように、役割と働きの違いによって各器官の間に線引きをしてやって、器官同士が各々の器官の役割や働きを阻害しないようにすることなのです。ここまでが脳、ここまでが呼吸器、ここまでが循環器と分けないと、生物はおかしなことになります。また呼吸器の役割や働きを消化器が担うわけにいかないのです。

 この場合、書き手はさしずめ「創造主」です。「あなたの文章」というあなたの生み出した生命体が健やかに生命活動を送れるように、この「愛すべき、あなたの生み出した生き物」を、あなたという「神様」はしっかりデザインする必要があります。

※ここでは小論文のような、「論理的文章における段落」を想定しています。小説などの文芸的文章における段落は、どちらかというと映画のカット割りやマンガのコマ割りに似ています。情景描写から心理描写に移るところや、地の文から会話文に移るところ、物語上の時間の経過のタイミングで段落分けをします。まあ、この辺はnoteで小説を書いている方の方が詳しいので、この話はこの辺にしておきます。

段落の構造

 ここからは実践的な話です。では、段落の意味や大切さを理解してもらった上で、段落の構造についてお話しします。段落というものがどのように作られている(作られる)のか、ということです。

 段落は、一つの段落主旨(簡単に言えばその段落で書き手が言いたいこと)によってまとめられています。これは一般的に段落の一番前の文か、一番後ろの文(あるいは両方)によって示されます。これを一般的にトピックセンテンスと言います。その段落で扱われているトピック(話題)について述べた文(=段落主旨)です。なぜ一番前と後ろなのか、というと、話は単純です。一番前は、読んでいてその段落に入ったところであり、この「入口」で読み手に「この段落から○○の話をしていくよ~」とお知らせをします(親切設計!)。すると、読み手は「あ、ここから具体例の話に入るんだな」とわかるわけです。一番後ろは、読んでいてその段落が終わる最後であり、この「出口」で「以上、この段落は○○の話でした~」と伝えます。すると、読み手は「ここまでが具体例の話なんだな」とわかるわけです。ですから、一番前と後ろのトピックセンテンスを置いておくと、読み手に対してよりしっかりガイドができます。

 段落の頭に置かれる接続詞及び接続語は、段落そのものを接続範囲としてとっています。つまり、その接続詞及び接続語は段落と段落をつなぐものであり、段落が一つの列車なら、接続詞や接続語は連結器と言えます。これは前の段落と後ろの段落を一対一でつないでいるものもあれば、複数の段落をつないでいるものもあります。たとえば、「たとえば」で始まる段落は、具体例の内容が書かれている段落です。「なぜなら」で始まる段落は、(意見をまとめた段落に対して)理由をまとめた段落です。「したがって」で始まる段落は、結論をまとめた段落、同じく「このように」で始まる段落も、今までの内容を包括的にまとめているので結論をまとめた段落です。このように、段落の頭に置かれた接続詞は、前後段落のつながりを示すとともに、その段落の役割や働きを教えてくれるものでもあります。

 段落の頭や一番最初のトピックセンテンス内にある指示語も、段落そのものを指示範囲としてとっていることが多いです。「多い」というのは常にそうではないですが、そういう風に使うことが多いということです。たとえば「それに対して」と始まる段落の場合、「それ」は前の段落全体を指していることが多いです。また「社会のIT化に伴う、いわゆるデジタルデバイドの問題について、このような報告があった。」と始まる段落の場合、「このような」はその段落そのものを指している(つまりその段落全体が「このような報告」の内容となっている)ことが多いです(ちなみにこの指示語のように、前にある内容ではなく後ろにある内容を指す指示語を『予告的指示語』と言う)。

 以上が段落の構造における主だった特徴です。つまり自分で文章を書く時には、こうした段落の構造を理解し、それに自覚的になって段落分けをすることが求められるということです。

 最後に段落が実際どのように使われているか、例文を引いて、確認しましょう。

段落の実際の使用例

 次の文章は、物理学者の中谷宇吉郎(夏目漱石の弟子だった物理学者で随筆家の寺田寅彦の教え子)著『比較科学論』の一節です。科学の研究方法の二つのタイプ(型)を挙げ、それぞれを比較、説明している評論文です。これを使って、実際の段落の構造と機能についてみていきます。

〈例文〉

1科学が今日のように発達して来ると、専門の分野が、非常に多岐に分れて、研究の方法も、千差万別の観を呈している。事実、使われている機械や、研究遂行のやり方を見ると、正に千差万別である。『しかしそれらの研究方法を概観すると、二つの型に分類することができる。』
2『その一つは、今日精密科学といわれている科学のほとんど全分野にわたって、用いられている研究の型である。』問題を詳細に検討して、それを分類整理し、文献をよく調べて、未知の課題を見つける。このいわゆる研究題目が決まると、それについて、まず理論的な考察をして、どういう実験をしたら、目的とする項目についての知識が得られるかを検討する。そして実験を、そのとおりにやって、結果を論文として報告する。
3『こういう種類の研究で、一番大切なことは、よい研究題目を見つけることである。』それが見つかれば、あといろいろと工夫をして、その問題を解いて行けばよい。比較的簡単に解ける場合もあろうし、非常に困難な実験をしなくてはならない場合もあろう。しかしいずれにしても、犯人は分っていて、それを捕えるという場合に似ている。相手が鼠小僧や石川五右衛門のような場合には、非常に複雑で困難な実験を必要とする。こそ泥くらいならば、ちょっとした実験ですぐ分る。『いずれにしても、犯人が分っていて、それを捕えるのに難易があるのであるから、これは警視庁型といった方がよいであろう。』
4『ところが、これに反して、犯人の名前が分らないばかりでなく、犯人がいるかいないかも分らない場合もある。』アマゾンの上流、人跡未踏の土地へ分け入った生物学者の場合がそれである。どんな珍奇な生物がいるかもしれないし、またいないかもしれない。この場合も、探すのであるが、その探すという意味が、犯人を捜索する場合とは大分ちがっている。思いがけない新種の発見は、アマゾンの上流だけに限らず、物理の実験室の中にもある。『そういう新種を探すようなやり方の研究を、アマゾン型の研究と呼ぶことにする。』アマゾン型の研究の特徴は、いるかいないか分らない新しいものを探すのであるから、題目が与えられるのではなく、「地域」が与えられるのである。生物の新種発見の場合ならば、この「地域」は、アマゾンの上流であるが、物理学の場合は、それはどこでもよい。自然界にあるすべての物質と勢力とが対象であるから、自然界の全部が、その「地域」である。
5こういう風にいうと、警視庁型とアマゾン型と、全く別の二つの型があるように思われるかもしれない。『しかし本当は、この両者が融合した場合に、よい研究ができるのであって、以上に挙げた二つの型は、その両極端を指しているのである。』問題は如何にしてこの両者を融合させるかという点にある。『しかし話を分りやすくするために、両極端の場合について考えてみよう。』

中谷宇吉郎著『比較科学論』


※段落番号とトピックセンテンスの二重カギは〆野がつけた。以外は原文ママ。

〈解説〉

一段落目

段落終わりのトピックセンテンス「しかしそれらの研究方法を概観すると、二つの型に分類することができる。」により、「(科学の)研究方法は二つの型に分かれる」というのが、この段落主旨だとわかる。

二段落目

段落頭のトピックセンテンス「その一つは、今日精密科学といわれている科学のほとんど全分野にわたって、用いられている研究の型である。」により、二つある研究方法のうちの一つがここで説明されていることがわかる。

三段落目

段落頭のトピックセンテンス「こういう種類の研究で、一番大切なことは、よい研究題目を見つけることである。」により、引き続き一つ目の研究方法について説明されていることがわかる。なお、「こういう種類の研究」は、一つ目の研究方法についての説明である二段落目全体を指している。また、段落終わりのトピックセンテンス「いずれにしても、犯人が分っていて、それを捕えるのに難易があるのであるから、これは警視庁型といった方がよいであろう。」により、ここで一つ目の研究は、「犯人がわかっている警視庁型」と呼んでいることがわかる。

四段落目

段落頭のトピックセンテンス「ところが、これに反して、犯人の名前が分らないばかりでなく、犯人がいるかいないかも分らない場合もある。」により、この段落からは二つ目の研究方法についての説明であり、それは「犯人の名前が分らないばかりでなく、犯人がいるかいないかも分らない」タイプの研究方法であることがわかる。なお、「ところが」、「これに反して」は三段落目に対する接続語であり、一つ目「に対して」二つ目の研究方法という意味。ここでは中盤に置かれているが、トピックセンテンス「そういう新種を探すようなやり方の研究を、アマゾン型の研究と呼ぶことにする。」により、二つ目の研究は、「アマゾン型」と呼んでいることがわかる。なお、この前後はアマゾン型の研究方法の説明。

五段落目

ここは二文目の「しかし本当は、この両者が融合した場合に、よい研究ができるのであって、以上に挙げた二つの型は、その両極端を指しているのである。」がトピックセンテンス(「しかし」の後に筆者の主張が展開されているため)。「警視庁型とアマゾン型の研究方法はその両極端だ」というのがここの段落主旨。それは段落終わりのトピックセンテンス「しかし話を分りやすくするために、両極端の場合について考えてみよう。」でもわかる。そして、この後は、この両極端な二つの研究方法を説明していく。

 このように、トピックセンテンスを設けて、読み手に段落主旨を伝えながら、段落頭のトピックセンテンス上にある接続語と指示語で前後の段落をつなぎ、文章を展開していきます。みなさんも文章(小論文や志望理由書)を書くときには、これらを意識して、適切に段落を設けて文章をまとめていきましょう。

付記:例文引用に関しては、青空文庫さんを活用しました。



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